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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 誰かが悲劇 |
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司城志朗 | 出版月: 1986年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
角川書店 1986年01月 |
No.1 | 6点 | 雪 | 2019/06/24 11:58 |
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毎朝新聞の新米記者大木ぬりえは、ある風景画を日曜版"今週のギャラリー"に取り上げた。真ん中に仏塔のような高い建物と、左側に夢殿に似た低い社殿、右の方にベンチに腰掛けた男が二人―― 一見したところ寺の境内のようだ。学芸部長が強力に推すその絵に見入っても、彼女には妙ちきりんだとしか思えなかった。
とうに忘れられた抽象画家〈五代栄作〉展で、奥のコーナーに展示されていた油絵のタイトルは「おあお」。絵にサインはなく、作者の欄は「ANONYMOUS」。作者不詳とはどういうことなのか。不信感を抱くぬりえだったが、恋人未満の元大学同窓生青井浩平の助けを借りて、どうにかこうにか解説を書き上げる。 そして日曜日、狸穴一等地に構えられたソヴィエト社会主義共和国連邦大使館。対日諜報網を一手に牛耳る情報将校、ゼリョーヌイ・ズメイ・ズルコフ大佐は新聞を見るなり驚愕する。二面の左隅に載った「おあお」には、ある致命的な光景が描かれていたのだ。すぐさま大佐は腹心の部下コスイネン少佐に絵を買い取るよう命じるが、画廊では既に売却済みで、取引の詳細も口止めされていた。 否応なく「おあお」を巡る謀略戦に巻き込まれるぬりえたち。果たして絵の本当の作者は誰か? そして、そこに隠された秘密とは? 1986年刊行。矢作俊彦と共著の形で「暗闇にノーサイド」「ブロードウェイの戦車」「海から来たサムライ」を矢継ぎ早に発表した後、「ペルーから来た風」に続いて書かれた単独二作目。コメディ風のスパイ小説で、キャラ良しセリフ良しと一見して佳作ですが、ストーリー構成に若干の問題アリ。 物語は「おあお」を巡りぬりえや浩平、弟である警察官の新之介など実働パートと、ズルコフ大佐以下ソ連諜報部の陰謀パートが交互に描かれるのですが、これが最後まで交わらない。実際そんなもんだろと言われればそうなのですが、だったら点景に留めて交わる所を存分に描けばいい訳でして。相互に関連し合うから面白くなるのでね。 例えばフォーサイスの「悪魔の選択」だとこれが最後に交差する。片方が意図せずにチェスの駒のように動かされていたことが明らかになる。その伏線もちゃんと記述されていて、読み返してああそうだったのかと納得する。そういう部分が無い。本書のキモは陰謀パートの下克上三連発なんでしょうけど、謀略側の人間が主人公たちと一人も出会わないのでどことなく厚みがありません。末端の殺し屋は現れますが。 ズルコフ大佐のお気に入りがオオイタの麦ジョーチューいいちこだとか、序盤ソ連諜報部の面々が公安の尾行を撒く所とか、文章もテンポ良いしキャラも立ってるし、おおっこれはって思ったんですけどね。絵の謎もまあそれしか無いわなというオチで、猫絡みとかヘンな要素で上手く躱された感じ。読んでて楽しいだけにかなり惜しい。後期のやつはこれとはまた違うのかな。キャラ造りは総じて達者なので、他作品に期待したいです。 |