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[ 時代・歴史ミステリ ] ハリウッド・バビロン Ⅰ |
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ケネス・アンガー | 出版月: 1978年07月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
クイックフオックス社 1978年07月 |
リブロポート 1989年03月 |
パルコ 2011年03月 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2019/11/30 15:57 |
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「ブラック・ダリア」記念に、たぶんエルロイの記述のネタであろう本作をやろう。まあ知ってる人は知ってる、ハリウッド黄金時代のありとあらゆるスキャンダルを蒐集した奇書である。作者はアングラ映画の「魔王」ケネス・アンガー。自身のオナニーをネタにした「花火」やら、秘教的バイカー集団のヘルス・エンジェルスを撮影した「スコルピオ・ライジング」やら、ネオハードボイルドでよくネタになった70年代のサタニズムの教祖アレイスター・クロウリーの教義に即して作られた「ルシファー・ライジング」やら...評者もここら昔見たよ(「快楽殿の創造」がお気に入り!)。
で、このアンガー、ハリウッド育ちの土地っ子である。ガキの頃からスターたちのご乱行の噂を子守歌代わりに聞いて育った筋金入りの映画オタクである...アンガー自体映画を熱愛しながらも、アングラ作家としての名声(悪名)はメインストリームからは排斥されるものでしかなかった。だからアンガーは映画とハリウッドに対する愛憎を抱え込んで、聖像破壊であるとともにフェティッシュの極みであるようなかたちでしか、映画にしか向き合えない。「映画は悪である」というユニークな視点で、アンガー自身の愛と憎悪を込めて語る、ハリウッドの暗黒史が本作である。 ロスコ―・アーバックルの強姦致死事件、デズモンド・テイラー殺人事件、チャップリンの離婚騒動、トマス・H・インスの死を巡るハーストの疑惑、完璧主義者シュトロハイムの蕩尽、クララ・ボウやキートン、フランシス・ファーマーの発狂、セルマ・トッド殺し、エロール・フリンの強姦裁判、二枚目ギャングのバグジー・シーゲルの闊歩、などなどなど、汚れたスターたちのゴシップをはちきれんばかりに満載している。しかも写真も大量に掲載で、中には死体が写っているものもある。 しかしね、本書の内容は、あまり信じてはいけない...というのも有名な話である。たとえばアーバックルの強姦致死事件は、スターからの転落という結果にこそなれ、アーバックルの無罪は法廷で証明されている(この証拠集めに宮仕え時代のハメットがかかわったことがノーランのハメット伝に出ている)。インスの死とハーストはどうやら関係ないようだし...と、実のところアンガー自身「テレパシーで書いた」と公言するくらいに、信憑性のないものも多いようだ。としてみると、本作はドキュメンタリでも研究書でもなくて、アンガーの血まみれの幻想による「創作」と見るのが正しいだろう。だったら、本サイトでは実にストライク!な本となる。ミステリと映画と、どちらにも関心があるのならば、必読の部類の奇書である。 (戦前の事件を中心に扱ったⅠに続き、戦後の事件中心のⅡも続いてやります。「ブラック・ダリア事件」はⅡでのお楽しみ。思うに、ハリウッドと関りをもった第二期エラリー・クイーンの、1937年のあの作品のネタが、本書が教えるところによると、1935年のルー・テルジェンの事件にヒントを得たのでは...と評者は思うんだ。誰か調べた人いないのかなあ) |