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ミステリの祭典

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リスタデール卿の謎
短編集

作家 アガサ・クリスティー
出版日1981年10月
平均点5.25点
書評数4人

No.4 6点 弾十六
(2022/04/26 03:51登録)
1934年6月出版。1924年から1929年発表のノンシリーズを集めた短篇集。早川クリスティ文庫の電子版で読んでいます。田村隆一の翻訳は、いささか古めかしいけど快調。
アガサさんの短篇をなるべく初出順に読む試み。1923年はスケッチ誌にたくさんのポアロものを書き、続く1924年は『ビッグ・フォー』とトミーとタペンスの『二人で探偵を』を同誌に連載しています。ノン・シリーズはThe Grand Magazineがホームグラウンドの感じ(『二人で探偵を』収録作の一部もここに掲載)。
以下、初出順にタイトルを並び替えています。カッコつき数字は単行本収録順。初出は英Wikiの情報をFictionMags Indexで補正。
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(3) The Girl in the Train (初出The Grand Magazine 1924-2)「車中の娘」: 評価5点
失業から始まる物語。ウッドハウス風の話に仕上げたかったのかな? 初期アガサさんのロマンチックなオハナシ。
p1030 詩を書いて戸口で2ペンスで売る(for writing poems and selling them at the door at twopence)♠️こんな乞食みたいなのが実際にいたのかなあ。
p1071 ディック・ウィッテイントン(Dick Whittington)♠️猫で有名
p1168 バルカン急行(Balkan express)♠️1916-1918運行。当時のスパイものによく登場していたのか。
p1194 昔のサウス‐ウェスタン鉄道はじつに信用できるものでしたよ――スピードはのろかったけれど、時間には正確だったんです(The old South-Western was a very reliable line - slow but sure)
p1281 ジュージュツ(jujitsu)♠️『ビッグ・フォー』にも、この単語は出ていました。
p1436 半クラウン
p1436 ジョージ陛下(King George)
(2022-4-26記載)
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(7) Jane in Search of a Job (初出The Grand Magazine 1924-8)「ジェインの求職」: 評価5点
こちらも失業から始まる物語。戦後のクリスティ家は貧しかったし、英国には困窮していた人が多かった。ロマンチックで危険な冒険のオハナシ。
p2473 二千ポンド◆英国消費者物価指数基準1924/2022(64.78倍)で£1=10548円。
p2511 美人コーラス(A beauty chorus)◆コーラス・ガール、という意味だろうか。
p2615 社会主義者的な気はまったくない(There was nothing of the Socialist)
p2769 ピストル(a revolver)
p2824 レーシング・カー(racong car)
(2022-4-26記載)
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(9) Mr Eastwood's Adventure (初出The Novel Magazine 1924-8 as ‘The Mystery of the Second Cucumber‘ 挿絵Wilmot Lunt)「イーストウッド君の冒険」: 評価5点
作家を主人公にした話は初めてかも。相変わらず能天気なロマンチックさ。
p3188 白ワイン用のグラスの値段… 「半ダースで五十五シリング」♣️(7)p2473の換算(1924)で29007円。
p3245 ごろつき(カナイユ)
p3276 昔のキリスト教徒だってやったことなんだから(The early Christians made a practice of that sort of thing)
p3322 使用人(his man)
p3377 戦後、ぼくも軍服を売ったおぼえがあります(I remember selling my uniform after the war)♣️何となくアーチーが軍服を売っぱらっているシーンを想像してしまった
(2022-4-26記載)
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(2) Philomel Cottage (初出The Grand Magazine 1924-11)「ナイチンゲール荘」: 評価7点
実に素晴らしいサスペンス。主人公の心の動きが過不足なく表現されている。アガサさんの初期の最高傑作です。ずっと1924年発表作品を読んで来ましたが、本作だけ突出した感じ。このあと1925年1月には『検察側の証人』です(この作品がアガサさんの米国雑誌初出の最初。販路を拡げた、ということだろう)。
p468 年に利子が200ポンド♠️(7)p2473の換算(1924)で211万円。元金は6000ポンドのようだから年利3.3%くらいか。
(2022-4-26記載)
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(5) The Manhood of Edward Robinson (初出The Grand Magazine 1924-12)「エドワード・ロビンソンは男なのだ」: 評価6点
いつものロマンチックな話だが、なんとなく地に足をつけたところがある。アガサさんは(2)で短篇小説のコツを掴んだのだろうか。
