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ミステリの祭典

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tider-tigerさんの登録情報
平均点:6.71点 書評数:369件

プロフィール| 書評

No.9 6点 赤朽葉家の伝説
桜庭一樹
(2014/06/01 14:10登録)
万葉、毛毬、瞳子(とうこ)、赤朽葉家の三代の女性を描いた作品で、ミステリといえるのは第三部のみ。
第一部千里眼の万葉編は非常に良かったと思います。第二部暴走族にして漫画家の毛毬編は個人的にはあまり好みではありません。第二部の方が好きだという方もいらっしゃると思いますが。
そして、問題はミステリの第三部瞳子編。基本的な方向性は悪くないと思うんですよ。ですが、非常に粗雑な印象。特に気になったのは、最悪の事態を回避できないようにするため、強引な設定をねじこんで無理やり事件を成立させてしまった点でしょうか。変な設定で楽をせずに、もっと丁寧に作りこんでリアリティを持たせればいいものになったんじゃないかなあと。
第一部 名作
第二部 良作(好きではないけど)
第三部 平凡
結論、小説としては7~8点はつけたい。でも、ミステリとしては残念ながら5点が限界。なので採点は6点としておきます。

※この作品は「道祖土家の猿嫁」坂東 真砂子 (著) の影響が色濃いのではないかと睨んでいます(パクリだと言っているのではありません)。なんとなく似ているなあと感じていたのが確信に変わったのが登場人物の名前。
万葉の孫にして語り手は瞳子(とうこ)
「道祖土家の猿嫁」の主人公蕗の孫で後日譚を語るのは十緒子(とおこ)


No.8 5点 メグレの途中下車
ジョルジュ・シムノン
(2014/06/01 13:55登録)
連続殺人や町人同士の対立があったりして異様な雰囲気が醸し出され、ミステリ的な趣があります。が、やはり人間心理や村社会の独特の環境を描くことが主眼のように思えます。

空さんへ もしこれをお読みになるようでしたら、大変感謝していることを伝えたく思います。

>>第6章の最後あたりで「おれはおそろしい」というメグレの台詞が出てくるのですが、これはむしろ「おれは心配だ」ぐらいに訳した方がよさそうです。

これ、メグレがなにを怖がっているのかが長い間わかりませんでした。「おれは心配だ」なら、しっくりときます。すっきりしました!


No.7 5点 重罪裁判所のメグレ
ジョルジュ・シムノン
(2014/06/01 13:31登録)
この作品は自分がメグレ警視シリーズをはじめとするシムノンの作品を好きになる切っ掛けとなった作品です。
小説としては7点をつけたい、が、ミステリとしては3点か4点。大好きな作家だけに切ない……。
容疑者はガストン・ムーラン。伯母とその養女(のようなもの。洒落ではなくまだ幼女)を殺害したとして告発されます。
そして、いったん釈放されたムーランはメグレ警視が自分を泳がせていると信じています。自分に食ってかかるムーランにメグレはこんなことを言います。
「私は(君が殺人を犯したのかどうかは)知らんよ。だが、きみがやったのではないとは確信している」
※この「私は知らない、が、~と信じている」という物言いはメグレ警視の十八番です。
ムーランが犯行を成し遂げるにあたって、子供を巻き添えにする必然性はなかった。ムーランは子供を理由もなく殺すような人間ではない。メグレはこのように考えたのです。
何頁かを割いて二人のやり取りが展開されます。交わされる言葉は平凡ですが、実は奥深く味わい深い。私は魅了されました。
「おまえは子供を殺すような人間ではない、だから、おまえは犯人じゃない」ミステリを期待して読まれた方には???な論理だと思います。メグレはあまり推理はしません。アリバイを崩したりトリックを見破ったりもしません。経験と洞察をもって被害者や加害者の人物像を組み立てていきます。その過程がたまらなく面白いのです。が、これはミステリを読む愉しみとは少し違うかなあと。
シムノンは素晴らしい作家だと思いますが、ミステリとして売るのは間違っているような気がします。


