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ミステリの祭典

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大渦巻への落下・灯台 -ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編-
新潮文庫

作家 エドガー・アラン・ポー
出版日2015年02月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 5点 みりん
(2024/11/04 17:36登録)
ゴシック編、ミステリ編に続きSF&ファンタジー編。前半の3つと『灯台』だけ拾い読みで良いと思います。『パノラマ島奇譚』が好きな方は『アルンハイムの地所』も読むべきかな。『ポー短編集Ⅳ 冒険編』みたいなのが一向に出る気配がないの、このアンソロのチョイスのせいだろ笑

『大渦巻への落下』
白髪になってしまった青年が、その原因となった奇怪な出来事を振り返る。これまた乱歩の『孤島の鬼』と似通っていますね。中身はまったくの別物で、サバイバル小説。語り手は生存本能よりも知的探求心が打ち勝ったからこそ生き延びた。図らずも人間讃歌になっていることが面白い。

『使い切った男』
今まで読んだポオ作品らしからぬコミカルな雰囲気。これなんでSF/ファンタジー編に入ってるの?と疑問に思っていたら、なるほど(笑)

『タール博士とフェザー教授』
これが本当の狂人の解放治療か!いやしかし現代の精神医療を風刺した夢野久作と保守派のポオでは逆のスタンスだな(すぐに登場人物の言動=作者の思想と決めつけるのは私の悪癖)

『メルツェルのチェスプレイヤー』
これははっきり言ってつまらなかった。プロに完勝する現代のコンピューターをポオに見せたい。

『メロンタ・タウタ』
2848年が舞台の正真正銘のSFだが、物語性がなくこれもつまらん。ちなみに未来予測は大外れ。いや2024年だからまだ断言はできないか…笑

『アルンハイムの地所』
なるほど、これも面白くはないけれど人工楽園系小説の始祖か。個人の資産で8兆円て…

『灯台』
とある灯台守が持ち場の灯台について違和感を抱く冒頭4ページだけで終わる、ポーの遺作?なにこれ、続きが気になりすぎるんだが。特に1.2メートルの厚みは怪しい、死体とか埋まってんのかな。

No.3 5点 ことは
(2024/07/15 20:45登録)
同じ新潮文庫の「モルグ街の殺人・黄金虫」「黒猫・アッシャー家の崩壊」を読んだので、本作も読んでみた。
やはり落穂拾いは否めないかな。お話として面白いのは、有名な「大渦巻への落下」だけ。「使い切った男」、「タール博士とフェザー博士の療法」は、なかなか振り切っている落ち(というか、設定)はよいが、それだけだし、「メルチェルのチェス・プレイヤー」、「メロンタ・タウタ」、「アルンハイムの地所」は、ストーリ展開がなし。「灯台」は数ページの掌編。
ただ、「アルンハイムの地所」は、乱歩の「パノラマ島」の元ネタだと読めて、かなり興味深かった。

No.2 7点 おっさん
(2015/10/25 18:51登録)
2009年に新潮文庫から、アメリカ文学研究者・巽孝之氏の編訳で、2冊のポー短編集が刊行されました。ゴシック編と銘打たれた『黒猫・アッシャー家の崩壊』と、ミステリ編の『モルグ街の殺人・黄金虫』です。全2巻で完結したものとばかり思っていたのですが、売り上げが順調なのか(?)今年2015年になって、突然、3冊目の本書、SF&ファンタジー編『大渦巻への落下・灯台』が追加されました。
前の2冊を、本サイトでレヴューしている関係上(その「編訳」に関しては不満が大きかったものの)、この巻だけ無視するわけにもいくまいと、手に取りました。
収録作は、以下の7作。

「大渦巻への落下」「使い切った男」「タール博士とフェザー教授の療法」「メルツェルのチェス・プレイヤー」「メロンタ・タウタ」「アルンハイムの地所」「灯台」

目次を見ての率直な印象は――なんだこの作品選択は!? でしたね。
SFとファンタジーに境界線を引かない編集方針は、いきおい収録作品のヴァラエティを生むとしても、しかし自動人形のイカサマをあばく「メルツェルのチェス・プレイヤー」や、造園芸術(美)の理想をカタチにした「アルンハイムの地所」などは、どちらの分野から見ても違うのでは? それに、千年後の未来が舞台で、月世界人まで描かれた「メロンタ・タウタ」(1849)が採られているのは当然としても、ポーをSFの先覚者として評価するなら、まず一番に収録すべきは、人類初の月旅行を描いた「ハンス・プファアルの無類の冒険」(1835 未完)ではないの?? というか、“気球”という格好の共通項もあるこのふたつのお話を、なぜ並べてみせない???

訳者自身の手になる、巻末の「解説」を読むと、そのへんの事情はある程度、推察できます。ポーのSFアンソロジーの先行例として、巽氏は、ハロルド・ビーバー編のThe Science Fiction of Edgar Allan Poe(1976)と、それにもとづく八木敏雄・編訳『ポオのSF』全2巻(講談社文庫 1979~80)をあげ、本書は「(……)そうした先人の業績をふまえつつ、訳者なりのひねりを加えたものである」と述べています。参考まで、その『ポオのSF』の収録作を挙げておきましょう。

〈1〉「ハンス・プファールの無類の冒険」「メロンタ・タウタ」「瓶から出た手記」「大渦への落下」「シェヘラザードの千二夜の物語」「ヴァルドマール氏の症状の真相」「のこぎり山奇談」「ミイラとの論争」「使いきった男」
〈2〉「ユリイカ」「エイロスとチャーミオンの会話」「モノスとユーナの対話」」「催眠術の啓示」「言葉の力」「タール博士とフェザー教授の療法」

