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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 人狼部隊 |
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イブ・メルキオー | 出版月: 1974年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
角川書店 1974年01月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2023/05/30 05:18 |
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(ネタバレなし)
連合軍の侵攻を受け、陥落寸前の1945年4月のベルリン。ヒトラーは総統専用の地下室に要人を集め、かねてよりアルプスに建造を進めている巨大要塞に拠点を移す、水際の一大反攻作戦を語る。そのための主力となるのが、数年前からナチスドイツの最後の切り札として編成されていた精鋭殺人工作集団「人狼部隊」であった。そんななかドイツ国内に侵攻し、敵軍を解体・無力化しつつある連合国側、アメリカ軍防諜部隊の「ラースG-8」ことエリック・ラーセンは、とある動きを掴んだ。 1972年の米国作品。作者メルキオーの処女長編で、本国でかなりの反響を呼び、日本でも翻訳刊行当時、当時の海外ミステリ界、冒険小説ファンの間で、マイナーメジャー的に話題になった。 ちなみにタイトルだけ聞くと、当時まだリアルタイムで進行中の平井和正のアダルトウルフガイシリーズの一編のようだが、その平井自身もシャレで、アダルトウルフガイシリーズの後期作『人狼白書』の前半で、本作を劇中に登場させるお遊びをしている。 21世紀に入った頃から読もう読もうと思っていた作品だが、翻訳刊行直後に購入したハズの本が家のなかから見つからないいつものパターンで、今まで順延。近所の図書館にもないし、と思っていたら、ネットで珍しく比較的安値で古書を買えたので、ようやく通読した。 ナチス側の作戦というか計画の大ネタがもうひとつあり、邦訳書(ハードカバー)のジャケット折り返しのあらすじにも書いてあるが、一応ここでは黙っておく。 大半のナチス軍人の残虐ぶり、さらにそれと戦うために人間性を切り捨てていく一部の連合軍兵士の描写なども踏まえて、戦争のなかで剥き出されていく人間の獣性の叙述に、読む側もそれが他人ごとではないという迫真性でテンションが高まる(同時に胸糞が悪くなる)が、その時点ですでに作品世界のなかに引きずり込まれてしまっている訳で、少なくともこの作品には、世の中から高い評価を一般に受ける某・戦争冒険小説のような細部のウソはさほど感じなかった(それでも全くスキがない、というわけにはいかないが)。 何十年も読むのを待ち、どんな作品なんだろうという期待値があまりにも高まってしまったのは、本書の評価にとって不公平ではあろうが、その辺をさっぴいてもなかなか面白い。 ただし作中のメインストーリーがリアルタイムの時間の流れの上ではたったの二週間、特に4分の3くらいは三日間の出来事(これは目次からわかるのでネタバレにはならないな?)なので、お話は最高級にスピーディではあるものの、全体のボリューム感はある意味で弱いかもしれない。 逆に言えば数日間の時のなかで、かなり高密度の凝縮したドラマが語られるのであるが。 面白かったか? 秀作か? といえば文句なしにイエス。しかし優秀作か? と問われれば、少し逡巡した上でイエス。傑作か? と尋ねられれば、たぶん、メルキオーの諸作のなかでは、力作ではあるものの、まだ習作の面もあろう、という感じ。 処女作としては、フランシスの『本命』に近いけれど、決してマクリーンの『ユリシーズ』ではないのだな。いやまあ、それでも十分に大したものではあるが。 評点は0.2点くらい、ほんのわずかにオマケして。 |