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[ 青春ミステリ ]
卒業タイムリミット
辻堂ゆめ 出版月: 2019年11月 平均: 8.00点 書評数: 2件

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双葉社
2019年11月

双葉社
2022年03月

No.2 8点 パメル 2022/10/03 08:05
卒業式を目前に控えた三月。欅台高校の教師、水口里紗子が誘拐された。監禁されているその姿が動画サイトにアップされ、同校の教師や生徒、あるいは世間一般が事件を知る。誘拐犯はその動画において、七十二時間後に里紗子を始末すると宣言した。動揺する生徒たちのうち、四人だけは更なる衝撃を受けていた。彼らには、誘拐犯らしき人物から個別に手紙が届けられていたのだ。
まずは七十二時間というタイムリミットが作品に緊張感をもたらす。しかも、その七十二時間という設定が、卒業式が始まる時間と一致している点も意味深でワクワクさせてくれる。そしてそのカウントダウンが進む中で、里紗子が弱っていく様子が時折動画としてアップされ、それと並行して学園の秘密が明らかになっていく展開も絶妙。
また、この事件まであまり交流がなかった四人がチームとして結束していく様や、あるいは危機感の中で親や教師との関係に変化が生じていく様は、青春小説としての味わいを愉しませてくれる。ミステリとしては、ちょっとした、しかしながら十分に効果的な仕掛けもあるし、犯人が誰で動機は何かという謎もある。それに加えて、なぜ犯人がこの四人を選んだのかという新鮮な謎もある。それらの謎が鮮やかに解かれ、事件が着地し、そしてそれぞれが未来へと進み始める。そんな結末が青春ミステリとして実に素晴らしい。

No.1 8点 人並由真 2020/01/07 16:46
(ネタバレなし)
 開校5年目の私立高校「欅(けやき)台高校」3年生の卒業式を数日後に控えたその日、3年8組の担任で生徒達の人気も高い27歳の美人教師・水口里佐子が何者かに誘拐された。犯人は彼女を72時間後に始末すると宣告し、自由を奪ったその姿の動画をネットにアップ。明確な要求もないまま、一日に数回、その動画を更新する。警察も介入して高校周辺の教師も生徒も騒乱するなか、元不良の三年生・黒川良樹は「C」と署名のある人物から学校の屋上に呼び出され、この誘拐事件の解決に挑むよう挑戦を受ける。黒川のほかに呼び出されたのは、元サッカー部の荻生田隼平、学年一の美人の小松澪、そして黒川の幼なじみで学年トップの秀才女子・高畑あやね、みな黒川と同じ三年生だった。旧知の黒川とあやねも最近は疎遠で、四人の男子女子にはこれまでほとんど校内外での接点はない。四人はなぜ自分たちが選ばれたのか? との疑念を抱えながら、謎の誘拐事件に対して個々の推理を交換しあうが。

 2019年暮れの新刊。辻堂作品は合作をふくめてまだ数冊しか読んでいないが、とても面白かった。帯には「見事な伏線と鮮やかな結末。爽やかな読後感に包まれる青春ミステリーの傑作誕生!」とあるが、あながち誇張ではない。
 なぜ主人公となる4人の少年少女が選抜されたのかのホワイダニット、作品全体に仕掛けられたギミック、それぞれ決して斬新でも画期的なものでもないが、本作の器と主題によく馴染んだ使い方をしており、その意味で感銘する。
 しかし何より本作で最高級に際立ったのは真犯人の鮮烈な人物造形で、ここまで(中略)なキャラクターというのは、日本ミステリ史上でもかなり有数なのではないか。傷害、誘拐という犯行そのものはもちろん決して許される行為ではないが、その一方で、ある意味、不器用にそこに至らざるを得なかった犯人の(中略)に大きな手応えを感じた。その真相の開陳と同時に物語の細部をひとつずつ丁寧に詰めていくストーリーテリングの妙も、青春ミステリ、ヒューマンドラマミステリとして高い評価をしたい。
(あえていうのなら、最後の最後に明かされる真実に際しての、某・登場人物の反応。そこまで人間、優等生になれるか、とも思ったが、これはきっと私の心の方が、現実の塵芥のなかで煤け過ぎているのであろう……。)

 そういえば昨年2019年は、白河三兎の青春ミステリ路線は出なかったんだよなあ?
 個人的には、(もちろん作風や方向性の多少の異同はあれども)この作品が十分にその穴を埋めてくれた感じ。読んで良かった。


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