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ミステリの祭典

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シュークリーム・パニック  生チョコレート

作家 倉知淳
出版日2013年10月
平均点5.20点
書評数5人

No.5 5点 505
(2015/10/27 11:47登録)
本書は、短編が3作収録されているが、どれも倉知特有のユーモア&ロジックというわけではなく、ミステリの技法をストーリーに絡ませているモノが多い。ガチガチの本格ミステリというよりかは、『日常の謎』に分類される癖のある短編集と言うべきだろう。

『現金強奪作戦!(但し現地集合)』は、一癖ある銀行強盗モノであるが、このトリックを使うにはやや〝説明〟が弱いと感じることも。サクラダから銀行強盗を持ち掛けられた主人公は、それ相応の葛藤の中、強盗をすることを決断するのだが、サクラダからの説明がシンプルすぎる。
①モデルガンで脅し、3分以内に金を運ぶ
②4人体制
③1人1億円の分け前
といった概要をサクラダが話すのだが、主人公が現場でやるべき事についての〝説明〟が薄い。一世一代の大勝負、一蓮托生するには計画犯罪のわりに杜撰なのでは?という疑問を読者に植え付けるところがあり、これはただの強盗モノではないという警戒心を与える。このトリックを純粋に読者に仕掛けるには、主人公同様の〝真っ新な〟状態が好ましく、純粋な倒叙モノだと錯覚させる必要がある。その点が弱いと感じた。しかし、伏線やオチは上手く練られており、ただでは転ばない作風を如実に表現している。そういうこともあって、癖のある倒叙モノを読みたい方には自信を持って勧められる。

『強運の男』は、とあるバーにて隣の男から何気ない運試しゲームを持ち掛けられるという話。この短編は、構造が構造なので、オチが見えやすいのが瑕である。ゲームが進む毎に徐々に高くなっていくレートであるが、主人公にとってはノーリスクという点を丁寧に描かれている。それが一種のミスディレクションとなり、オチに繋がる流れであるが、平均点の域を出ない。話が話なだけに小粒であり、これ以上に話自体を膨らませることは難しく、構造とスケールの問題であり、これ以上苦言を呈するのは無粋かもしれない。しかし、読みどころと言うと、ゲームを仕掛けてきた紳士から出る〝狂気性〟とも取れる運への飽くなき欲求だろうか。その姿勢はギャンブラーの極致を示しており、力説する様は鬼気迫る力がある、この話は、〝馬鹿げた話を如何に説得力をもって信じ込ませられるか〟に限っており、その部分についての評価は高い。

『夏の終わりと僕らの影と』は、端的に言うならばジュブナイルである。ミステリ要素としては、〝監視下における人間消失〟であるが、その謎自体はかなり小さいものである。〝どうやって人間が消えたのか〟というよりも〝なぜ消えたのか〟が問題であり、その意図にこそ作者が描いた一夏の思い出に掛けた青春グラフィティが展開されている。探偵役が怒涛の推理をするシーンがあるが、そこの徹底した部分はミステリとして評価されるべきものではあるが、あくまでも推理シーンは〝ミステリの手法を借りた〟程度のものであり、それが本質ではない。結末を敢えて描かないリドル・ストーリー風になっているところが、爽やかな余韻を齎す。青春物語として構えることが肩透かしを食らわない近道だと言えよう。

No.4 5点 虫暮部
(2014/02/03 07:11登録)
「強運の男」はミステリではなく、奇妙な味の短編といった類のものである。私はミステリのつもりで読み始め、“これをどうやって着地させるのか?”と前半とても興奮し、後半で肩透かしを食らった。ミステリという先入観なしで読めばもっと楽しめたはず。 
 作者が倉知淳である以上、その先入観はいかんともしがたい。かといって、“ミステリ作家として認知されているひとはミステリだけ書いてくれ”というのもなんだし。どうしたものか。

No.3 6点 白い風
(2014/01/25 17:40登録)
3編の短編集だったけど、どれも趣向が違っていて楽しめました。
どれも、その後がちょこっと気になるラストも短編集らしくていいですね。
それに倉知さんの作品は死者があんまり出ないので安心して読めますね(笑)
「夏の終わりと僕らの影と」は青春ミステリーで登場人物のキャラもしっかりしていて一番楽しめたかな。
もう1冊同名で”Wクリーム”編もあるので読んでみたいですね。

No.2 5点 まさむね
(2014/01/05 23:22登録)
 3作品で構成される中短編集。
 作品ごとに雰囲気が異なるので,人それぞれ一定楽しめるとは思うのですが,いずれももうワンパンチ欲しかったような気がします。
 特に「夏の終わりと僕らの影と」は,青春ミステリとして綺麗な流れだけに,もう一捻りあれば更に良かったかなぁ…と。

No.1 5点 kanamori
(2013/11/18 18:48登録)
中短編3作を収録した作品集。それぞれテイストが異なりバラエティに富んでいて楽しめましたが、いずれも結末にもう少しインパクトがあればと思わなくもありません。

「現金強奪作戦!(但し現地集合)」は、借金苦の”僕”が競馬場で知り合った男から銀行強盗の計画に誘われる話。泡坂妻夫の”亜流”のようなロジックと、タイトルにある”現地集合”にニヤリ。
「強運の男」は、バーで隣り合わせた男から賭けゲームを持ちかけられ、段々それがエスカレートする話。よくある設定ながら、結末までの展開がなかなかスリリング。
中編の「夏の終わりと僕らの影と」は、高校生男女5人が夏休みに自主映画を製作中にヒロイン役が消失する話。人物消失のトリックは真相がミエミエでアレですが、どのキャラクターも活き活きと描かれており青春ミステリとしては秀逸。これが個人的ベスト。

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