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ミステリの祭典

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Campusさんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:5件

プロフィール| 書評

No.5 5点 三人の名探偵のための事件
レオ・ブルース
(2016/09/24 16:29登録)
「なごやかなウィークエンド・パーティの夜、突如として起こった密室殺人事件。名探偵たちはそれぞれ推理をつくして謎に挑戦する…。」(Amazon内容紹介より)

なーんか、かったるいんだよなあというのが第一印象。
訳が悪いのか、それとも元々なのか(レオ・ブルースは他作品もほとんど小林晋が訳しているから、そのへんの判断がつかない)。とにかく、読んでいていまいち楽しくない。
三人の名探偵のパロディがあって、それぞれが推理をする推理合戦! という概要でつまらなくなるわけないじゃんという気がするんだけど、どうも取り調べも間の推理も楽しくない。読んでいて眠くなってしまったところも多い(イギリス新本格ってこういうの多いよね。ブレイクとかも『章の終わり』とかは酷く退屈だった)。

謎解きのラインとしてはなかなか良いんだよ。
全体の趣向としては、『毒チョコ』みたいに推理がどんどん積み重なっていくんじゃなく、立場も中身も並んだものがどん、どん、どんとおかれる感じで、相手を否定しあう推理合戦という意味では物足りないけど、実はそれがどんでん返しにも使われていて好印象。密室トリックも、あるアイディアに関しては「シンプルだけどみたことないな」ってなるし。

しかし、どうも読んでいて楽しくない。
うーん、個人的にはキャロラス・ディーン物のほうが楽しいかなあ、という印象っす。普通の本格ファンはビーフ物の方をとる人が多いみたいだけどサ。


No.4 7点 夢魔の爪
仁木悦子
(2016/09/24 16:18登録)
「私立探偵をしている私、三影潤の所へ、ある日一本の緊急電話がかかった。私が以前、家庭教師をしていた篠村家からだ。話によると、かつての教え子賢一郎が祖父、神野を殺してしまったらしい。殺人現場の神野家へ急行した私は窓を破り、屋内に侵入し、恐怖とショックで呆然としている賢一郎を発見した。何か暗示を受けたのか賢一郎は室内から閉めた掛け金に、手を触れられなくなっていたのだ。しかももっと妙なことに、そこには神野の遺書さえあった。/自殺か? それとも数億にのぼる財産を狙う者の仕業か?/表題作をはじめ、名作の評価高い「おたね」など全六篇収録の傑作短篇集。」(角川文庫カバー粗筋より)

作者自体、今ではどれだけの人に読まれているか怪しくなってしまっているのでしょうがないが、本作も入手がそれなりに困難な短編集である。まったくもって嘆かわしい。だって、本書が手に入りにくいということは、「おたね」を読むのが難しくなっているということなのだから。

そう、「おたね」が傑作なのだ。
かつて自分の家にいた女中と数十年ぶりに再会したという冒頭から始まるこの短編は、アイディア、構成、文章ともに隙がない短編ミステリのお手本のような一作だ。
勿論、ただよくまとまっているというだけではない。内包しているアイディアはむしろ鋭さの塊。
そりゃあ、今の読者なら事件の犯人や方法に驚くことはないだろう。しかし、本書で凄いのは、その先にある犯人の心理なのだ。
何故、その犯行に至ったのか?というこの部分はホワイダニット(いや、もしかしたらこれはホワットダニットか?)ここにありという切れ味。先ほど述べた通り、構成もそこに奉仕しているのだから恐ろしい。
今なお古びていない大傑作で、これが読めないというのは余りに哀しすぎる。

その他の作品もよい作品が揃っている。
SFミステリの「ねむい季節」なんかも面白い作品かな。勿論、三影潤ものや仁木兄妹ものもニヤリとさせられる逸品。

品切とはいえ、古本市場的な価値は低い作品なので、それなりに探しやすいとは思う。未読の方は、見つけたら是非とも拾ってほしい。決して損はさせない。


No.3 8点 屋上の道化たち
島田荘司
(2016/04/28 10:27登録)
「まったく自殺する気がないのに、その銀行ビルの屋上に上がった男女は次々と飛びおりて、死んでしまう。いったい、なぜ? 「屋上の呪い」をめぐる、あまりにも不可思議な謎を解き明かせるのは、名探偵・御手洗潔しかいない! 「読者への挑戦」も組み込まれた、御手洗潔シリーズ50作目にあたる書き下ろし傑作長編! 強烈な謎と鮮烈な解決! 本格ミステリーの醍醐味、ここにあり!」(Amazonの作品紹介欄より)

