危険な未亡人 ペリイ・メイスン |
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作家 | E・S・ガードナー |
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出版日 | 1957年01月 |
平均点 | 6.40点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/09/09 14:18登録) (ネタバレなし) 『吠える犬』事件の公判でメイスンの戦果を認めた、富裕で若々しい68歳の未亡人マチルダ・ベンスン。そんなマチルダはメイスンの事務所を訪れ、賭博船「豊角(ホーン・オブ・ブレンディ)」にてギャンブルでの負債を抱えた孫娘シルヴィア・オックスマンに関するトラブルを訴える。富豪のマチルダがシルヴィアの負債を払うこと自体は可能だが、シルヴィアの夫でブローカーのフランクがさる利権上の理由から離婚を画策。それで離婚時に自分を有利にするべく、妻がだらしないギャンブル依存症という証拠となる、胴元からの借用書を入手したがっている。だからメイスンにそれを阻止してほしいと願うのだ。かくして相棒の私立探偵ドレイクを連れ、賭博船に乗り込むメイスンだが、船上では予期せぬ殺人事件が。 1937年のアメリカ作品。メイスンものの第10作目(長編限定?)ということで、割とシリーズ初期の作品だと思うが、洋上の大型ギャンブル船という閉鎖された舞台に二回に渡って乗り込んでいくメイスンの実働が、40~50年代私立探偵小説っぽくてステキ。 特に第二回目の乗船では相棒のドレイクとも別働し、そこで心身ともに機転の利いた動きを見せる(公的で客観的な記録をわざと残させるため、半裸になって自ら身体検査を受けるあたりの見た目のみっともなさも、逆説的にカッコイイ)。メイスンものでこういう趣の楽しさを感じるのは本当に久々、いや初めてかもしれない。 メインゲストキャラのマチルダばあちゃんは、メイスンの事務所を訪問早々「私は別に殺人を犯したわけではない」と軽口ジョーク。いや、作中のリアルでメイスンが何度も殺人事件に関わり合い、それが世の中にも広く報道されていることを前提にしたジョークだろうが、素で読むと<弁護士の事務所に入室して、いきなり自分は殺人犯ではない、と主張するおかしなばあさん>である。しかもポケミスの裏表紙あらすじでは、そんな冒頭の一幕をいかにもいわくありげに書いてあるものだから、なんかオカシイ。大昔からポケミスのこの記述は、妙に心に引っかかっていた。 殺人の謎ときがやや複雑でせせこましいという難点はあるが、一方でサブストーリーとして語られる、ドレイクが使う外注のフリーの探偵稼業の面々の挿話なんかも興味深い。今のハムラアキラみたいな苦労話って、昔からあったんだよ。 これまで読んだメイスンシリーズの中でも、割と面白い方でしょう。 |
No.4 | 8点 | 弾十六 | |
(2018/11/09 04:14登録) ペリーファン評価★★★★★ ペリー メイスン第10話。1937年4月出版 吠える犬の法廷を見て気に入ったという葉巻をふかす老婦人。このキャラが良い。わたし的に依頼人中ナンバーワンです。メイスンは賭博場のバーでトム・アンド・ジェリーを注文。事務所の入口ドアの文字はPERRY MASON (改行) ATTORNEY AT LAW (改行) Entrance。ドレイク探偵社の探偵システムの裏話(1日8ドルの日当)が興味深い。 騙しやハッタリに満ちた物語で、メイスンの大胆な行動とぬけぬけと押し通す鉄面皮がイキイキと描かれた傑作。 銃は38口径オートマチック(メーカー不明)と45口径オートマチック(多分Colt M1911)と謎の32口径スミス・アンド・ウェッソン・スペシャルが登場。最後の32口径S&W「スペシャル」というのは発言者が嘘をついている、ということを強調してるのでは?と最近気づきました。(38スペシャルはあるけど32スペシャルは存在しません) |
No.3 | 5点 | nukkam | |
(2016/08/29 01:06登録) (ネタバレなしです) 初期のペリイ・メイスンシリーズではメイスンを弁護士というよりも私立探偵らしく描いている作品がありますが1937年発表のシリーズ第10作の本書もそんな1冊です。現場を引っ掻き回して警察から雲隠れする一方でしっかり容疑者を追い詰める行動派メイスンが描かれます。ハードボイルド小説の探偵よろしく卵をハードボイルドにしたりトーストを焦がす場面は狙いすぎだろと突っ込みたくもなりますが(笑)。複雑なプロットとたたみ掛けるようなストーリー展開のブレンドが絶妙で、思わぬ自白に意表を突かれる謎解き場面まで一気に読ませます。 |
No.2 | 6点 | 了然和尚 | |
(2015/08/27 08:23登録) 11作続けて読んできましたが、いつものように楽しめました。メイスンの寝技も段々危なくなってきますが、ついに逮捕されました。メイスン物はサスペンス活劇という先入観があり、今まで軽視していたのですが、実際はよく根拠が提示された論理を重視する本格物です。本作も、例えば事実と違っても自殺の結論をひねり出してごまかすような結末を予想したのですが、意外な犯人とトリックを暴いて決着しています。残念ながら、うかつにも金庫「室」というのを読み逃して、とほほな読後感になりましたが。 |
No.1 | 6点 | 空 | |
(2012/01/27 21:39登録) 『どもりの主教』と『カナリヤの爪』の間に書かれた作品らしいのですが、ほとんどの作品ラストにある次作の依頼人登場については、『どもりの主教』の場合『カナリヤの爪』なのです。そして、本作にはその恒例次回予告がありません。 依頼人の老婦人は、最初から自分のことを「危険な未亡人」だと言っていますが、実際最後までしたたか者ぶりを発揮してくれます。ただし、トラブルに巻き込まれ、殺人容疑者になるのは依頼人ではなく、その孫娘。 メイスンが証人を隠すことはよくありますが、今回はメイスン自身が殺人の事後従犯の疑いを受け、自ら隠れなければならなくなってしまいます。このあたりの楽しい事件紛糾ぶりに比べ、真相自体はごく単純です。裁判にもならず、とりあえず逮捕されて、他の証人たちや容疑者と一緒に地方検事の下へ連れてこられたメイスンが、その場で決着をつけてしまうのですが、偶然で変に複雑化した真相よりも好感が持てます。 |