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ミステリの祭典

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悪霊の群
高木彬光・共著/荊木歓喜&神津恭介

作家 山田風太郎
出版日1955年01月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 6点
(2021/09/22 19:54登録)
 昭和二十×年も末、ときどき不安そうにうしろをふりかえりながら、東洋新聞社の玄関へかけこんでいく軍服姿の男がいた。彼は元参謀・相馬利秋と名乗り、中日両国人の秘密結社に関する情報の代償として自身の保護を求めてくる。だがこの春にも同じ調子で情報料二万円をまきあげられた社会部の土屋部長と記者の真鍋雄吉は、狼狽する元参謀をけんもほろろに叩き出した。
 だがその直後、珈琲喫茶「ライラック」で恋人・丹羽素子との逢瀬を楽しむ真鍋の元に、またもや中国人に毒をのまされた相馬元参謀が駆け込んでくる。処置が早かったため幸い命はとりとめたが、東洋新聞に不信感を抱く相馬は「八時に経堂駅で会う人がいる」と言い残し、色あせた軍服をひらめかしながらヨロヨロと店を出てゆくのだった。彼を追おうとうしろをふりかえった真鍋は、素子もまた外へ駈け出していったのを知る。
 恋人の言動に不安を抱き、経堂の洋館まで彼女をつけてゆく雄吉。そのなかで素子と話し合っていた男は真鍋に気付くと風のように突進し、往来へとび出すとそのまま自動車で逃走した。恋人に銃口をつきつけ、「この家へ入らないで」「あたしを殺さないで」と訴える丹羽素子。真鍋雄吉はなすすべもなく、その場を立ち去る事にする。そして男がはねあけていったくぐり戸のそばには水に洗われたような、人間のふたつの眼球がころがっていた・・・
 現職国務大臣・杉村芳樹の惨死を皮切りに次々と眼球をくりぬかれて殺される、戦前の熱海で起きた、伯爵・天城一彦襲撃事件の関係者。一人一殺、怪事件の直後自ら指輪の毒を呷り散ってゆく、落魄した旧華族の四人の令嬢たち。チンプン館の酔いどれ医者・茨木歓喜と白面少壮の名探偵・神津恭介が共演をはたす、豪華絢爛ミステリ!
 雑誌「講談倶楽部」昭和二十六(1951)年十月号~昭和二十七(1952)年九月号まで、ちょうど一年間に渡って連載されたスリラー風合作長篇。風太郎の場合は「赤い蠟人形」「恋罪」などの短篇、高木でいくと「ぎやまん姫」や「輓歌」といった作品を執筆していた時期にあたる。本作終了後には横溝正史『悪魔が来たりて笛を吹く』の連載も間を置かず「宝石」誌で始まっており、以前評した『白妖鬼』ともども斜陽族や赤色テロといった題材が、この頃はホットであったと思われる。なお「○○族」ブームは1960年代に至って全盛期を迎え、その総決算として山風は変格ミステリ『太陽黒点』(1963)を物している。
 さて本書だが、仕掛人の編集者・原田裕によると分担は「アイディアを高木さんが出して、山田さんが書く」というもの。複数のアリバイトリックと車中の不可能犯罪を扱っているが、肝心の解決は二重底で上部を歓喜が担当し、より突っ込んだ下部を満を持して登場した神津がおもむろに解いてゆく。探偵対決で割を食った格好の歓喜先生だが、連作慣れした山田の方は特に拘りも無かったろう。ストーリーはもっぱら真鍋と丹羽(天城)素子の恋と疑惑を軸に通俗風で進むが、トリックはなかなか凝っており馬鹿にしたものではない。また解決部分のどんでん返しには風太郎テイストが感じられるので、プロットが全て高木謹製という訳でもないだろう。
 若干構成が悪く『十三角関係』には及ばないが、この形式としては十分合格点。臆せず一読する価値はある。

No.3 6点 人並由真
(2021/07/17 07:29登録)
(ネタバレなし)
 下山事件の翌年、昭和25年の暮。東洋新聞の青年記者・真鍋雄吉は、情報を売りに来たという元軍人・相馬敏秋の奇矯な言動に悩まされた。やがて真鍋は会社の近所の喫茶店の女給で恋人の丹羽素子に会いに行き、つい出来心で、彼女が見せたがらない自宅まで後をつけた。だがやがてとある古びた館で真鍋が見たのは、人間の眼球らしきものを手にする恋人の姿で、素子は真鍋にこれ以上、深入りしないようにと忠告した。不可解な心情のまま、現職の国務大臣・杉村芳樹と、その不倫相手と噂される人気歌手・泉笙子のスキャンダルを追う真鍋だが、やがて彼は予想外の殺人事件に遭遇。そしてその死体からは、眼球がえぐられていた。

