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[ サスペンス ]
ワイルダーの手
シェリダン・レ・ファニュ 出版月: 1981年10月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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国書刊行会
1981年10月

No.1 6点 2020/05/10 10:46
 ヴィクトリア朝中期の十九世紀イギリス、ジリンデン村。複雑ないとこ関係で結ばれたブランドンとワイルダー、そしてレイクの三家は性悪ぞろいの一族で、共通の先祖の血統には狂気と極悪の性情が流れ、女たちは運命を翻弄され運命を嘆くのみだった。彼らは代々土地財産所有権を巡って争っていたが、由緒深い大邸宅と広大な所領を誇るブランドン本家に現在嫡子はなく、指定相続人たる美しき黒髪の令嬢、ドーカス・ブランドンが未成年のまま残されていた。
 一族の長老チェルフォード老夫人は所領地の分散を防ぎ貴族間での地位を高めるため、いとこ同士を強引に結びつけようとする。彼女は蕩児との噂もあるワイルダー分家の長男、マークをドーカスの婚約者に選び、二人の婚約が大々的に発表された。だが礼節をわきまえぬ将来の夫に対する女相続人の視線は、冷ややかなまま。
 そんな折も折、これもとかくの噂があるもう一人の従弟、近衛連隊大尉スタンリー・レイクが軍籍を売って退役し、ロンドンからはるばるジリンデン村に舞い戻ってくる。ブランドン邸のそばのレッドマン峡谷に住まう妹・レイチェルは、マークと不仲な兄の突然の帰還におののき、従妹である親友ドーカスの未来に不吉な予感を抱くのだった・・・
 『アンクル・サイラス』と同じく1864年に発表された、レ・ファニュ三大長編の一つ。五十二章の前作を上回る七十四章の大冊で、おそらくはかれの最長作品。より通俗的なため『サイラス』ほどの凄みは無いものの、一年以上の長きに渡り村で繰り広げられる失踪事件や決闘沙汰、横領未遂や選挙活動その他を、ブランドン一族を中心にして描いたヴィクトリア朝大絵巻。スケールやスパンはそこまでではないにしろ、読後感はスチュアート・ウッズ『警察署長』に近いです。
 挙式を目前に姿を晦ますマーク・ワイルダーの謎が軸ではありますが、これにさほどの意外性はなく(まんま読者の予想通り)、むしろマークの後釜に座ったスタンリーと事務弁護士ジョス・ラーキンの悪党同士のせめぎあいや、事件に便乗したラーキンに財産復帰権(生涯不動産の相続権)を狙われる貧乏牧師ウィリアム・ワイルダーの運命が物語の主体。特に定まった探偵役がいるわけではなく、分岐した流れが徐々に一ヶ所に集まっていき、もともと不自然だった企みが決壊し押し流される形で終息します。
 ワイルダー家の紋章に描かれた警句「resurgam(我よみがえらん)」に暗示される物語。所々ゴシック要素はあるものの、最終的にオカルト性はゼロ。『夜明けの睡魔』で瀬戸川猛資さんが取り上げてましたが、まあ無理に読まなくてもいいかな。今の所レ・ファニュの長編は『アンクル・サイラス』だけでいいです。


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