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[ クライム/倒叙 ]
暗黒街のふたり
ジョゼ・ジョバンニ 出版月: 1974年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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二見書房
1974年01月

No.1 6点 人並由真 2019/04/04 01:06
(ネタバレなし)
 1970年代前半のパリ。およそ10年前に、成人したばかりで少人数の青年ギャング団の頭目となり、銀行強盗に失敗して20代の人生のほぼ全てを塀の中で送ったジーノ・ストラブリッジ。現在まで27年間も犯罪者の更生を支援する保護司を務めてきた初老の元警官ジェルマン・カズヌーヴは、ジーノの改悛の念を認めて保釈を願い出る。10年前後も夫を待ち続けた愛妻ソフィアのもとに戻る機会を得たジーノはカズヌーヴに深く感謝し、カズヌーヴもまた家族ぐるみでジーノとソフィアに身内のように接し、彼らを応援した。だが不測の悲劇がジーノを襲い、彼が押しつぶされそうになるのと前後して昔の仲間が悪事に誘いかけ、しかも悪の誘惑に巻き込まれまいと抵抗するジーノの周囲に蛇のようにへばりつくのは、犯罪者は必ず再犯にはしると愚直な信念を抱く主任警部ゴワトロだった。違法すれすれのゴワトロの捜査の手がジーノの神経をすり減らすなか、カズヌーヴたちジーノを信じる者たちは彼を守ろうとするが……。

 1973年に公開されたジョセ・ジョバンニ脚本、監督の、同題のノワール映画が1974年に日本公開される際、本書の訳者名義の山崎龍がシナリオから小説化した半和製ノベライズ。つまり同じ版元の、おなじみ『刑事コロンボ』ノベライズシリーズ(その大半)と同様の経緯で刊行された一冊である。
 むろんジョバンニのオリジナル小説ではないし、本書本文の文体や小説的技巧を素直にジョバンニ作品のひとつとして受け止めることは確実に不適なのだが、湿って切なく薄暗い(しかしそれでもどこかほのかに明るい)感じの物語の歯応えは、なかなかソレっぽい。
(といいつつ評者も、そんなに大系的にジョバンニ作品を読んでいる訳ではないけれど~汗~。)
 直接の書き手の異なる作品ではあるが、根っこにあるのは当然、本来のジョバンニ作品と同根のものという観測で、ここに感想をしたためさせていただく。
 
 この青春ノワール物語の軸には、本当なら人生をやり直したいと真剣に思っている犯罪者の更生を容易に許さない社会への憤りがあるが、一方でジーノを支援する人々もカズヌーヴの家族に限らず何人か出てくる(ジーノの過去をすべて知った上で雇用し、彼の不器用な奮闘ぶりを認める印刷工場の社長さんとか)。さらにはゴワトロの歪んだ情熱を「そういう行き過ぎた捜査は過剰に前科者を色眼鏡で見て、彼らの社会復帰を妨げるものだ」と咎める、まともな上司の警察署長なども登場してくるのだが、ジーノの苦境の前にそれぞれ力及ばず、というかジーノ当人自身にもまったくスキがないわけでもないところがウマい。もちろん、更正をはかろうと本気で願いながら、日々疑惑の目にさらされて嫌がらせされる作中の主人公の心の傷みは本当の意味で、大半の読み手なんかにはわかるべくもないのだろうが。
 後半の展開のネタバレになるので書けないけれど、ジーノを守ろうとしてカズヌーヴがあまりにも真っ当に真っ正面から関係者にものを言い過ぎたため、かえってドツボに嵌ってしまう描写なんか感心させられた。小説としての書き込みも累乗している効果だとしたら和製ノベライズといっても侮れん。本書の原作の形になる映画本編の方はまだ未見だけど、その辺がどういう描写になっているかいつか確かめるのは楽しみだ。

 本当ならもっと何冊かマトモにジョバンニの小説作品を読んで、その上で本作の原典の映画版も先に観て、それから読んだ方がさらに良かったんだろうけれど、素で一編の社会派ドラマ風ノワールとして接しても、結構よい感じの一冊ではあった。


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