 あー、少年時代に購入してウン十年、しばらく前にようやっと、荊木歓喜ものの連作集『帰去来殺人事件』を読了したので、こっちもやっと読めた(笑)。こういう企画ものを楽しむなら、まずは本筋の正編に触れてから、と思っていたので。

 ちなみに今回は、その大昔に入手した1964年のハードカバー(東京文芸社の新版)で読んだが、webでのウワサによると、この版以降は、時代に合わせた細部の改訂がされているらしい。直近の出版芸術社の文庫版は後年のこの版がベースだそうで、機会があれば旧バージョンも覗いてみたいものである。

 合作で2大名探偵の共演という趣向そのものは、ヨダレが出そうなほどに魅力的。
 しかし正直、評者は片方の荊木歓喜がそれほどスキじゃないし(ファンの方、スマヌ)、しかも内容は通俗スリラーっぽい上に、本命の方の名探偵・神津の登場が遅いと聞いていたものだから、いろんな意味であまり期待しないでページをめくり始めた。

 とはいえそういう期待値の低さが功を奏したというか、意外に楽しめる。
 何より途中でああ、あのネタというか海外の有名作品をベースにした通俗ものだな、と一度は思わせておいて、後半で過密的(シャレではない)にパズラーっぽい工夫が詰め込まれているのがいい。いやまあ、冷静に見れば、あれ? あれ? なところもいくつか後から思いつくが、読者の目線を一度思い切り低くしておく作りだから、あとは得点要素の方ばかり目立ってくる。ある意味じゃズルイ構成だが、これもまたテクニックではあろう。高木の方が構成を考えたのは良かったように思える。

 荊木センセイも今回は自然に活躍を追えたものの、一方の神津は本当に、ギリギリまで本人は作中に出てこない。こりゃまさか、エピローグに荊木センセから事件の報告を聞くだけで終わっちゃうんじゃないの? とさえ恐れたりした。
 が、結果、神津はかなりコンデンスな見せ場を与えられていて、軽くビックリした。しかも(中略)の(中略)を想起させる趣向まで用意されているし!

 たぶん高木は、盟友・山田とはいえども、自分の大事な名探偵を他人任せにするのがいやで、紙幅的な意味での出番を、ギリギリまで少なくしたんだろうね、きっと(笑)。
 ちなみにちょっとだけ中盤のお遊びに触れるが、神津の登場が遅いのは渡米しているからという設定である。そしてそのニューヨークでの宿泊先が「ダネイ・リー」なる御仁のお宅。このギャグには大笑いした。

 どうしてもこなれの悪いところは確かにあるんだけど、それでも十分に楽しめた。
 名探偵同士の共演イベントという、本願の売りはいまひとつだけれど、お話&ミステリの作りが、まあなかなか頑張っていた(出来がいい、とはいえないけどね)。

No.2 6点 蟷螂の斧
(2016/01/07 16:43登録)
紹介文より~『神津恭介と荊木歓喜の二大名探偵が夢の競演長編!両目をくり抜かれた死体が次々と。犯人の美女はそれぞれ自殺を遂げる。疑惑に満ちた恋人の言動に苦悩する新聞記者。事件を追うのは、あの荊木歓喜先生と、ご存じ神津恭介名探偵。山田風太郎と高木彬光。昭和26年、すでに探偵文壇に確固たる地歩を築きつつあった二人が、日本で初めて本格的合作探偵小説に挑戦した。神津恭介と荊木歓喜の二大名探偵が夢の競演長編』~

名探偵共演といっても、主役は荊木歓喜先生で、神津恭介はラストに登場するだけでした(苦笑)。雑誌に連載されたものなので、中盤は通俗的なストーリー展開でしたね。ラストのどんでん返しのプロットは高評価(8点以上)ですが、○○の名人登場などで減点要因となってしまいました。残念。

No.1 5点 kanamori
(2010/03/24 23:12登録)
名探偵神津恭介と荊木歓喜が共演、となると読まずにおけません。
プロット考案は高木彬光で、山田風太郎が執筆したと解説にありますが、この合作は成功したとは言えません。
当然、名探偵同士の推理合戦を期待しますが、歓喜先生が中心となった通俗スリラー風のストーリーで、終盤に神津が出てきてオシマイ。二人の対決は肩透かしの感で残念です。

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