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ミステリの祭典

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瀬戸内海殺人事件

作家 草野唯雄
出版日1982年03月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 7点 人並由真
(2020/07/09 05:11登録)
(ネタバレなし)
 その年の4月。都内の企業「大和鉱業」は、愛媛の三ツ根鉱山の地質調査をT大学の教授・重枝昌光に委託していた。だが昌光の妻・恒子が東京の自宅から夫のいる愛媛に向かったはずなのに、行方が知れなくなっている。重枝教授に形だけでも誠意を見せたい大和鉱業の総務部は、重枝家とも縁があるマイペース社員の和久秋房を調査要員に任命した。会社が自分に大して期待をかけていないと認めた和久はクサるが、恒子の友人で旅行雑誌の美人ライター・尾形明美が、成り行きから彼の探偵役としての相棒になった。現地警察の了解と協力を仰ぎながら現地で調査が進むが、夫人の行方は杳として知れない。やがて関係者たちの掲げるアリバイに、意外な盲点? が見えてくるが……。

 元版(1972年の春陽堂文庫版)が出たとき、当時のミステリマガジンの新刊評で、それなりに高い評価を受けていたのを読んだ記憶がある。
 ただしこの頃はまだ文庫書き下ろしの国産新刊ミステリというのは比較的珍しい時代だったので(21世紀の今とはエラい違いだ!)、そのミステリマガジンでのレビューの最後は「(秀作・佳作ではあるが)この本は、お値段の安いのが何よりよろしい!」という感じのオチでまとめられていた。

 そういうこともあって評者は本作について長らく「面白いことは面白いんだろうけれど、あくまでお値段が安いから評価にゲタを履かされているその程度の作品?」くらいの気分でいて(笑・汗)、なかなか積極的に読む気がおきなかった(……)。
 そうしたら2年ほど前に出先のブックオフの100円棚で1987年の角川文庫版を発見。これを手にとってみると巻末の解説をあの瀬戸川猛資が担当しており、例によってすんごく面白そうに書いてある。
 というかこのヒトが草野作品の解説を書いていたこと自体軽くビックリだったのだが、じゃあ今度こそ読むかと、その本を購入してきた。
 そっから(ブックオフで角川文庫版を買ってから)およそ2年ほどさらに時間が経ったのは、入手したら入手したで「そんな瀬戸川猛資がホメている(らしい)草野作品、そりゃあ貴重だ」と、今度は読むのがもったいなくなってきたため(笑)。まあ例によって旧作との評者のややこしい&面倒くさい付き合い方は、いつも通りである(汗)。

 でもって本当に特に大きな期待もかけず、まったくの白紙の気分で読んだのだけれど、個人的にこれはなかなかアタリであった!
 いや、山場の「読者への挑戦」ギミックを、巻末の解説で瀬戸川猛資が言っている通りの意味で作者が用意したとは必ずしも思えないし、全体的にあちこちに弱点もあるんだけれど、それでもとにもかくにも<こーゆー作品>はできるだけ前向きに迎えたい。そんな思いに駆られる一冊ではあった(あんまり詳しくは言えない)。
 この数年後にやがて台頭してくる「幻影城」スクールの新世代作家たちの諸作の先駆的な趣もある一編だとも、思えた。
(特にどの作家、どの作品に似てる、とは言わないけれど、あえていえば泡坂と連城のトリッキィさを筑波孔一郎みたいな泥臭さでまとめて、そしてそれがミステリとして意味があった感じとゆーか。)

 ちなみに「奇妙な~」で一貫する全13章の章立て見出しの趣向は、クイーンの『オランダ靴』の「~tion(邦訳では漢字2文字の単語)」での同じ箇所の統一ぶりを想起させられた。
 ここで当然、ミステリのオールドファンとしては「世界ミステリ全集・クイーン編」の挟み込みの冊子で瀬戸川猛資がクイーンの作家性の一端を紐解く手がかりとして、その『オランダ靴』の章立ての趣向に言及していたのを思い出す。
 だから瀬戸川猛資が本作の角川文庫版の解説を担当(さらにはこの前の集英社文庫版の解説も手がけていたらしいが)のには、なんか感じるものがあったりするのであった。
 もしかしたら集英社文庫、角川文庫版の編集者もくだんの「ミステリ全集・クイーン編」の冊子を読んでいたのだろうか? とも全くの思いつきで夢想しながら、この感想はシメ。

No.3 4点
(2015/08/15 09:13登録)
タイトルは平凡ですが、かなりの変格です。
そもそも、なぜ、刑事でも私立探偵でもなく、失踪人の家族でもない、和久と明美というヘンテコな男女コンビが、捜査、捜索をしなければならないのか。しかも死体はない。
さらに、その捜査過程はちょっとした冒険小説みたいで、違和感がある。
そして最もおかしなことは、読者への挑戦がついていること。
二人のやりとりは軽妙、行動は滅茶苦茶だから、ユーモア小説かと思ってしまうぐらい。

解説にもありますが、著者は本格、サスペンス、ホラーなどを書く、作風が多彩な作家です。
大昔読んだ『山口線貴婦人号』がお気に入りで、本格物のヒット作を求めてときどき読んでいました。でも、炭鉱が舞台の作品が多く、あまりにも縁のない世界なためか、ほとんど記憶に残っていませんw

本作はお遊び感覚にも見えますが、初期に書かれたもので、いろいろと試してみたかったんだろうなと想像します。
仕掛けは抜群だと思いますが、物足りなさがそれを上回りました。

No.2 6点 nukkam
(2011/09/14 23:13登録)
(ネタバレなしです) サスペンス小説家として知られる作者ですが1972年発表の初期作品の本書は何と「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説でした。プロットはシンプルで登場人物も多くなく、2人のアマチュア探偵のどたばた描写が目立つなど挑戦状付きにしては随分肩の力を抜いて書かれたような作品です。死体がまだ発見されてもいないのに「挑戦状」の中で「殺されているのは事実なのだ」と堂々と明かしていたのもびっくりです。とはいえ真相にはなかなか思い切ったひねりが入っています。もう少し容疑者を増やすなどしていれば、このひねりはより効果的だったのではないかと思いますが。

No.1 5点 kanamori
(2011/02/17 17:50登録)
章題がすべて「奇妙な・・」で統一されている如く、どこか奇妙な構成の初期本格ミステリ。
アリバイ崩しを主題とした探偵役・男女コンビによるユーモア風味の旅情ミステリの展開から、終盤いきなり”読者への挑戦”が挿入され、あれ?そんなミステリだっけ、と戸惑うこと必至です。
文章や語り口のセンスがいまいちですが、この仕掛け自体は面白いと思った。

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