メグレ再出馬 メグレ警視 別題「幕をとじてから」 |
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作家 | ジョルジュ・シムノン |
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出版日 | 1980年03月 |
平均点 | 5.75点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2023/02/02 11:28登録) メグレ物というのは、読者が「何が面白いのか?」を自分で探すことが問われる小説だ、とつねづね評者は感じていたりする。特に本作は第1期の最終作という特異な立場の作品。引退後のメグレがわざわざ甥の事件に介入する話で、第1期の特徴の「犯人との心理的対決」に加えて、第3期で目立つ「組織人メグレ」の要素も兼ね備えた両義的な作品だったりもする。 事件自体は大したことはない。暗黒街(ミリュー)の仲間割れみたいなものである。謎解き的な楽しみはほとんどない、といえばない(でも後述..)。もはや私人であるメグレが殺されかける場面はあるが、スリラー的な面白さでもない。第1期特有の心理サスペンス感は本作では希薄....となると、「何を褒めたらいいんだろう?」と困惑するのはよく分かるんだなぁ。 この小説の魅力というのは「感覚が広がっていく」ようなところ、とか抽象的な言い方で申し訳ないんだけども、そういう言い方をしたいんだ。仕事を引退して田舎に引きこもっていたメグレ。その「屈した」気持ちが久々のパリで出会った人々によって、徐々にほぐれていくさまみたいなものに、評者は面白味を感じながら読んでいた。メグレが味方にしようとして失敗する娼婦フェルナンド、メグレを心配するリュカ、メグレの後任でも妙なライバル意識もあってメグレの行動に困惑するアマデューといった面々との「気持ち」の通わせ方はもう「戦後のメグレ」になっている。組織から離れたがゆえに組織が前景に見えてくる逆説。そして、 「もしよかったら、芝居へでもいくとするか。」「お芝居ですって、フィリップが刑務所に入っているのに?」「ふん!これが最後の夜さ」 で甥の身を案じてパリに駆け付けた母親(メグレの義姉)と一緒に、劇場やらナイトクラブを楽しむシーンが、生き生きとして素敵なんだよなぁ.... で第一期らしい最終対決も、メグレは決め手がなかなか見いだせない。それをメグレらしい「了解」でカチッと鍵と錠がハマるような瞬間が起きる。これこそメグレらしい「謎解き」ではない「謎解き」。そしてそれに至るまでのメグレ自身のジタバタ感が素敵なのである。 第1期のメグレの「ガードの硬さ」がこの作品でほぐれていくのを評者は何か楽しんでいた...なので、内容以上に妙に印象のイイ作品。そういう気持ちを採点に反映したい。 (例の瀬名氏の評が、メグレを読むとは何なのか?というあたりでとても示唆的だった...お勧めします) |
No.3 | 6点 | 雪 | |
(2018/07/15 21:32登録) メグレが引退した身を休めるオルレアン近郊ムン=シュル=ロアールの別荘。真夜中過ぎに夫人の妹の息子、フィリップが泡を食って駆け込んできた。メグレの口利きで司法警察局に就職した彼は、コカイン取り引きの重要容疑者ペピートを拘束に向かった先のキャバレーで、彼の死体と遭遇してしまったのだ。さらに動転したフィリップは凶器の拳銃を手に取ってしまう。 慌てて店を飛び出した彼は、さらに用意されていた証人とぶつかり、完全に犯人に仕立て上げられてしまったのだった。 メグレは嵌められた甥っ子を救うため、再び事件に乗り出さざるを得なくなる。だが既に捜査権限の無い彼に、かつての部下たちや司法警察の援助は一切期待できないのだ・・・。 シリーズ第19作。前期メグレのトリを務める物語で、原題もそのものズバリ"Maigret"。