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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
鴉よ闇へ翔べ
ケン・フォレット 出版月: 2003年04月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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小学館
2003年04月

小学館
2006年05月

No.1 8点 人並由真 2018/05/10 16:59
(ネタバレなし)
 時は第二次世界大戦渦中の1944年。「史上最大の作戦」ことノルマンディー上陸作戦が決行される6月5日。その大作戦の流れに大きく影響すると目されるのは、フランスはサン―セシル広場周辺に設置されたナチスドイツ軍連絡網の中枢的な電話施設の破壊だった。イギリス軍の女性将校で諜報破壊活動のエキスパート、フェリシティ(フリック)・クレアは、フランス人の夫ミシェルが率いる現地のレジスタンス部隊と連携して同施設に接近するが、ロンメル将軍麾下の精鋭である情報将校ディータ―・フランクに阻まれて一度母国に撤退する。だがDデイが目前に迫る中、レジスタンス側から「現地のフランス人掃除婦グループに変装しての電話施設への潜入なら可能性がある」との情報を得ていたフリックは、射撃の名手である幼なじみの男爵令嬢、殺人犯として収監中のジプシー女性、超美人のドライバー、中年の女性金庫破り、頼りなさげな女性電話技師、そして女装する同性愛者の男性という、民間人6人を束ねた秘密部隊「ジャックドウズ(鴉)」を編成。フリックたちは超短時間の訓練を経て敵陣に向かうが、そんな彼女たちを待っていたのは現地のレジスタンスを捜査し、機密情報を掌握していたかのドイツ軍将校・フランクによる迎撃作戦だった。

 おお、(私的に)何十年ぶりのケン・フォレットであろう! 当方、傑作・秀作と名高きあの初期三部作(『針の眼』『レベッカの鍵』『トリプル』)を読んだのちに疎遠になってしまっていた薄情な読者だが、たまたま最近、何かの契機から本書の概要に触れて興味が湧き、読んでみたところ、これがメチャクチャ面白かった。
 元ネタは第二次大戦中に大活躍しながらも栄誉を受けることなく歴史の陰に葬られた女性部隊・約50人の実話らしいが、フォレットは当人のオリジナルの作劇でこの素材を再構成。「女性」版「七人の侍」(ただし……)という戦争群像活劇を築き上げた。
 元版・初版の単行本版(本書はのちに文庫にもなってるが)二段組みで約500ページという大冊だが、実質二日でほぼ一気読み。大昔の記憶と比較しても仕方がないのだが、帯の惹句のとおり『針の眼』よりずっと楽しめたような。なにしろこの種の(諜報攻略ものの)戦争冒険小説の定石を守るところとあえてパターンを外すところ、その双方のバランス感覚が実に絶妙である。それゆえここで書きたい作中の名シーン、触れておきたい物語上のツイストなどは山のようにあるのだが、それこそ未読の人へのネタバレになるので書けない(書きたくない・笑)。
 あえてちょっとだけ内容に触れるなら『針の眼』のような、よろめきドラマ(死語)、『トリプル』を思わせる、こーゆーの作者が本当にスキなんだろうなというSMチックな拷問描写、そこらへんの筆のノリ具合は正に筆者の記憶にあるフォレットであった。まあ、前者の要素を通じて作者が言いたいのは、本書の主題でもある「女はたくましい」だろうけれど。

 というわけでこの作品、個人的には自分が読んだフォレットのベストであるばかりか(つーても前述のとおり4冊しか読んでないのだが~汗~)、一部隊の秘密潜行攻略ものとしては『鷲を舞い降りた』を上回り、『ナヴァロンの要塞』に匹敵する充足感だった(筆者はもともとヒギンズの作品中では『鷲を~』をそんなに高く評価してないのだが……これについてはいつか機会を見て書きたい)。
 ちなみに本書は2001年の原書刊行で、フォレットとしては14冊目の著作だが、意外にも第二次大戦ものとしては『針の眼』『レベッカの鍵』につぐまだ第三作目だったらしい。読み手のこちらがフォレットの著作と縁遠くなっている間にも、作者はこの「第二次大戦もの路線」に関しては、そんなに歩みを進めていたわけでもないようで(少なくともその時点までは)、置いていかれていなかったという意味で、なんかちょっとホッとしている(笑)。

 世評では、フォレットの作品群には当たり外れもありそうである。しかしその一方で、まだまだ面白そうな未読のものに出会えそうである。とても楽しみだね。


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ケン・フォレット
2003年04月
鴉よ闇へ翔べ
平均:8.00 / 書評数:1
1994年03月
ペーパー・マネー
平均:2.00 / 書評数:1
1982年01月
レベッカへの鍵
1981年01月
トリプル
1980年07月
針の眼
平均:6.50 / 書評数:2