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ミステリの祭典

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掏摸[スリ]

作家 中村文則
出版日2009年10月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 パメル
(2022/02/22 08:27登録)
主人公は掏摸を生業とする若者。彼は木崎という正体不明の男に操られ、母親から万引きを強いられている少年と関わり合う。木崎は、彼にある重要書類をスルように命じる。失敗すれば彼は殺され、逃げれば少年とその母親を殺すという。彼は命令を成し遂げるが、待っていたのは残酷な結末だった。
冷え冷えとした文章に引き込まれる。しかし、その氷上にいるような「死」の冷たさの底には、血がどくどくと噴き出さんばかりにたぎっている「生」があるのが良く分かる。
悪人である木崎が凄く魅力的。何を目的としているのか、大物なのか、それとも木崎自身がもっと大きな悪の支配下にあるのかも分からない。しかし人をまるで玩具のように扱う絶対的な冷酷さに圧倒的な存在感がある。「お前の運命は、俺が握っていたのか、それとも俺に握られることが、お前の運命だったのか。だが、それともそれは同じことだと思わんか?」という木崎の言葉は、組織に生きる、あるいは生きてきた人間には胸をえぐられる傷みを感じる。

No.3 6点 メルカトル
(2018/12/30 22:43登録)
東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化。
『BOOK』データベースより。

短いですが、中身がぎっしり詰まったアングラ小説です。裏の社会を描いた本作は、我々が体験できない非日常に満ちており、特に掏摸に関する実態やその手口などは、とてもよく研究されていて真に迫るものがあると思います。
非常に陰鬱な世界観と、狂気を超える愉悦とが縄のように交錯しながら物語は進行し、迫真のサスペンスを産んでいます。特に支配される立場にある主人公の一挙手一投足には目が離せません。

登場人物は子供に至るまで世間から弾き飛ばされた破滅型の人間ばかりで、作者らしくその内面を言動で鋭く抉っています。それは台詞による心理描写に、より優れており、木崎の長広舌などはその最たるものです。しかもこの木崎という男、本物の恐ろしさを湛えた超極悪人そのものですね。
作中に塔が何度も出てきますが、作者自身の解説によれば幼き日の原風景の一つだとのこと。これもなんだか納得できる気がします。誰もが持つ忘れがたい想い出のひとかけら、本人にとっては死ぬまで去らない何気ない一瞬。それがこの物語の原点のようです。
尚、主人公のその後は語られず終いですが、続編で明らかにされている模様。なのでやはり『王国』を読まずにはいられない私がそこにはいます。

No.2 7点 take5
(2018/09/16 15:11登録)
登場人物が必死に生きているところが
伝わります。
外国で翻訳されて人気と聞きましたが、
裏社会を描いただけではない普遍性を
感じるのでそれも納得です。
200ページ足らずでこのでき。

No.1 5点 haruka
(2016/09/11 23:35登録)
完成度の高い小説。なんだろうけど、面白い、って感じでもなく。
短いですが、読み応えはあります。

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