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[ 短編集(分類不能) ]
地面師
梶山季之 出版月: 2018年12月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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光文社
2018年12月

No.1 7点 人並由真 2019/08/22 03:28
(ネタバレなし)
 1958年から1965年までに書かれた作者の作品6本を集成した中短編集。
 新章文子の『名も知らぬ夫』などと同様、国産ミステリ研究の第一人者・山前謙氏の選出と監修による、昭和期のミステリ作家の個人作品傑作集の叢書「昭和ミステリールネサンス」の一冊である。

 実は評者は梶山作品を一冊単位で読むのは今回が初めてだが、これはかねてよりこの作者について、いかにも昭和の色と欲の通俗ミステリ作家という、今にして思えば全く以てアレな、紋切型の偏見的な予断があったため(汗)。
 実際、梶山作品に散見する、女性蔑視というか軽視の視点は昔からよく婦人勢の攻撃の対象になったと聞いたような記憶があり、さらに一時期のミステリマガジンの読者欄「響きと怒り」の中で、某常連投稿者(やはり女性)が「たとえ無人島で他に読む本が無くっても、梶山季之と黒岩重吾の本だけは絶対に読みたくない!(大意)」などと語る、実にインパクトのある投稿なんかも読んだ覚えがある(笑)。

 それで「あーあ、この作家(梶山)って本当に嫌われてるんだな……」と世間の風評の影響を受け、自分自身も今までウン十年手を出さずに放って置いたのだが、一方で時代の変化、評者自身の加齢とともに「こういうのもいいよね」的に、受容する側の気分も次第に寛容になってくる(笑)。
 さらに何より、今回は前述のように、国内ミステリのアンソロジストとしては最大級に目利きの山前譲氏が、この傑作集をセレクト。
 ならば昭和ミステリ作家の個人傑作集として相応に面白いんだろうなと期待を込めて、この実物(短編集『地面師』)を手に取ってみた訳である。
 
 ――――結果、予想以上に、全6編ともしっかり楽しめた。
 最初、表題作の『地面師』の「誰が最後に笑うか」のコン・ゲーム的な小気味よさでいきなり盛り上げたその後に、かなり真面目なアリバイ崩しの推理もの『瀬戸のうず潮』で作者の作風の幅広さを実感。
 その2本に続く、法律の裏を書く犯罪劇『遺書のある風景』や企業間の策謀もの『怪文書』それぞれの短編のテクニカルぶりも味わい深い。
『冷酷な報酬』の、思わぬ方向にストーリーが転がっていくにつれて意外な事件の構造が見えてくる作りもよいが、読み応えの点では、企業間の抗争と策謀ものの面白さを十全に備えた最後の中編『黒の燃焼室』に止めを差す。
(ちなみに「黒の燃焼室」は梶山のいくつかの長編作品の物語の場となるタイガー自動車ものの一編であり、その意味でもたぶん作者のファンには興味深いだろう。)
 
 しかし梶山の長編作品は、短編とはまた味わいが違う趣もあろうが、少なくとも本書一冊を通じて作者が広義のミステリの妙味を理解し、話作りにも相応の力量があることはフツーに理解できたつもりである。
 ちかぢか、ミステリ要素の濃さそうな長編作品にまずは一冊、挑戦してみよう。


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梶山季之
2018年12月
地面師
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