うっわあ、驚いた。
滅茶苦茶ストレートな御手洗潔シリーズの傑作です。
たった一つのネタで全ての謎をねじ伏せる様は、もしかしたら『暗闇坂』……いや、『北の夕鶴』あたりの初期作品以来かも。
ぶっちゃけた話、そのネタ自体は(島田ファンにとっては)分かりやすいとは思うのですが、まさかそれでここまでの物語と謎を作り出すとは。作中で御手洗が美しい数式と述べていますが、まさにそれで、xに特定の数を代入することで全てが解き明かされる方程式みたいな趣があります。
まさしく剛腕。ぶっ飛びました。

もうちょっと具体的に良かった点を並べてみます。

・謎が強烈
粗筋に書いてある通り、自殺なんてする筈がない銀行員たちが屋上に上ってぴょんぴょん飛び降りて死んでいくのがメインの謎。どうです?これ、読みたくなりません?
「はは、僕が自殺なんてするわけ…」→ドーン!の連続はただただ強烈。

これ以外にも、死んでいった銀行員たちの中での隠し事や宇宙人、ひいては近所の店が妙に景気が良いなど、関係ないとしか思えない謎がぽんぽん出てきます

・で、その謎が全て一つのネタで解明される
上で述べた通り、ここが素晴らしい。
島田荘司フォロワーというと谺○二や小島○樹など、みみっちいショボイ謎を人が飛んだりする程度のショボイトリックで解明してドヤ顔する系の連中が多いわけですが、はっきりいって、そいつらとは格が違います。
島田荘司は人を飛ばすから剛腕なんじゃないんですよ。全ての謎を一つのトリックで解き明かす手腕が剛腕なんですよ。
やはり神。

・『嘘でもいいから~』以来のコミカルさ
謎解きもの以外の部分でも結構楽しませてくれます。
まず、全体を通して非常にコミカル。
道化という単語は多分、このあたりから来るのかなあ。第一章の飛び降りの連続とか大爆笑です。

・御手洗潔が御手洗潔してる!
で、更に素晴らしいのがこれ。
『ネジ式』とか『魔神』とかのミタライではなく、「舞踏病」とか「疾走する死者」あたりの御手洗をしてくれています。もう、ここだけでファンとしては感涙。

久々にかっ飛ばしてくれた快作でした。
もうちょっと文章を絞って300頁前後にしてくれれば引き締まったのになという感じがしなくもないくらいかな。不満を言いたいのは。
でも『幻肢』みたいな冗長さはないので、そこまで気になったというわけでもないのですが。

本格ファンは必読でしょう


No.2 1点 呪い殺しの村
小島正樹
(2015/07/29 20:47登録)
「東北の寒村・不亡村に、古くから伝わる「三つの奇跡」。
調査に訪れた探偵の海老原浩一は、術を操る糸瀬家に翻弄される。
一方、「奇跡」と同時刻に、東京で不可解な連続殺人が発生。
警視庁捜査一課の鴻上心が捜査にあたる。被害者には不亡村との繋がりがあった。
海老原は鴻上とともに、怨念渦巻く村の歴史と謎の解明に挑むのだが……。 」(Amazonの作品紹介欄より)

駄作。
こんな作家や作品を「やりすぎ」と評して持ち上げているようでは、本格ミステリ界隈の未来はない。そこまで言い切って良い様な、本当に駄作としか言いようがない作品だ。この作品を読んで楽しめる読者というのは「密室」とか「不可能犯罪」という単語を見ただけで興奮できて、その内実がショボすぎる謎とショボすぎるトリックでも大満足できる変質者だけだろう。
……と言うと、この作品を評価している人に対して物凄く失礼になっちゃうんだろうけど、実際のところそうとしか言いようがないんだよなあ。

だって、この作品で不可能と言われている事象って、こんなんだよ?
「ある男が小屋にこもりました。出てきました。こう言いました。どこどこでだれだれという男が死にました。確認しました。確かにだれだれという男がどこどこで死んでます」
この謎を見て「奇跡だー!」と思える人がうらやましいと思えるレベルの謎だと思いません? 江戸時代とかを舞台にした時代ミステリとかならともかく、21世紀の現代を舞台にした話なんですよ、これ。

こんなの、服の中に通信機器を隠してましたーで済むレベルじゃないですか。もしくは外に仲間がいて、何らかの方法で伝えたんですねで済むレベルじゃないですか。……そして、実際に外に仲間がいて何らかの方法で伝えてるわけです(ネタバレ? でもさ、こんな酷い謎と酷い解決でネタバレも何もなくない?)
多分、作者は言うでしょう。「この何らかの方法というのが新機軸なんだ!斬新なトリックなんだ!」って。
でも、読者としては「は?」ですよ。
そんなの「針と糸で作った密室だけど、糸を傾ける角度が今までにはなかった」と強弁しているようなもんなのに、何でそこに気づかないかねえ……いや、この人、マジで糸を傾ける角度が今までにはなかったみたいなトリック使う人だから仕方ないのか?

