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ミステリの祭典

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アポロンの嘲笑

作家 中山七里
出版日2014年09月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 4点 mediocrity
(2019/06/29 00:07登録)
過去に読んだ同氏の著作2冊よりは表現的な不快感は少ない。小説としてはそれなりに楽しめた。
それにしても、よくここまで原発批判、東電批判をあからさまに書く勇気があったものだ。内容自体はどこかで聞いたことのあるような事ばかりで目新しさはないが、書いていて怖くなかったのだろうか。原発関連の話を調べていたら色々ときな臭い噂は聞いているだろうに、怖いもの知らずだな人だなと感じた。

さてストーリーだが、色々と設定に現実味が薄くて、荒唐無稽すぎると一笑に付す人もいるだろう。相変わらず細かい所は突っ込み所が非常に多い。特に、主人公がマンガのヒーローなのかと思えるくらいの超人なのが笑える。ほとんど何も食べていないのに警察官をいったい何人倒したんだろう。火事場の馬鹿力なのだと言われればそうなのだろうが。

以上のような事を無視するとしても、ミステリ要素はほとんどないし、ストーリーに驚きがほとんどないのはいかんともしがたい。社会派推理小説というよりは、コミック風の反原発小説に思えた。

No.3 5点 蟷螂の斧
(2017/07/08 19:11登録)
本作の後に発表された「月光スティグマ」も阪神淡路大震災と東日本大震災を扱っており、社会派的要素が強い作品でした。「アポロン(太陽神)」、「月」と続いたわけで、次は「星」?と思っていたら、今月発売される「ネメシスの使者」が「仮説上の恒星」という意味もあるみたい。ギリシャ神話の「女神」が正解みたいですが・・・。本作は逃亡劇を中心とした社会派人間ドラマといったところ。その面では筆力で読ませてくれ高評価です。しかしミステリーの面ではやや物足りません。著者の専売特許「どんでん返し」を期待し過ぎたか?(苦笑)。

No.2 8点 HORNET
(2015/05/02 20:11登録)
 突如襲った大地震に、全ての機能が麻痺している福島県。そんなさなかに飛び込んできた殺人事件の一報。東日本大震災を舞台・題材とした重厚なミステリ。著者の原発および原発に関する国政や組織に対する強烈な批判が込められた、社会小説としての要素も色濃い一作である。
 福島第一原発の作業員として働く親子、その家族。その家族に迎え入れられているぐらいの親密さで付き合いのあった、同じく原発作業員の加瀬。その加瀬が、世話になっている家族の息子、純一を刺殺した。事件後、警察の隙をついて逃走した加瀬。しかし、その向かっている先はどうやら福島第一原発。いったい加瀬は何を考えているのか、そして事件の本当の内情は…?
 当時の悲惨な状況をリアルに描く文章、逃走劇の疾走感、原発政策に対する怒りを発露する力ある描写。非常に「読める」。結末の在り方や真相については、現実主義の人には賛否両論かもしれないが、私は◎。

No.1 6点 虫暮部
(2014/11/05 20:08登録)
 まず、“加瀬邦彦”というネーミングに失笑。実在のミュージシャンと同姓同名である(「想い出の渚」のザ・ワイルド・ワンズのリーダー)。雑誌連載中に読者の誰も指摘しなかったのだろうか。
 読み終えてみると、非常に不自然な話。金城一家は何故通報前に邦彦を逃がさなかったのか、もしくは数日でいいから殺人を隠蔽しなかったのか。パトカーから逃げられなかったらどうする。
 また、“空腹”の進行が早過ぎると思った。プチ断食はしたことがあるけれど、一日二日で行動に支障をきたすような状態にはならない。空腹感も動けば紛れるレヴェルである。一方、食べなくても出るものは出る。というか寧ろ便通が良くなる傾向があるんだけど、その点は何も書かれていない。

 突っ込みどころに目を瞑れば、骨太な人間ドラマ、としての評価は出来る。震災にまつわる諸々については、声高に批判してしまうと読者は却って醒めてしまうものだな、というのが実感。

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