じつに堂々たるラインナップです。そして――どうしようもなく完成されてしまっている。後人が同一テーマでアンソロジーを編もうとしたら、まあ、このミニチュア版にならざるを得ません。でも、肝心の『ポオのSF』は版を絶やして久しいのだし、読みやすい新訳を提供し、解説に最新情報を盛り込めば、別にミニチュア版であろうがなかろうが、新規読者のためにはそれで構わないではないか、と筆者などは思います。
しかし巽氏は、そう思えなかったのでしょうね。アンソロジストの矜持か、学者の意地か。作品選択に「訳者なりのひねりを加えた」本書のラインナップを見てくれ、と。その意欲と挑戦は、玄人筋には高く評価されるかもしれません。前掲の「メルツェルのチェス・プレイヤー」や「アルンハイムの地所」を選択した理由も、解説のなかで詳しく述べられており、筆者には牽強付会に思えますが(たとえば後者の、人工楽園の麻薬的幻想にSFの想像力を見てとるのであれば、江戸川乱歩のかの『パノラマ島奇談』までSFの仲間になってしまうのではないか?)、卓見と見る向きもあるでしょう。
ただ、ミステリ・ファンとして言わせてもらえば、作品の解説のなかで、断わりなしに「使い切った男」と「タール博士とフェザー教授の療法」のネタバラシをしているのは、いただけません。解説を先に読む、ポー作品の初心者のことを考えましたか、巽先生?

さて。
さんざんケチをつけましたが……いわゆる定番名作といえるのは、巻頭の「大渦巻への落下」くらいであるにもかかわらず、他の収録作のレヴェルもきわめて高いので、「SF&ファンタジー編」とかいうことをあまり深く考えず、ポー短編集の「拾遺集」として読めば、本書は作者の多彩な魅力を堪能できる、贅沢な一冊です。
なにより、創元推理文庫の〈ポオ小説全集〉では読めない、未完の遺作「灯台」を収録しているのはポイントが高い。筆者は昔、ロバート・ブロックが補筆して完成させたヴァージョンを、早川書房の傑作アンソロジー『37の短篇』で読んでいましたが、まったく設定を失念しており、今回、こんなに魅力的なイントロだったのか、と感じ入りました。作中人物の灯台守が綴る日記が、結果として中絶してしまっているわけですが、逆にそれが、彼に何が起こったのかという、得も言われぬ不気味さを残すことになっています。ある意味、ホラーとしては、続きがないほうが怖い。
そして、このお話が「アルンハイムの地所」のあとに置かれていることで、その効果が最大になっていると、筆者には思えました。というのは、「アルンハイムの地所」の幕切れは、ポー作品のなかでも屈指の明るさに満ちているわけです。天上の輝きを思わせる、と言っても過言ではありません。その“明”と、直後の「灯台」の、底知れぬ“暗”のコントラスト。こればかりは、巽氏の配列の妙に脱帽です。
読後に広がる “暗黒の海”のイメージ。それはそのまま「大渦巻への落下」の海へとつながり――瓶詰めの手紙が投げ込まれた「メロンタ・タウタ」の海へもつながります。
って、困ったなあ。書いているうちに、また最初から読み返したくなってきてしまったぞwww

No.1 5点 E-BANKER
(2015/03/28 17:36登録)
新潮社の編集によるE.A.ポーの短編集第三弾。
今回はSF、ファンタジー系作品を中心とした作品集となっている。

①「大渦巻への落下」=舞台は北欧・ノルウェー沖。中型の漁船クラスの船が伝説の“大渦巻”に呑み込まれてしまう・・・のか? ラストは江戸川乱歩の某作品を思い出してしまった。
②「使い切った男」=原住民との戦場で大活躍をした伝説の戦士。彼はいったいどんな男なのか・・・ということで話は進むのだが、ラストにはシニカルな結果が待ち受けている。
③「タール博士とフェザー博士の療法」=タイトルはこうなっているのだが、話中にタール博士もフェザー博士も登場しない不思議なストーリー。とある精神病院を舞台に「鎮静療法」なる謎の療法が語られるのだが・・・
④「メルチェルのチェス・プレイヤー」=“自動人形”と呼ばれ、対戦相手とチェスを指すことができる人形。要はからくり人形っていうことなのだろうが、本作はその「からくり=仕掛け」を延々と解説してくれる・・・。巻末解説によると、本作が後世のSF作品に与えた影響は小さくないとのことだが・・・
⑤「メロンタ・タウタ」=作者の天文学への憧憬や興味が反映された作品。つまりはSF的な作品ではあるのだが、結局タイトルの意味はよく分からなかった。
⑥「アルンハイムの地所」=これが一番よく分からなかった。主人公である詩人的造園家エリソンが、実はポー自身の投影になっているとのことだが・・・
⑦「灯台」=実は未完の作品。ただし、舞台は北欧の海辺であり、①につながる作品ではないかという“いわく”があるとのこと。確かに魅力的な書き出しではある。

以上7編。
さすがジャンルを越え、多方面に才能を発揮した作者ならではの作品集。
正直、私のチンケな頭では理解できないものもあるのだが、脂の乗った時期に当たり、筆が乗っていることを思わせる作品が多い。

文庫巻末解説では、後世のSF作品への影響についても触れているので、SF好きの方は一読してみてもいいのでは?
本格しか読まないという方にはややキツイかも・・・
(個人的には、やたら自動人形の仕掛けに拘った④が一番印象に残ったのだが・・・)

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