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[ ホラー ] 黒の碑 |
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ロバート・E・ハワード | 出版月: 1991年12月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元社 1991年12月 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2018/06/07 23:58 |
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蛮人コナン(映画で言えば「コナン・ザ・グレート」)の生みの親であるハワードは、同じ「ウィアード・テイルズ」の執筆者であるH・P・ラヴクラフトとの交流の中で、クトゥルフ神話にも手を染めていた。この短編集はハワードによるホラーを10作と詩を3作収録したものである。
とはいえ、ハワードはラヴクラフトとの交流を待つまでもなく、ウィアード・テイルズの看板作家の一人であり、独自の個性と題材を備えていた。なので、この短編集でも、3つの引力圏の中で作品が構築されているような印象だ。 1. ラヴクラフトが示唆したクトゥルフ神話。「黒い碑」「屋上の怪物」「われ埋葬にあたわず」 2. ハワード固有の肉体派古代ロマンの要素。「妖蛆の谷」「闇の種族」「大地の妖蛆」 3. 西部の口碑の形をとるウェスタン小説の怪談。「獣の影」「老ガーフィールドの心臓」「鳩は地獄から来る」 それに上記三要素が全部入った感じの「アッシュールバニパル王の火の石」、という構成である。一番ベタな要素の多いクトゥルフ神話作品でも、古典的といっていいくらいに格調の高い出来である。「ネクロノミコン」に次ぐ魔導書としての格式を誇る「無名祭祀書」を導入した「黒の碑」なんて、ラヴクラフトらしい間接話法というか、それと直接叙述せずに「じらす」語り口が堂に入っている。ラヴクラフトのものより評者は好きなくらいだ。 でしかも、ハワード固有の、蛮人コナンに通じる怪奇古代ロマン世界にクトゥルフ的要素を導入した3作品なぞ、本当にハワードならではのアクションロマンになっていて、古代世界に対するハワードの憧れを、クトゥルフを触媒として結晶化させたような感がある。「闇の種族」で主人公の名に「コナン」が出てくるのが、実は初出だそうだ。「闇の種族」では後のキンメリアのコナンとは設定がずいぶんと違うのがご愛嬌。 ハワードはウェスタン小説でも人気者だったようだが、「鳩は地獄から来る」は伝統的なウェスタン小説風の(舞台は南部だがアメリカ的な、という意味で)怪談である。ラストが少しひねってあるが、こういうのも、うまい。 で、舞台をアフガニスタンの砂漠に求めて、アクションあり、邪教の神殿あり、揺らめく炎のような魔性の宝石あり、な「アッシュールバニパル王の火の石」は3要素をすべてを総合したような出来である...この作品のドライさ良さも捨てがたい。 一応ジャンルはホラーにはしたけども、男性的な冒険小説としても強い魅力がある。評者は蛮人コナンのシリーズも大好きだけど、本サイトではちょっと違うか、という気もして扱わないが、ハワードというとよりミステリ色の強い怪奇スリラーの「スカル・フェイス」もある。「スカル・フェイス」のB級ノリも結構楽しいので、そのうち紹介しよう。 |