英雄の誇り ジェイムズ・ピブル |
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作家 | ピーター・ディキンスン |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 5.75点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 5点 | レッドキング | |
(2023/12/04 23:27登録) ピーター・ディキンスン第二作。対独戦争の英雄将校にして大富豪貴族の一族。その広大な敷地と豪壮な館は、古英国の記念碑に見えて、米国成金達の擬古的観光スポットでもあった・・日光江戸村と変わらん・・。館で起きた自殺と行方不明事件。遠景では勇壮な獅子達も、貪欲にして狡猾な単なるケダモノに過ぎなかった。「栄光ある国軍」 「歴史的勝利」の醜い実像・・敗者日本ならば自虐内攻となる告発も、勝者の大英帝国自身が行うと、苦い諧謔の風味を醸し出す・・ちょっとしたトンデモ銃弾ロジック(トリック)も付いてるし・・ |
No.3 | 6点 | 雪 | |
(2019/02/23 07:35登録) ロンドンから目と鼻の先に広がる別世界――広大な敷地にジョージ王朝風の大建築をはじめとした大小の館。晩秋の光の中にはライオンが寝そべり、森を抜ける線路には機関車が走り、その先には旧式銃を撃ち合える決闘場や、おぞましい絞首台がしつらえられている。 オールド・イングランドと呼ばれるその地は、英国で最も由緒ある貴族にして第二次世界大戦の英雄、双子のクレヴァリング兄弟の館だった。ラルフとリチャードの大胆な奇襲作戦により、イギリスはナチス・ドイツへの反撃の糸口を掴んだのだ。だが二人は戦後ほどなく隠棲してしまい、地所・ヘリングズをヴィクトリア朝風のテーマパークに改造し、娘夫婦に観光客商売をさせていた。 そんな場所で老召使のディーキンが縊死したとの連絡を受け、ロンドン警視庁は定年まぎわのピブル警視を派遣する。事を荒立てぬようにとの措置だった。が、ピブルは彼を出迎えるヘリングズの人々の不自然な態度に、事件の腐臭を嗅ぎ付ける。 処女作「ガラス箱の蟻」に続くピブル警視シリーズ第2作。前作と同じく、1969年度の英国推理作家協会ゴールデン・ダガー賞受賞。 以前読んだ「眠りと死は兄弟」がスローテンポだったんで「こっちもそうかな」と思ったんですがあにはからんや事件の連続。登場人物がどっかおかしいのは同じですが、前半軽くカマされてから、第二部半ばでピブルの後をライオンの群れがのそのそと付いてくるシーン以後はハイピッチで、休む暇もありません。かなり悪趣味かつ不健康な展開と真相で、読み終えると発表時の絶賛・高評価と考え併せ「イギリス人ってやっぱりよくわかんねぇな」という気分になれます。 同じくらいの密度でも個人的には「眠りと死は兄弟」の上品なエグさの方が好みですが、やはり立て続けに事件の起こるこっちの方がウケますかね。HPBのピブル物4冊ではこれが一番評判良かったから、読む前の期待が少々高すぎたのかな。結構荒っぽいお話で、予想とはちょっとズレてました。 |
No.2 | 7点 | クリスティ再読 | |
(2018/05/27 21:00登録) 本作面白い!!第二次大戦の英雄の貴族兄弟の館で起きた、執事の自殺事件を調査にピプル警視が派遣されるが、そこは「オールド・イングランド」という名のテーマパーク(貴族じゃ食えないんだよ)として、観光客を受け入れる観光地に仕立てられていた。19世紀から抜け出てきたような「キャスト」が、観光客を案内し、スチーブンソンの蒸気機関車が走り、決闘の実演、縛り首のショーが楽しませる。ライオンだっているよ!そして本物の戦場の英雄だっているのさ! と、本当に何がホントで何が嘘なのか区別がつかない人工的な環境の中に、カンのいいピプルは腐臭を嗅ぎつけて、執事の自殺どころではない貴族の血脈の崩壊に立ち会うことになる。ピプルもライオンに襲われるわ自殺に見せかけて殺されかかるわと、本当は大冒険しているにもかかわらず、愚痴っぽい小市民性からそういう印象がないのが、何かイイところ。後付で客観的に見たらスラプスティックじゃないかしらと思うくらいのものだが、描写は全然そうじゃない。モンティ・パイソンとかと近い世界かもしれない。だから向かない人は徹底的に向かないだろうな。 二人ともしようがない老いぼれですから、それにほんといいますと、こんなばかばかしい死にざまが、あの人たちにぴったりなんです。本望でしょうとも。 と毒舌を吐かれるくらいのものだ。ただ一応「本格」になってるけど、あまり謎解き興味はない。奇妙な世界に迷い込んで、奇妙な人々の奇妙な行動を皮肉な視点で解き明かす小説、というくらいに読んだほうがいいだろう。まあ本作に限らずディッキンスンの小説って「ジャンルを超えてる」よ。長編だけど「奇妙な味」くらいのつもりで読むのがよろしかろう。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2016/02/10 12:10登録) (ネタバレなしです) 1969年発表のピブルシリーズ第2作の本格派推理小説で、CWA(イギリス推理作家協会)のゴールデン・ダガー賞を受賞しました。「ガラス箱の蟻」(1968年)と本書で2年連続受賞したというのはさすがに凄いと思います。20世紀でこの快挙を達成したのはディキンソンとルース・レンデル(一つはバーバラ・ヴァイン名義作品)ぐらいではないでしょうか。テーマパーク風の大邸宅というこだわりの舞台に加えて登場人物もかなりエキセントリックです。おまけにライオンまで登場します。プロットも凝っており、最初は謎らしい謎もないのですがピブルの捜査で次々に謎が増えていき、思わぬ危機に意外な助っ人と予想を超える展開でした。しかしどこか回りくどい語り口のせいか全般的に読みにくく(私の読解力のなさも一因ではありますが)、再読するほどに味わいの出てくるタイプかもしれません(私はその気になれませんけど)。 |