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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] ダブル・スパイ |
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ジョン・ビンガム | 出版月: 1970年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1970年01月 |
No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2019/02/10 22:30 |
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これぞハードコア・スパイ小説、というオモムキの作品である。英国諜報部の幹部デュケインは、スパイを志願した男ザグデンを、敵への餌「小魚」として東側に潜入させる。ザグデンは自らの任務が、ソ連の諜報部に逮捕されることだと承知していた。はたしてザグデンは、ソ連諜報部に逮捕されて、果てしない尋問を受ける。ソ連にはザグデンが諜報部との繋がりがあることがすでに露見していた....デュケインの狙いは何か?囚われのザグデンの運命は?
というような話。なので獄中のザグデンの内省と、延々と続く尋問、デュケイン率いる諜報部での対応といった、アクションなんてカケラもない地味な小説なんだが....いや、これ面白い。著者のビンガムというとル・カレのジョージ・スマイリーのモデルと言われるMI5幹部のわけで、デュケインの人物像はジョージ・スマイリー以上にスマイリーである。モンテーニュかラ・ロシェフーコーか、と犀利なモラリストばりの人間観察を随所に見せて、半端じゃない知性を感じさせる。 大きな悪と戦うために、詭弁や策略などの小さな悪を利用することは、どの程度まで許されるのだろうか? 虚偽と非情のただなかにいるときには、何かの支えとしての誠実さを固守しなければならない。さもないと魂が地獄に落ちてしまう 納税者は何か前からわかっていた情報を期待するものだ だから、というか、職業的な人間観察者であるがゆえに、デュケインは「人間はしゃべりだしたら何もかもしゃべるものだ」と一般理論を引き出して、小説中でその理論に足を掬われることになる.... われわれはみんな、他人の不幸を平気で見ていられるほどに強い(ラ・ロシェフーコー) デュケインの躓きの石はまさにそういうこと。そういうアイロニーから小説は最終盤に大きく動き、ザグデンを見捨てるのも致し方なし? からさらにアイロニカルな状況がラストの急転直下になだれ込む。激シブな洞察の効いた小説なんだけども、最低限かもしれないがちゃんとしたエンタメになっていて、ここらへんのさじ加減も素晴らしい。 まあル・カレってね、リアルスパイとは言うけども、実のところベタにエンタメな部分がウケたわけなんだが、本作はそういうベタが一切ない、スパイ純度100%な小説である。評者の評価ははっきり「ル・カレに優る」である。 (そういえば評者昔「第三の皮膚」も読んだことあって、結構好きだったな。フレミングにせよモールにせよビンガムにせよ、英国諜報部出身者が書くのは実にひねった小説なのに、何でル・カレはそうじゃないんだろうね。本作みたいな佳作が埋もれているのは実に惜しい) |