p1899 四シリング十一ペンスの安もののブラウス(the cheap four and elevenpenny blouse)◆(7)p2473の換算(1924)で2598円。12ペンスで1シリングに繰り上がるので、日本の980円みたいな値付けなのだろう。
p1930 一等賞の500ポンド
p1939 車体前部が長く、ピカピカの、二人乗りの自動車(a small two-seater car, with a long shining nose)◆この車種を特定したくて、いろいろ探したら、1920年台の広告でちょうど同じ値段のWolseley Stellite Ten Two-Seaterのがあった。なおアガサさんの愛車Morris Cowleyは1924年の広告でTwo Seaterは£198、Four Seaterは£225だった。
p1950 映画の最上席(best seats)… 三シリング六ペンス◆=1846円。普通席は二シリング四ペンス(=1231円)のようだ。
p2116 ブリッジの借金(Bridge debts)
p2125 カクテルとは享楽的な生活を象徴するもの(represented the quintessence of the fast life)
p2194 クラパム◆「普通の人」の代名詞
(2022-4-26記載)
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(1) The Listerdale Mystery (初出The Grand Magazine 1925-12 as ‘The Benevolent Butler’)「リスタデール卿の謎」: 評価5点
貧乏生活の描写から始まり、サスペンス小説になる。のんびりとした雰囲気が良い。
p13 モーニング・ポスト
p13 歯を買う(people who wanted to buy teeth)♣️こういう個人広告がよくあったのか。
p14 週二、三ギニー♣️一軒家の家賃、かなり安い。(7)の換算だと月額9〜13万円。
p17 ぞっとするような探偵小説(dreadful detective stories)
(2022-5-15記載)
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(11) The Rajah's Emerald (初出Red Magazine 1926-7-30 挿絵Jack M. Faulks)「ラジャのエメラルド」: 評価5点
Red Magazineは当時は隔週刊行の小説誌、4シリング112ページ。
主人公はジェイムズ・ボンド(James Bond)。当時の海水浴場の情景が楽しい。
p283 定価1シリングの本♠️廉価版。英国消費者物価指数基準1926/2022(65.13倍)で£1=10321円。1s.=516円。
p286 一番小さい貸別荘でも、家具付きだったら週25ギニー(The rent, furnished, of the smallest bungalow was twenty-five guineas a week)♠️観光地の家賃。月額117万円。
p288 着替え用の小屋やボックス(bathing huts and boxes)♠️海水浴場の設備
p297 海岸のカフェのメニュー、ここら辺の描写も面白い。
p299 新聞1ペニー♠️43円。
p304 ある有名な訴訟事件以外には、未開の国の支配者たちについてはまったく何も知らなかった(knew nothing whatsoever about native rulers, except for one cause célèbre) ♠️現在進行中のこの事件のことを指している?(cause célèbreは「訴訟」とは限らない)何か当時有名な事件があったのか。
(2022-5-15記載)
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(12) Swan Song (初出The Grand Magazine 1926-9)「白鳥の歌」: 評価4点
オペラ歌手の話。アガサさんは若い頃、歌手を目指していたことがあるので、こういうネタはお手のもの。再読して『トスカ』のヴィシ・ダルテを私はここで覚えたんだなあ、と感慨深い。作品としてはちょっと工夫不足。
p311 顔色の悪い娘(a pale girl)
p312 十七匹の鬼(seventeen devils)
p314 エラール(Erard)
p321 離婚や麻薬がやたらと出てくる超現代的な芝居(a play of the ultra new school; all divorce and drugs)◆この感想はアガサさんのものだろう。
p327 席はたった2リラ◆引退した歌手の回想。多分20年前ほど。
(2022-5-15記載)
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(8) A Fruitful Sunday (初出Daily Mail 1928-8-11 挿絵画家不明)「日曜日にはくだものを」
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(10) The Golden Ball (初出Daily Mail 1929-8-5 as ‘Playing the Innocent’ 挿絵Lowtham)「黄金の玉」
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(6) Accident (初出Sunday Dispatch 1929-9-22 as ‘The Uncrossed Path’, 挿絵画家不明)「事故」
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(4) Sing a Song of Sixpence (初出Holly Leaves, the annual Christmas special of the Illustrated Sporting & Dramatic News 1929-12 挿絵C. Watson)「六ペンスのうた」