No.6 7点 猫は知っていた
仁木悦子
(2014/05/26 18:29登録)
予想していたのと全然違っていて驚きました。ミステリとしても小説としても面白かった。読みやすく、古臭くもない。
作者と同名の登場人物、この設定は嫌いなんですが、この作品に関しては嫌いなはずのこの設定も非常に微笑ましく感じられました。


No.5 7点 小鳥を愛した容疑者
大倉崇裕
(2014/05/26 17:34登録)
短篇集です。ミステリとしては、ダメではないけど、良いとも言えず、普通かなといった印象ですが、心地よく読める作品でした。人間よりも動物が好き?な頭の良いヒロインと仕事熱心旧態依然な中年刑事のコンビのほのぼのした関係がいい。そして、すべての短編が動物を軸に据えられており、それが生半可ではなく徹底しているのがさらに良かったと思います。動物の生態が自然な形で推理に絡んでいます。単なる「動物が登場するミステリ」ではない。動物に関しては作者はかなり真剣に取材をしたそうです。


No.4 8点 誘拐
高木彬光
(2014/05/26 16:56登録)
これは完全に騙されました。
ここまで見事に騙されると気持ちがいい。
誘拐を扱った小説としてはピカ一ではないかと思います。
誘拐において犯人側が直面する最も困難な問題は身代金の受け渡し。不確実ではあるが、安全な方策を取る犯人、だが、しかし、犯人の狙いは……。
自分は人形と誘拐が高木彬光氏の二大傑作だと思っています。


No.3 6点 六番目の小夜子
恩田陸
(2014/05/26 16:46登録)
前半は8~9点、後半は3~4点。中間を取って6点とさせて頂きます。
文化祭のシーンまではテンション上がりっぱなし。このドキドキワクワク感はすごい。ホラーなのか、ミステリなのか、なんだかよくわからんけど類稀なるストーリーテラーなのかもしれない、と思わせておいて、後半はどんどん凡庸な青春小説へと。文章がいまいちなのと会話がつまらないのがどんどん際立ち、怪しげな魅力を放っていたあの人物もどんどん平凡な人に……。
後半を書きなおして欲しい一作です。


No.2 9点 ドーヴァー4/切断
ジョイス・ポーター
(2014/05/26 16:30登録)
中盤にたるい所もありますが、大好きな作品です。
自分が評価しているのは主に二点。
一つは他の方も指摘されているとおり、事件の真相というか動機が変てこ過ぎること。すごい発想。素晴らしい!
もう一点は主人公のドーバー警部が「欠点も多いけど実はいい奴」などではなく「正真正銘のイヤな奴」であること。
純文学とかならともかく、こんなのを探偵役にしてミステリを成立させてしまうのは凄いことだと思います。
ちなみに自分はこの作品のユーモアセンスも嫌いじゃないです。
ミステリをあまり読んだことのない人がいきなりこれを読むと「なんだこれは、ふざけるな」と怒ってしまうかもしれません。ミステリをいろいろ読んでちょっと変わったものが読みたいという人にお薦めします。


No.1 7点 メグレと若い女の死
ジョルジュ・シムノン
(2014/05/26 16:17登録)
パリで若い女性が殺害されます。この女性はどこの誰なんだろう?
こんな風に物語は始まります。
正直なところ、ミステリとして評価するのならこの作品は5点くらいではないかと思っています。ただし、小説としての評価は9点です。なので中間をとって7点とさせて貰いました。
この作品は被害者がどんな人物なのかをメグレ警視が探っていく物語です。犯人はまったく重要視されない奇妙なミステリです。
都会に出てきた若い女性が非業の死を遂げるまでの人生が複数の視点から断片的に語られ、メグレ警視はそれらを取捨選択しながら彼女の人物像を組み立てていきます。そうした作業を一緒に楽しめる方なら、この小説に深い感銘を受けるのではないかと思います。
これは警察小説という枠を利用して描かれた人間の物語です。哀切極まりない物語です。

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