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ミステリの祭典

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“文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)

作家 野村美月
出版日2006年08月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 5点 ボナンザ
(2021/03/01 21:06登録)
相変わらずとんでもないキャラクターが続出するシリーズである・・・。嵐が丘をテーマにするのみならず、かなり濃く反映させるあたりにこだわりと覚悟を感じる。

No.3 6点 じきる
(2020/12/10 11:49登録)
重いストーリーだけど、このシリーズの良さが存分に詰まってます。

No.2 7点 メルカトル
(2019/12/13 22:12登録)
文芸部部長・天野遠子。物語を食べちゃうくらい愛しているこの自称“文学少女”に、後輩の井上心葉は振り回されっぱなしの毎日を送っている。そんなある日、文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」という文字や、謎の数字を書き連ねた紙片が投げ込まれる。文芸部への挑戦だわ!と、心葉を巻き込み調査をはじめる遠子だが、見つけた“犯人”は「わたし、もう死んでるの」と笑う少女で―!?コメディ風味のビターテイスト学園ミステリー、第2弾。
『BOOK』データベースより。

今回は『嵐が丘』。私は未読ですし映画も観ていません。
前作に続き小説を書かれた紙を食べてしまう天野遠子先輩には違和感を覚えます。食べたらもう読めなくなるのに、とまるで凡人丸出しの感想しか持てない私です。身体にも良くないでしょう、消化できるんでしょうか?
本作、結構残酷な話なんですが、作者はそれを暗黒系一辺倒にならず切なさに変換するテクニックを持っていますね。暗い物語を遠子先輩や心葉のキャラで中和し、丁度良い塩梅のライトな読み物として完成させています。かなりの完成度の高さだと思います。
挿絵も良い感じです。欲しいところで欲しいイメージのイラストがポッと現れると、憎いねえと感心します。

それにしても、相変わらずキャラが立っていますね。全ての登場人物が生きています。中でも琴吹さんが私のお気に入り。自分の気持ちを素直に表現できず、つい憎まれ口を叩いてしまったり、じーっと睨んだりして何か可愛らしいですよね。全てを見透かしたような、女王様で尊大な麻貴先輩もいい味出してます。
まだまだ明かされていない心葉の秘密も気になるところです、最終巻まではまだ遠い道のりではありますが、忘れた頃にまた読みたいと思います。

No.1 8点 おっさん
(2015/01/16 06:57登録)
物語を“食べちゃうくらい”愛している、自称・文学少女を主人公に、内外の文学作品がキイとなる事件をミステリ・タッチで描く、ライトノベルの人気シリーズの第二長編です(2006年刊)。
今回の導入は、こんな感じ。

聖条学園文芸部の部長・天野遠子が、校内の中庭に設置した恋愛相談ポストに、連日、おどろおどろしい文章の走り書きや、意味不明の数字を羅列したメモが、投げ込まれる。「わたしたちへの挑戦状ね。(……)今日から中庭で張り込みをするんだから。これは先輩命令よ、心葉(このは)くん」。
ヒートアップした先輩と、「ぼく」こと井上心葉――この二人しか文芸部員はいないのである――が夜中にポストを見張っていると、怪談めいた現象(校舎の明かりの点滅、鳴り響くラップ音、そして生々しいすすり泣き)が突発し、続けて、古い制服を着た少女が現われ、ノートに文字を書き、それをちぎってポストに入れはじめた。「九條夏夜乃(くじょう かやの)」と名乗る、この異様な雰囲気の少女は、遠子の問いかけをはぐらかし、笑いながら――「だってわたし、とっくに死んでるんですもの」――闇の中へ消えてしまう。
相変わらずの妄想モード全開で、この幽霊騒ぎ(?)に没入していく遠子に対し、面倒事に巻き込まれるのを厭う心葉は、君子危うきに近寄らずを実践しようとするが、遠子の下宿先の息子・櫻井流人から相談を持ちかけられ(「心葉さんの学校に好きな子がいるんだ。協力してくれないっすかね?」)、はからずも謎の追及にあたることになってしまう。
プレイボーイの流人がいま夢中になっている、問題の女の子、雨宮蛍は――
「あいつ、たまに別人になっちまうんです。夜になったり、薄暗い場所に行ったりすると、急に陽気になったり機嫌悪くなったりして、自分のこと『わたしは九條夏夜乃よ』なんて言い出すし」
なぜ、彼女は「夏夜乃」に変わってしまうのか? そして、文芸部のポストに投じられたメモの意味は?

前作『“文学少女”と死にたがりの道化』は、「ぼく」の一人称記述に、随所で、太宰治の『人間失格』に呪縛された別なキャラクターの文章が挿入される構成でした。本書も同様に、心葉のナレーションに、愛憎劇を繰り広げる「彼」と「彼女」の謎めいたモノローグが併置される構成をとっています。
モチーフとなる“題材”が明示されるのは、ストーリーが七割がた進行してからなのですが、作者自身が「あとがき」でネタバラシしているので、あえて書いてしまうと、本作の下敷きになっているのは、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』です。ベタな種明かしをともなうオカルト趣向や、マンガ・チックなエピソードは、あの、息づまる復讐劇の世界へ読者を誘うプレリュードにすぎません。
筆者は『嵐が丘』を、いちおう中学生のときに読んではいますが、ドロドロしたメロドラマが好みにあったとは言えず、ストーリーは、ほぼ忘却の彼方でした。まさかこういう形で、「彼」や「彼女」と“再会”することになるとは。
あ、もちろん元ネタを知らなければ駄目な話ではありませんよ。逆に、興味をもった若い読者が、未読の『嵐が丘』に手を伸ばしたくなるような、そんな書きかたを作者はしています(じつは筆者も、遠子先輩のあるセリフに触発されて、“操り”というミステリ的観点から、同書を読み返したくなってきました)。
しかし。
正直いって『嵐が丘』の基本設定をなぞった部分は、18~19世紀のイギリスならともかく、現代の日本が舞台では無理筋の感を否めない。「彼は外国で死んだことになっているけれど、悪事に手を染めて得た金で、別の名前と戸籍を手に入れて日本に戻ってきたのよ」というあたりの安直さは、ミステリ・プロパーの読者にはキビシイ。
う~ん、と思いながら読んでいたら・・・土壇場で、作者は『嵐が丘』をひと捻りしてくれました。そこからの怒涛の展開――謎解き、逆転、愛と憎しみのラリーの決着――は、目を見張るものがあります。ああ、これは堂々のアンサーソングだ。
そして「エピローグ」。
!!!
ドラマの舞台裏が、読者にだけ明らかになります。
なるほど、これが野村美月のミステリなのか――と納得しました。前作のレヴューで、筆者は「今回の手口は、繰り返し使うわけにはいかないだろう」と書いたのですが、良い意味で裏切られました。見事です。

本のページや紙に書かれた文字を、実際に食べてしまう“文学少女”のキャラクター属性にもだいぶ慣れてきましたw
本書のラスト近く、文芸部のポストに入れられたメモを、遠子が手にとって、書かれた数字(暗号通信)を見つめ、「(……)ときどき小さく喉を震わせながら、苦しそうに、悲しそうに、目をうるませて、最後の一枚まで食べ続け」る場面は、美しくすらあります。
こまごました瑕疵は、まあ、いいでしょう。
これは力のこもった、良い小説です。遅れてきた読者として、シリーズへの期待値を込めて8点を献上します。

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