暗い落日 私立探偵・真木 |
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作家 | 結城昌治 |
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出版日 | 1965年01月 |
平均点 | 7.25点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 8点 | クリスティ再読 | |
(2016/11/16 23:35登録) その昔、チャンドラリアンという言い方に倣ってショージアンって言い方があったのを誰か覚えてないかな。うん、そのイワレがこの作品のわけなんだが、ロスマク流ハードボイルドを日本的な情緒の中に巧妙に構築した手腕が光る。さすがにハメット的リアリズムは日本だとリアリティが薄いけど、ロスマク流なら日本人の感性と相性がイイことを知らしめたことで、画期的になった作品なんだよね。 で今回読み直したわけだけど、石畳に散る海棠の花びらと沈丁花の香りが印象的だが、その他にも菜の花、連翹、木瓜、牡丹と花に彩られた小説である。宿命に打ちひしがれた暗い目をした女性たち(真木連作ってそういう共通点かな)の象徴のような花々である。 だが、それは何という暗い眼差しだろう。死んでゆく者が、永遠に目を閉じてしまう前に周囲を見まわして、過ぎ去った日々をいちどきに思い出そうとしているようだ。だからわたしを見つめながら、その眼は悲しげに焦点を失っていた。 まあだからハードボイルドをリアリズム小説と捉えたい評者だと、本作がハードボイルドか、というと湿度が高く日本化され過ぎの気がする(モーリアックとか近い罪と罰な世界かも)。少々鬱が入るけど、繊細なロマンの味わいをのんびり楽しむのに絶好の作品だと思う。 |
No.3 | 7点 | tider-tiger | |
(2016/09/21 18:37登録) 私立探偵の真木は居丈高な実業家から行方不明になった孫の捜索を依頼された。調査の過程で殺人事件が二件発生、本件の人探しと直接の関係はなさそうなこれらの事件だが、実は過去のとある悲劇から始まったものだったのだ。 序盤から中盤にかけてはハードボイルドの定型ともいえるような筋運び。贅肉を削ぎ落とした文章はリズム感も良く、言葉の選び方も華はないが自然で堅実。人物描写は平凡だが、彼らの関係を淡々と映していく書き方は好感が持てた。 視点人物であり語り手である探偵真木が無色透明に感じられた。だが、犬小屋の奥から出てこない犬のようでいて、呼べばきちんと顔くらいは出す。必要なことは述べるが、自己主張はしない語りなのだ。一人称小説で語り手の特色が出ないのは致命傷だと思っているが、例外はもちろんある。著者は一人称一視点を採用した理由として、フェアプレイに適った書き方だからだと述べていたらしい。解説を書いていた原寮(私が持っているのは1991年発行の講談社文庫版)は一概にそうとは言い切れないと述べていたが、それはともかくとして、真木の無色透明は作者のフェアプレイ精神?に関連しているのかもしれない。読者が真木と同じ条件で推理が可能なように、余計な修飾も極力排除したのではなかろうか。そして、フェアプレイうんぬんに言及したということは作者がハードボイルドではなく本格ミステリを書こうとしていたと考えることもできる。 確かに本作は本格ミステリとして読むことも可能な内容で、家族の秘密に関しては安易な気もしたが、真木が捜索を依頼されていた女性に起こった出来事は個人的には盲点というか、当然想定されうることなのに、この展開ならこうはならないと決めつけていたところあって虚を衝かれた格好となった。確かにフェアだった。 どちらかといえばハードボイルドに寄った作品だとは思うが、本格として読んでも――見事に引っかかっただけに――なかなかの出来ではなかろうか。 どうでもいいことだが、心理テストが作れそうな作品だ。 「この作品の登場人物で誰が一番嫌いですか」いろいろな答えがありそうで興味深い。 本作だけではなく、真木シリーズ三作はどれも読んでみて損はないと思います。 |
No.2 | 7点 | kanamori | |
(2010/08/01 21:06登録) 私立探偵・真木シリーズの第1作。 当シリーズがロス・マクのリスペクト作品であることは周知の事実で、一人称ハードボイルドで、テーマが家系の悲劇であることもそうですが、本格ミステリに通じる意外性も共通しています。 真相が判明し、終盤に真木がある人物に言う、「それはご自分で考えることでしょう」。セリフだけで主人公の心情を表現する手法、まさにハードボイルドだなあ。 |
No.1 | 7点 | 空 | |
(2009/11/20 21:19登録) 日本のリュウ・アーチャーとも評される私立探偵真木の一人称形式で語られる話は、プロットの組み立てから見ても、チャンドラーよりロス・マクドナルドを思わせる展開です。文章も最初から日本語で書かれた(翻訳でない)ハードボイルドという感じの簡潔さで、短い会話を重ねていくところなどいい雰囲気です。まあ、ロス・マクみたいにしゃれた比喩を多用しているわけでありませんが。 角川文庫版解説では、作者が本作のトリックを『ウィチャリー家の女』に対する不満から着想したということが書かれていますが、『ウィチャリー』をよく覚えていないので、そのところはなんとも。ただ、ダスターやスカーフの件は犯人の心理を考えると、ちょっと疑問に思えます。 裏に隠された人間関係はむしろありきたりと言えるでしょうが、実際にそうだったらどんな悲劇が起こるか、そこがしっかり書き込まれているところがさすがです。 |