No.3 5点 レッドキング
(2022/04/18 18:47登録)
アガサ・クリスティー第六短編集。ノンシリーズ短編集。第2,6編なんかうまく作れば怖いサスペンス映画できそう。
  「リスタデール卿の謎」 零落した上層家族が借りた執事付き格安旧館。その秘密や如何に・・3点。
  「ナイチンゲール荘」 夫の正体は青髭なのか・・怯える妻のホラーサスペンス・・からの・・6点。
  「車中の娘」 このプロット引き延ばせば、クリスティかカーの二流スパイ物になりそな・・3点。
  「六ペンスのうた」 これもマザーグース物と言えんのかな・・2点。
  「エドワードロビンソンの男ぶり」 偶然乗り違えた車で見つけたダイヤの謎・・からの・・5点。
  「事故」 父と前夫、ニ件殺害の疑惑を持たれた女。追う前刑事の見込んだWhyが驚きのツイストに・・7点。
  「ジェインの求職」 まんま「赤毛連盟」ビギン、「ブナ木立」ネタ・・からハッピーエンドへ・・6点。
で、採点対象7作の平均で、(3+6+3+2+5+7+6)÷7=4.571…切上げ、5点。
その他、「日曜には果物」「イーストウッド君の冒険」「金玉」「ラジャのエメラルド」は・・・いいや。
※「白鳥の歌」は採点対象外。

No.2 5点 蟷螂の斧
(2019/07/25 18:38登録)
12篇の短篇集。恋愛ものや冒険譚が半数位あります。
ベスト3は
「白鳥の歌」(8点)白鳥は死ぬ前に一番美しい声を出すという伝承があるらしい。「わたくし『トスカ』を歌うことはもう二度とないのよ」のセリフが心に沁みます。「お芝居はこれでおしまい!」とオシャレに短篇集のラストを締めくくっています。

「ナイチンゲール荘」(7点)どこかで読んでいると思ったら江戸川乱歩編「世界短編傑作集3」で「夜鶯荘」として紹介されていました。ブラックユーモア系です。

「リスタデール卿の謎」(7点)謎と真相のギャップが面白く微笑ましい。ハッピーエンド系。

No.1 5点 クリスティ再読
(2015/12/24 21:20登録)
短編集まで全部やるか...とは思ってなかったのだが、誰も書いてないし書こうか。本短編集はポアロもマープルも、およそ名探偵っぽい人は誰も出ない。ちょいと捻ったロマンチックな冒険譚、といったものが12編詰め合わせになっている。ミステリ、というよりも「とにかく一ひねり」とった感じで書かれているので、まあ大体読んでりゃ「こうだろうな」と感じればまあその通りになる、というものである。だから印象はどれも軽くさくっとした感じのものだ。
とはいえ、表題作は後の「終りなき夜に生まれつく」とか「親指のうずき」で描かれたような「夢の家」のモチーフが出ていたりとか、どうやら自叙伝によると、クリスティ本人の若い頃の状況に取材しているっぽいとか、そういう読み方はできて興味深い。
作品的にはやはり「エドワード・ロビンソンは男なのだ」(創元版が「男でござる」でこっちのがずっと趣がある。平手の造酒なんだよww)がヌケヌケとしたアホっぽいロマンスで妙にイイ。「虹をつかむ男」とかそういうノリだよね。
本短編集は気取らないすっぴんのクリスティって感じかな。脱力して読むのが吉。

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