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ミステリの祭典

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雪の断章
孤児シリーズ

作家 佐々木丸美
出版日1975年01月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 7点 斎藤警部
(2022/01/24 19:24登録)
“私たちは沈黙した。意外な物語が展開され登場しない主人公は今こうして青くなっている。”

こりゃ危ない! なんたる、雪上に涙溢れんばかりの真っ白な不安定の断続。 雪とは切っても切れない札幌を舞台に、十余年の歳月が流れる物語。 その途上で殺人事件が起こる。 ヒロインは孤児。 被害者は彼女の”斜め上の”敵。

“きらきらと光っては消え、集中する熱心さと素早い洞察力で結晶する瞳に打たれた。にごりのない白紙の心構えを思った。これだ、と直感した。私のくぼんだ部分に、この清涼なかたまりは当てはまるだろう。”

まず序盤、胸糞イヤミスからご都合イイミスへの転換が急カーブ過ぎて、時折のアーリー違和感と共にそこんとこ何やら疑惑を唆った。 しつこく”さん付け”。 バカだなぁ、、、こいつ。詮ない話ャけどな。 あいつ品行方正キャラの癖に、やたら酒飲むんだよな。。

「おやじさん、朝から気分爽快なことを言ってくれる、今夜は熱カンで一杯やろう」

ヒロインには男女共に複数の味方も付く。思春期を経るにつれ、その一部とは関係が微妙にあるいは決定的に変わる。そのへん描写の筆力はシュアー。 だが時折、独特フレイヴァの語法が火の玉ダンスをいつまでもやめないのを見守るしかない。 擬人化の沼へとずぶずぶ。。 だがいつの間にか味読させられているのも良し。 おっと、ごく序盤風情から早くも予想を蹴散らす激震の躍動。これは凄いぞ!

“人を信じてはならないと、こんな方法で教えられるのか。無心に信じてきた代償がこれなのか。虚像だ、蜃気楼だ、白日夢だ。なんだ、バカらしい。驚かなくたっていいじゃないか、今、初めて裏切りを経験したわけではなし。”

少年とは断絶を画す清冽な少女趣味で目の前のガラスの壁を塗りたくり。 箴言集のような友情の交歓、敵対者との対話、導き出される内省のタペストリー。 前述の“対話”は時にまるでディベート合戦の様に遠慮会釈を抹殺し堂々と驀進。なんなんだこの、甘い夢想(時にヨコシマなdaydream)との奇妙なアンバランスは。。

「友情なんてこんなものだと結論づけるのはもう少し先にのばしなさい。それにいい機会だから、離れてみてやっと気がつくお互いの長所短所を味わっておくことだ」

何故か決して卑怯に思えず、意味合いの満ちる後出しエピソード群、これもまた結末に向けてのムズムズした疑惑を誘う。 中盤もまさかのど真ん中で激震追及展開、危ない。。。。。。

“おおいかぶさっていた雲が晴れ、この半年間の悩みは消えた。あれはもう秘密ではない。羅針盤なのだ。私だって立派に貫いてみせる。諸々の敵に立ちむかえるのだ。反逆できる分子なのだ。”

物憂く、含みの多い省略技法。 なんというか、ほとんど純文学。 その濃い空気の中でこそ絶妙に密かに増幅する違和感。 終盤に向け圧縮を増すソレに耐えるのはまるで、処女雪の前で◯ョンベンを我慢するがごとし。。 温厚王の私も流石に鼻につきだすグダグタ心理の披瀝渦巻きを経て、終結部には少しばかり唐突な鼻薬も嗅がされるが、衝撃ある最終展開と、バッサリ優しく余韻残すエンドは、心をつかみます。

真犯人◯◯と真犯人◯◯までの間が異様に長いというのも、本篇の妙なる特徴。 (この趣向?のおかげで、小説の道端をトボトボしてたよなミステリ度合いが、一気に上がった!)


※これ言うと厳密にはネタバレかと思いますが、、  本篇で諸々積み残した違和感やら謎やらはいわゆる「孤児シリーズ」後続作で徐々に解かれる運命にあるとかで..

No.3 5点 ボナンザ
(2016/10/25 20:34登録)
この作品で大切なのは事件ではなく主人公の心の機微である。

No.2 6点 nukkam
(2015/11/27 22:34登録)
(ネタバレなしです) 佐々木丸美(1949-2005)はその生涯からして謎めいており、残された作品はわずか17作、「榛(はしばみ)家の伝説」(1984年)を最後に執筆を止めただけでなく自作の再版も禁止するなど世間と距離を置いたまま世を去っています。1975年発表のデビュー作で後に映画化もされた本書は殺人事件があって推理による謎解きもあるのですが、ミステリー部分は全体の10%か20%ではないでしょうか。メインプロットは主人公の飛鳥という少女のおよそ10年間にまたがる青春物語です。飛鳥の心理描写は非常に複雑で、時には理解者にも心を閉ざすなどその行く末は目が離せません。随所で挿入される「雪」の描写も詩的な雰囲気づくりに効果的です。どうもこの作家はミステリー小説家というよりはメルヘン小説家として鑑賞するのがよいように思います。

No.1 6点 T・ランタ
(2010/01/17 07:03登録)
この作家の作品は初めてでしたが
小説としてはそれなりに楽しめても、ミステリーを読んでいる気にはなりませんでした。
恐らく主人公の主観が強すぎるのと、事件そのものよりも主人公の人生に焦点を当てた結果ではないかと思います。
さらに言えば主人公の境遇を描くのが中心で、事件そのものは影が薄い気がします。

犯人に関してもなぜあんな事をしておきながらこんな事をしたのか・・・などと思わざるを得ません。

メインと思われる主人公を取り巻く環境にしても、何の見返りも無しにほぼ面識がないに等しい子供を育てる青年がいるのかと、そんな事を気にしてしまいました。

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