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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] アメリカン・タブロイド アンダーワールドUSA三部作 |
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ジェイムズ・エルロイ | 出版月: 1998年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
文藝春秋 1998年01月 |
文藝春秋 1998年01月 |
文藝春秋 2001年10月 |
文藝春秋 2001年10月 |
No.1 | 7点 | tider-tiger | 2017/11/01 20:41 |
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悪い奴やちょっと悪い奴やすごく悪い奴がケネディ一家の周囲に群がる。金、殺し、情報、利権が飛び交い、大きな渦となって一つの時代を作りつつあった。裏切り、そして、三人の男たちが、アメリカ史上最大の殺しに向けて動き始める。
『アメリカが清らかだったことはかつて一度もない』 エルロイファンには有名なこの一文で幕を開ける、アンダーワールドUSA三部作の第一作目。 ロイド・ホプキンズ刑事三部作の書評をちまちまと始めようかと思っていたのですが、トランプ大統領がツイッターでJFK関連の機密資料を公開するとか言い出したので急慮本作を。 シリーズがLAからUSAと変わり、そのとおりに物語のスケールは大きくなります。エルロイには国家とかそういう大きな話はして欲しくなかったのですが、予想に反してかなり面白かった作品です。エルロイ入門編としても悪くないかもしれません。 ノビー(落合信彦氏)の諸作ではケネディ兄弟=アメリカの英雄でしたが、本作では弟はともかく兄は女好きの日和見主義者でしかない。 アメリカの正義といえばまずはケネディ神話が思い浮かびますが、その神話を粉砕する話です。 またしても主要人物は三名で、そのうちの一人の造型が今までに見られなかったパターンでユニーク。三人の力関係の移り変わりも興味深く、脇を固める連中も相変わらず面白い。 特に良かったのは、歴史的事実を踏まえながら、ケネディへの憎しみがいかに醸成されていったのかを丹念に描いているところ。マフィアとかCIAとかではなく、個人レベルの憎しみを大きな渦へと変換していく。 また諜報、殺しの世界におけるプロの不安定さ。時計のように仕事をこなす組織の歯車ではなくて、良くも悪くも人間としての不確定要素をきちんと描いているところ。 さらに特記すべきこととして、あの人物が登場しない。JFK暗殺を描いた作品で、この人物が登場しないというのは前例があったのでしょうか。これは解説を素直に読めばドン・デリーロが同じ事件を描いた作品『リブラ~時の秤』にエルロイが『やられてしまった』からだと思われます。 ケネディ大統領誕生~暗殺までの流れをまったく知らない方は実在、架空の人物の区別、なにが事実でなにが創作なのかが非常にわかりづらいかもしれません。 ケネディを単なる一人の人間にまで引きずりおろしたのは良しとして、その手法がワイドショー的でやや安易だったのが少々気になりました。 どの部分が事実かと頭を捻るよりも、JFK暗殺において裏でこのような暗躍があったのかもしれないなあと、そんな風に楽しむべき作品でしょう。 そして、USA三部作はエルロイ第二の頂点(私見)『アメリカン・デストリップ』へとなだれこみます。 個人的にはLA四部作の方が好きなので、本作は7点としておきます。 |