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ミステリの祭典

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夢魔の爪

作家 仁木悦子
出版日1978年12月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 Campus
(2016/09/24 16:18登録)
「私立探偵をしている私、三影潤の所へ、ある日一本の緊急電話がかかった。私が以前、家庭教師をしていた篠村家からだ。話によると、かつての教え子賢一郎が祖父、神野を殺してしまったらしい。殺人現場の神野家へ急行した私は窓を破り、屋内に侵入し、恐怖とショックで呆然としている賢一郎を発見した。何か暗示を受けたのか賢一郎は室内から閉めた掛け金に、手を触れられなくなっていたのだ。しかももっと妙なことに、そこには神野の遺書さえあった。/自殺か? それとも数億にのぼる財産を狙う者の仕業か?/表題作をはじめ、名作の評価高い「おたね」など全六篇収録の傑作短篇集。」(角川文庫カバー粗筋より)

作者自体、今ではどれだけの人に読まれているか怪しくなってしまっているのでしょうがないが、本作も入手がそれなりに困難な短編集である。まったくもって嘆かわしい。だって、本書が手に入りにくいということは、「おたね」を読むのが難しくなっているということなのだから。

そう、「おたね」が傑作なのだ。
かつて自分の家にいた女中と数十年ぶりに再会したという冒頭から始まるこの短編は、アイディア、構成、文章ともに隙がない短編ミステリのお手本のような一作だ。
勿論、ただよくまとまっているというだけではない。内包しているアイディアはむしろ鋭さの塊。
そりゃあ、今の読者なら事件の犯人や方法に驚くことはないだろう。しかし、本書で凄いのは、その先にある犯人の心理なのだ。
何故、その犯行に至ったのか?というこの部分はホワイダニット(いや、もしかしたらこれはホワットダニットか?)ここにありという切れ味。先ほど述べた通り、構成もそこに奉仕しているのだから恐ろしい。
今なお古びていない大傑作で、これが読めないというのは余りに哀しすぎる。

その他の作品もよい作品が揃っている。
SFミステリの「ねむい季節」なんかも面白い作品かな。勿論、三影潤ものや仁木兄妹ものもニヤリとさせられる逸品。

品切とはいえ、古本市場的な価値は低い作品なので、それなりに探しやすいとは思う。未読の方は、見つけたら是非とも拾ってほしい。決して損はさせない。

No.1 6点 kanamori
(2010/07/05 21:40登録)
ミステリ短編集(角川文庫版)。
三影潤ものの表題作、仁木兄妹ものの「赤い痕」「虹の立つ村」などシリーズものも楽しめたが、編中のベストは「おたね」だろう。
ある不幸な過去を持つ女中の話から意外な事実が浮かび上がる物語は、殺人を描きながらもどこかほんわかしたテイストの他作品と一線を画する名作。

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