で、そんな感じのしょぼい謎としょぼいトリックを幾つか詰め込んで、それでやりすぎと言われてるわけです。
もう、呆れるしかないと私は思うんですが、どうですかね、皆さん。
やりすぎとか不可能犯罪の連続とか、そういう賛辞は柄刀一の『奇跡審問官アーサー』とか島田荘司の諸作みたいな魅力的な謎ととんでもないトリックを幾つも一作に詰め込んでいる作家に送るべき言葉であって、針と糸レベルのトリックを幾つも詰め込んだところで、やりすぎでも何でもないと思うんだけど……
たとえていうなら、この『呪い殺しの村』はあれだね。面白かったですの連続でマス目が埋められた三十枚の読書感想文。そんなので「よく書いたねー」と頭をなでてもらえるのは小学三年生までだって、普通。

まあ、別に良いんですよ。
小島君は悪くない。彼は一生懸命、凄いと思ってこういう作品を書いたんだから。
でも、ね。大人は許しちゃいけないと思うんですよ。囃し立てちゃいけないと思うんですよ。
はっきり言ってあげましょうよ。これじゃ駄目だって。


No.1 10点 赤い収穫
ダシール・ハメット
(2015/07/29 20:30登録)
「コンティネンタル探偵社支局員のおれは、小切手を同封した事件依頼の手紙を受けとって、ある鉱山町に出かけたが、入れちがいに依頼人が銃殺された。利権と汚職とギャングのなわばり争い、町はぶきみな殺人の修羅場と化した。その中を、非情で利己的なおれが走りまわる。リアルな性格描写、簡潔な話法で名高いハードボイルドの先駆的名作。」(創元推理文庫版粗筋より)

ハメットというと、どうしてもハードボイルド派というイメージが先行してしまい、本格ミステリとの対抗軸として語られることが多いのだが、どうも、実のところそのイメージは間違っているのではないかと感じる。むしろ、ハメット作品は全て本格ミステリであると言っても良いくらい、謎解き味が濃厚じゃないか、と。
『マルタの鷹』はマルタの鷹をめぐる悪党どもの駆け引きが中心にあるとはいえ、フーダニットの部分は驚くくらい筋が通った解決が待っているし、『ガラスの鍵』には帽子を中心にしたクイーン張りの(というとちと大袈裟か?)ロジックがある。短編だが「夜の銃声」は切れ味鋭い本格の佳品だ。
はっきり言って、本格の古典だとかチヤホヤされている作品よりもよほど謎解きがしっかりしていると思うのだが、どうにも日本の本格ファンに認められてない気がして歯痒い。本格ミステリとしての謎解きを中心におきながらも、そこからはみ出るコンゲーム的だったり冒険小説的だったりする要素を付け加えているという面において、非常に〈現代本格〉的だと思うのだが……

で、この『血の収穫』も当然の様に謎解きがしっかりしている。というか、むしろ何でそっちの方面で評価されないの? と思うくらいのレベルだ。
四つの短編をくっつけたかの様な構成の本書は、そのまま四つの構図の反転が用意されている。しっかりと伏線がはられた上で思い込んでいた部分だったり、想像していた構図が反転する様は痛快で、この部分だけで本格ミステリの傑作として名を残せるくらいだろう。まあ、本当に四つの短編を無理矢理つなげただけという感じで、全体を貫く構図とかはないっちゃあないのだが、その無理矢理さも味になっているし、良いじゃないか(こういうのをあばたもえくぼと言う)。
そして、そんな紛糾した殺人だらけの街を駆け抜けるどころか更に紛糾させるのがコンティネンタル・オプという恐ろしい男なのである。このキャラクター造形がこの作品を本格ミステリという評価から逸脱させているんだろうなあ……だって、こいつの役割、完全に名探偵じゃないもん。むしろ逆かもしれない。この物語で大量の人が死ぬのは、この男の行動のせいなのだから。
…と書くと、批判しているようだが、全くもってそんなことはない。
むしろ、オプがそういうキャラだからこそこの作品はミステリ界における超絶傑作になっているわけで。四つのどんでん返しが用意された本格ミステリとしてのこの作品の味も、気が狂ったかのようなバイオレンスさも、この作品の持つ愛すべき歪さも、全てはオプのおかげなのだ。

ともかく、この作品は全ミステリファン必読の一作といえるんじゃないかと思う。
決して、欠点のない作品というわけではない。
しかし、その欠点さえも包み込むようなパワーがある作品なのだ、これは。

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