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ミステリの祭典

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告訴せず

作家 松本清張
出版日1978年03月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 6点 蟷螂の斧
(2020/08/01 13:44登録)
主人公と温泉旅館の女中・お篠との出会いは、「飢餓海峡」(1963年水上勉氏)を彷彿させます。また「赤いダイヤ」(1962年梶山 季之氏)を意識してか?前半はかなり「小豆相場」にページを割いています。株やFXなど相場に興味のある方は楽しめるかも。しかし、その結果、後半のエピソードや解決篇がやや大雑把になってしまった印象を受けました。そういえば、昔、金融機関では偽名預金もOKだったんですね。


【ネタバレ】記憶喪失のエピソードはトリックとしても面白かったので、もう少し騙し合いの場面を見てみたかった(笑)。

No.3 6点 人並由真
(2020/06/04 15:27登録)
(ネタバレなし)
 大衆食堂の主人で46歳の木谷省吾は、義弟で選挙運動中の保守系議員・大井芳太が政党の中央から託された選挙資金用の裏金3000万円を盗んで蒸発した。口うるさい妻・春子と子供を残しての失踪だが後悔はなく、裏金だから大井や政党が警察に訴えられないのも承知だった。ただ警戒すべきは、大井の腹心の選挙屋で暴力団とも縁がある光岡寅太郎だった。光岡の追跡を逃れながら「山田一夫」の名で温泉旅館に泊まった木谷は、無為に過ごしていればこの3000万円を数年間で使い切ってしまうと目算。この金を元手に何か儲けたいと思うが、その一方で、旅館の二十代末の肉感的な女中のお篠と男女の仲になる。その篠からこの近所に、的中率の高い「太占(ふとまに)」を行う神社があると聞かされて。

 1973年1月12日号から同年11月30日号にかけて「週刊朝日」に連載された作品。
 最初の書籍元版は、1974年2月の光文社カッパ・ノベルス。

 中盤の内容は完全に、小豆相場を主題にした相場師小説で、後半はその株で得た利益を元手に木谷が当時流行のモーテル経営に乗り出す。
 かなりの部分が普通の中間小説みたいな筋立てで、21世紀の今となっては昭和時代劇に触れるような隔世の感もあるが、その一方で物語には勢いがあり、文春文庫版でおよそ400ページを一晩で読んでしまった。この辺はさすが清張、手慣れた一作である。
 そういう内容というか方向の作品なので、終盤に向かって次第に転調してゆくあたりのさじ加減がミステリとしてはミソだったが、良くも悪くも円熟の創作技術(当人にとってはすでに手癖に近い感覚だったかも?)でまとめてこなしたような感触も強い。
 フツーに楽しめるけれど、たぶん清張としては(A~D段階の出来の分類があるとして)B~Cクラスであろう。
 この時代の都市銀行の預金者への対応がまだまだ甘かったことなどは、昭和の風俗として再確認できる。
 その年に新刊で読んでいれば7点はあげられたろうけれど、清張の著作の一冊としてはこの評点でいいかな。いや、それなりに面白いけどね。

No.2 6点 パメル
(2016/11/17 01:00登録)
不正な政治資金を持ち逃げした主人公はさらに資金を増やそうと日本古来の占いを信じ素人は手を出さない方が良いとされている小豆相場で賭けに出る
一方奪われた側も主人公に少しずつ恐怖を与え心理的に痛めつけ窮地に追い込んでいく様子が巧みに描かれて引き込まれる
ただある人物の裏切りを感じさせるような描き方は駄目だったと思う
そのため予想通りの展開に予想通りの結末と先が見えてしまった
落ち着くところに落ち着いた感じが残念

No.1 8点 斎藤警部
(2015/05/20 10:55登録)
持ち逃げされた黒い選挙資金は小豆相場で躍動。復讐の恐怖に震える男と、彼に近づく女の思惑は。。
横領、投機、ホテル経営、詐欺。 様々な経路を辿る金と男と女の行き着く先は何処?
時折旅情を織り交ぜながら、サスペンスが横溢。 強い悪女と小豆先物市場のヴィヴィッドな描写が怖い。
題名が秀逸。

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