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[ 警察小説 ] ポーラー・スター アルカージ・レンコ |
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マーティン・クルーズ・スミス | 出版月: 1992年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
新潮社 1992年01月 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | 2019/06/25 03:18 |
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(ネタバレなし)
時はソ連国内にペレストロイカの新風が吹き始めた1980年代。シベリアとアラスカの間、ベーリング海峡からアリューシャン列島に及ぶ海域で、乗員300人弱のソ連の大型漁獲加工漁船ポーラ・スターは、米ソの合弁事業としてアメリカの小型トロール船二隻とともに長期漁業に従事していた。だがそんなある日、ポ-ラ・スター号の厨房係で、漁業計画に関わる三隻の漁船の乗員である複数の男性たちと肉体関係を持っていた若い娘ジーナ・パチアシュヴィーリの変死体が発見された。ポーラ・スター号の船長ヴィークトル・マルチューク、そして中央政府から派遣されていた政治士官のフェードル・ヴォロヴォーイ一等航海士は、形式的で作業現場の実状を無視したモスクワの干渉が及ぶ前に、この事件の真相を独自に明らかにしようと決定。捜査役を、魚の加工係である一人の中年男性に任せる。彼の名はアルカージ・レンコ。かつてモスクワ検事局(モスクワ警察)に籍を置きながら、さる事情から中央を追われて流浪の日々につき、いまはこの船上に生きる場を求めた男だった。 1989年のアメリカ作品。翻訳刊行時に日本でも話題を呼んだ大作『ゴーリキー・パーク』に続くアルカージ・レンコシリーズの第二作で、前作のラストで劇的な決着を迎えた彼がその後どうしてこのような境遇になったかは、本作中の回想シーンで語られる(前作を覚えてる人には、結構泣ける描写にもなっていると思う)。 物語の大半は、ポーラ・スター号を統括する面々から前歴を見込まれ、さらにアメリカ人相手の英会話も可能ということから特別の捜査権限を託されたアルカージ・レンコが被害者の周辺や事件現場を調べて廻る流れ。設定的には警察小説の変種のような感じだが、実際には主要登場人物と主人公とのマンツーマンの接触・対話を積み重ねていく私立探偵小説の趣に近い。 (なお本サイトでのジャンル登録は、一応の公的な捜査権限を与えられた捜査官という意味で「警察小説」に分類しておく。) 中盤になると何者かにアルカージが襲われる危機や、それなりに派手な窮地からの脱出劇もあるが、紙幅の割には筋運びはおおむね緩やか。それでも退屈しないでほぼ一気に読み終えられたのは、薄暗く、そして湿ったような乾いたような、北方漁業場の大型加工船内という舞台装置が、常に読む側に一定感の緊張を求めているからだった。 特に被害者ジーナの変死が殺人だと、船の乗員全員が容疑者となり、四ヶ月ぶりの内地への上陸がストップになる危険性も生じ、そんななかでアルカージに下手なことを言うなら殺してやる、という周囲の無言の圧力が高まっていく。この辺りのシチュエーションはめちゃくちゃテンションが高い。古今東西のミステリ史上でも最大級の逆境の中での捜査を強いられた、名探偵キャラクターのひとりではないだろうか。 ミステリとしてのストーリーはある種のホワイダニットを通じてフーダニットの謎解きに落ち着くが、作品そのもの、小説としての本当の読みどころは、事件の真相が割れたのちのクライマックス、アルカージと某主要キャラの対峙と、双方の思惟の決着にあるだろう。ネタバレになるのでここでの詳述はできないが、その該当キャラに作者なりの造形を盛り込んだ人間ドラマが実に印象深い。決めとなるシーンのビジュアルイメージはかなり鮮烈だ。 英語Wikipediaを見ると作者スミスは2019年の現在もまだ健在のようで、アルカージ・レンコシリーズもすでに原書で9作を数えているらしいが、日本ではこの後の第三作、第四作のみが既訳。このシリーズもおいおい読んでいこう。特に第三作はサワリを覗いただけで、なかなか面白そうだし。 |