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ミステリの祭典

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別れを告げに来た男
別題『亡命者』

作家 ブライアン・フリーマントル
出版日1976年01月
平均点6.60点
書評数5人

No.5 7点 Tetchy
(2015/04/23 23:47登録)
三つ子の魂百までとはよく云ったもので、主人公を主体にしたメインストーリーが繰り広げる中で章の終わりにインタールードのように挿入されるソ連の秘密委員会たちによる謎めいた会議の様子は本書ではサプライズのために実に有機的に機能しているが、これはフリーマントル作品ではお馴染みの構成で既に本書においてフリーマントルのスタイルとして確立されているのに驚いた。

さらにはチャーリー・マフィンシリーズを筆頭に描かれるイギリス人への痛烈なる皮肉。上にも書いたが常にロシア人は物事の深淵を透徹した視野で物事を考え、イギリス人は目の前に駆引きに終始して、物事の本質を見極められないというイギリス政府蔑視の姿勢が既に本作で確立されているのには苦笑してしまった。

重ねて云えば最新作『魂をなくした男』とデビュー作の本書が奇妙に題材が酷似していることもその裏付けだと云えるだろう。そう考えれば自分の禿げ頭にコンプレックスを抱いてカツラ愛用者を見破ろうとしている奇妙な性格のエィドリアン・ドッズは危機を感知すると幅広な形の足が痛むチャーリー・マフィンの原型だったのかもしれない。

また本書は題名がいい。原題は“Goodbye To An Old Friend”でこれが最後の1行として現れ、実に切ない余韻を残す。そして邦題は『~した男』とフリーマントル翻訳作品の題名のフォーマットを踏襲しながら原題を活かし、読後にその真意に気付かされる、ミステリのお手本のような翻訳だ。

ただデビュー作ということもあってか、本書は珍しく皮肉屋のフリーマントルらしくなくサプライズと深い余韻を重視したエンディングになっている。これが今ならば恐らくパーヴェルはソ連に帰国した直後に証拠隠滅のため消され、家族もまたソ連の亡命者への粛清を大義名分として抹殺されていたことだろう。むしろこういう結末にならなかったことにほっとしている。そして最後のパーヴェルのソ連秘密委員長に対するある抵抗も、男が男を認めた瞬間で実に気持ちのいい場面だ。正直に云えばいつもこのような形で終わればいいのにと思うのだが。

No.4 6点 mini
(2014/12/04 09:55登録)
先月28日に新潮文庫からブライアン・フリーマントル「魂をなくした男」が刊行された、上・下2巻分冊の大作で、「消されかけた男」に始まるあのチャーリー・マフィンシリーズの完結編との事だ、まぁ多分シリーズ全体ではなくて3部作が完結という意味なんだろうけど、ファンには見逃せないな

特に理由は無いのだが何故か私はフリーマントルはこれまで未読で、いつか機会が有ったらとは思っていたので、マフィンの登場しないノンシリーズだが、スパイ小説デビュー作の「別れを告げに来た男」を初めて読んでみた
読んでみると、フリーマントルという作家に対して私がこれまでイメージしていた感じに結構近いものだった
文体は軽快ではないが重くもなくかなり読み易いので、スパイ小説に偏見を持っている読者に対して、少なくともル・カレなどをいきなり読むよりは取っ付き易いのではないかと思った
逆に暗く重い作風が好きな読み応え重視の読者には、仕掛けばかりが目立ってしまって合わないかも知れない
当サイトでkanamoriさんも御指摘のように、真相の半分くらいは凡その読者は見抜けてしまうと思うのだが、ソ連側の基本的な狙いよりもその手段方法が意表を突いており、これは見抜ける読者はまず居ないだろう
話の舞台が殆ど英国内に限定されるので、国際的な雰囲気には欠けており、スパイものらしいスパイ小説を求める読者にはちょっともの足らないが、スパイ小説には全く興味が無く本格派しか興味の無い読者がたまには毛色の違うものも読んでみようと思ったときには結構お薦めなのではと思う

No.3 5点 ボナンザ
(2014/09/15 20:55登録)
スパイ小説としても面白いが、結末へいたる展開は本格ものに通じるところがあり、その意味でも上質な作品。

No.2 8点 tider-tiger
(2014/06/01 14:18登録)
手抜きと思われそうですが、感想はkanamoriさんとほぼ同じです。スパイ小説としても完成度高く、ミステリとして読んでもいい。付け足すなら、主人公とソ連からの亡命者の腹の探り合いが非常に読み応えありました。

No.1 7点 kanamori
(2010/07/22 18:22登録)
チャーリー・マフィンシリーズの数年前に書かれた著者のデビュー作。
今作も、英国政府がソ連情報部に出し抜かれる様を描いたエスピオナージュの傑作で、短めの長編だけにキレは抜群。
ソ連からの亡命を求める二人目の科学者の目的はうすうす分かりますが、その方策が謎で物語のキモ。伏線がきっちり張られていて、まるでハウダニットの本格ミステリを読んだような感覚だった。

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