原書でタイトルにメグレの名前が入るのはこの作品が初めてです。 フィリップと共にタクシーでパリに急行するメグレ。甥の身柄を警察に預けた彼は、黒幕と睨んだキャバレーの元締めカジョーと交渉します。フィリップ直属の上司であるアマディユー警視はメグレの再登板が面白くないらしく、現在彼の下に付いているリュカ達も、その立場を越えて協力する事はできません。ままならないながらも靴の底を掻くようにしてカジョーを刺激し続けたメグレは、遂に当局のバックアップを取り付けた上で一発逆転の罠を胸に秘め、単身彼の自宅に乗り込むのでした。 前期の特色である、何が起こるか分からないような息苦しさはもう無いですね。よりスマートな娯楽作の方向に寄ってきて。でもそこかしこに結構良い描写があります。例えばメグレと心を通わせ、捜査に協力する商売女が出てくるんですが、聞き込み目的でカジョーの部下と寝た後でそっちに情が移っちゃう。そのへんを悟って複雑な気持ちになるメグレとかね。 最後にメグレが仕掛ける罠もかなり面白いです。こんな小技も使えたんだなと。それに加えて序盤やエピローグの田舎暮らしの風景描写もいい感じ。皆さん厳しいけど、付けるとすれば小説的な良さも含めて7点寄りの6.5点。気持ちとしては7点付けたいんですが、さすがにそれは無理かな。 |
No.2 | 5点 | tider-tiger | |
(2017/03/21 19:27登録) 刑事となったメグレの甥は麻薬取引の現場に張り込みの際、ドジを踏んで殺人の濡れ衣を着せられる。すでに引退してパリ郊外の田舎に引っ込んでいたメグレだったが、甥を窮地から救うためにかつての職場に舞い戻る(もちろん復職するわけではありません)。だが、かつての名警視など現警視にとっては靴の中の石のようなものなのであった。 ミステリとしてはいまいち冴えず『まだ名作じゃない』って感じの本作。黒幕との最後の対決でメグレは黒幕に関して大胆な推理を披露しますが、これがちょっと強引過ぎる。メグレの推測が想像、もしくは妄想の域に達してしまっているような。ただ、この場面は後年の名作『メグレ罠を張る』に繋がっているような気がしないでもありません。 本作では説得力に欠けたメグレの妄想も『メグレ罠を張る』では、相変わらず根拠は不明でも異様な迫力と説得力を伴って進化し、名場面が生まれたように感じました。 本作の採点は5点だけど、好きな場面がけっこうありました。メグレとリュカのプロフェッショナルらしい素っ気ない会話にうっとりと聞き入る甥っ子、息子のことを心配するあまりメグレの邪魔をしてしまう義妹、メグレを浮かれたおのぼりさんだと勘違いした娼婦、彼らに対するメグレの視線。メグレは甥や義妹の欠点を冷徹に見透しながらもその欠点を憎みはしません。ものすごくイライラはしていますが。 「リュカ、きみには言える、きみにだけは~」 いやあいいねえ、5点のくせに。 |
No.1 | 5点 | 空 | |
(2010/04/17 12:24登録) メグレ・シリーズの中でも、ちょうど転換期にあたる作品です。本作発表後、シムノンは一時メグレものを中断し、『倫敦からきた男』や『仕立て屋の恋』等犯罪を絡めた純文学を書くようになります。 内容的にも、シリーズ中断作(終了のつもりだった?)らしく、メグレ退職後の事件となっています。刑事になったものの、悪賢い悪党どもの罠にかかって殺人の罪を着せられそうになった甥のために、田舎暮らしをしていたメグレが再出馬することになります。 最初から事件の黒幕はわかっていて、その人物をどうやって追い詰めていくかということでは、『男の首』にも似たところがあると言えるでしょうが、悪役は犯罪のプロ、一方のメグレは警察を引退してしまっているというところが、大きな違いを生んでいます。悪役の人物像を最後の対決で見せていくところが、うーん、採点としてはこんなものかなというところ。 |