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[ 本格/新本格 ]
樹海の殺人
別題『樹海殺人事件』
岡田鯱彦 出版月: 1957年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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春陽堂書店
1957年01月

小説刊行社
1960年01月

青樹社
1963年01月

幻影城
1978年01月

No.1 6点 人並由真 2019/07/13 00:26
(ネタバレなし)
 昭和32年10月。富士の樹海を分け入った奥地に建つ施設「富士研究所」。そこは、T大出身の理系学者・坂巻久が所長を務めていた。かつて20年前にこの土地の神官の家系の美少女・小林千鶴と結ばれた坂巻はそのまま小林家の入り婿となって神官職に就き、さらに本職の傍らで、15年ほど前に設立した研究所で学問の探究を続けていた。だが3年前に千鶴が病死したことから坂巻は神官職を辞して苗字を旧姓に戻し、神官を務めていた地元の「浅間神社」も縁者に託して、今は研究所の所長に専念していた。そんな中、坂巻は、今はT大で物理学の教授を務める元学友の田島亮(あきら)を研究所に迎え、久々の再会を果たした。田島はかつての憧れの君であった千鶴にそっくりな美少女、坂巻の娘の久美子に出会い、目を瞠る。実際、研究所の周囲には、久美子の美貌に心惹かれるものは多かった。だが田島が到着して三日目のその夜、坂巻の不在中に研究所の実験室で不測の爆発が生じ、田島が爆死した。事故か他殺かの確証がないまま、樹海の中の研究所は、その周辺でさらなる惨劇を迎える……。

 昭和32年、春陽堂のミステリ叢書「長編探偵小説全集」の一冊として刊行された書下ろし長編作品。同叢書の全14冊の中では楠田匡介の『いつ殺される』、鷲尾三郎の『屍の記録』(短編がオマケ)と、本作の三冊のみが書下ろしの完全新作であった。
 評者は今回、1978年に刊行された「別冊幻影城・岡田鯱彦編」で本作を読んだが、山野辺進の雰囲気もたっぷりのイラストの効果もあり、これぞ昭和の1.5線級の謎解きパズラーという感じで大部の長編を満喫した。

 ……いや正直、事件の真相に直結するキーワードの正体が見え見えだったり(初版刊行当時ならともかく、21世紀にこのミスディレクションにひっかかかる人はいないだろう……)、登場人物の配置がくっきりしすぎて容疑者が絞り込め過ぎたり……などの苦言は湧き出てくる。
 さらに、章立ての見出しも後半の方なんかもろネタバレだよね、とか、土地の警察の上層部がここまで一巡査に、民間人といっしょの行動を許可するはずねーだろとか、言いたいことは山のようにあるのだが(そもそもこの作品というか、犯罪と事件が、同世代の某作家のあれやあれなどの作品群の影響を確実に受けているだろうし)。

 それでもまあ実は、そもそもあんまり期待値も高くなかったので(汗)、これだけ雰囲気たっぷりに外連味豊かならいいや、という気分も大きい(笑)。
 最後のトンデモトリックは完全にバカミスの領域だが、これも作者があんまりドヤ顔で書かず(小説の章の見出しでトリックを暗示したりせず)、本当にごくそっと読者の前に出していたなら、この作品は佳作のパズラー(しかしトリックは特筆もの)という定まった評価に落ち着いたかもしれないんだけどね。ただしまあ、いろいろとややこしい事を考え、そんな自分の心のゆらぎに振り回された某登場人物の内面描写は良かった。ミステリの結構としては補完的な部分かもしれないけれど、そんなポイントに作者が力を込めたであろう感じはよくわかる。

 webなんかでは「ゆるい本格派」という評判なんかも聞えてくるし、事実そういう面もあるんだけれど、読み終わった瞬間にはかなりの満足感があったし、ちょっと時間が経って頭が冷えた今でもそれなりにキライにはなれない作品であった。


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