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ミステリの祭典

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ロウソクのために一シリングを
グラント警部

作家 ジョセフィン・テイ
出版日2001年07月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2020/12/13 14:43登録)
(ネタバレなし)
 ある夏の朝、イギリス海峡の海岸で女性の死体が見つかる。死体は国際的な人気の映画スターで、30歳のクリスティーン(クリス)・クレイと判明。クリスは貴族である夫エドワード・チャンプニズの外遊中、海岸のロッジ「イバラ荘」に宿泊していたらしい。スコットランド・ヤードのアラン・グラント警部が出馬し、イバラ荘の客となっていた青年ロバート(ロビン/ボビー)・ティズダルの証言が求められる。ティズダルはおじの遺産を浪費した無一文の若者だが、妙な愛嬌からクリスに気に入られ、男女の関係なしに世話になっていたようだ。クリスの死が事故でなく他殺と認めたグラントは、ティズダルも含めて周辺の容疑者を洗うが、やがてティズダルにきわめて不利な状況証拠が見つかった。

 1936年の英国作品。作者がジョセフィン・テイ名義で書いた初の長編で、先行して別名義でスタートさせていたグラント警部シリーズの第二弾となる。

 広義のパズラーの要素はあるが、グラントの捜査の軌跡を追っていくクロフツ的な作劇はシリーズ前作『列のなかの男』同様、警察小説の作法に近い。ただしキャラクターの書き分けや場面場面の見せ方などに前作よりも進歩が感じられ、大ざっぱな印象では『列のなかの男』よりもずっと面白く読めた(3~4時間でいっき読み)。

 中盤は嫌疑をかけられたティズダルの逃亡と、彼の無実を信じて支援する某キャラの行状にも紙幅が費やされ、とにかく読んでいる間はなかなか楽しめる。

 終盤の真相=意外な犯人は「え、そっち!?」という感じで、伏線や手がかりの薄さも含めてほとんどチョンボだが、とにもかくにも作者のサプライズ狙いは評価……したいなあ(笑)。
 ただ一方で、一体それまでの(中略)というところも生じてしまってはいるけれど。
 まあ出来がいい作品とはいいがたいよね(苦笑)。

 本作をベースにした映画『第三逃亡者』はいまだ観ていないけれど、容疑をかけられたティズダル青年をはっきり主人公にした作りなのであろう? なるほどこの原作の映画なら、ヒッチコックが映像の素材として存分に料理の腕をふるえそうな感じはする。

 最後に、翻訳は近年も活躍の直良和美。日本語としては全体的に読みやすかったが、初出の登場人物名を素性の情報も添えないでいきなりほうりだしてくるパターンが多く、かなり辟易した。原文もそういう雰囲気なのかもしれないが、その辺は翻訳の範疇で許される演出として、もうちょっと読者視点で読みやすくしてほしかったところ。

 評点は前述のチョンボな謎解きは結構気に入ってるんだけれど……7点をつけるにはちょっと引いてしまって、この点数で。

No.2 5点 nukkam
(2016/09/24 16:12登録)
(ネタバレなしです) 「列のなかの男」(1929年)をゴードン・ダヴィオットという男性名義で発表したテイがテイ名義で最初に出版した作品が1936年に発表されたグラント警部シリーズ第2作にあたる本書です。物語の大半が足を使った聴き込み捜査主体で、グラントの考えていることもほとんど読者にオープンになっているクロフツ風な展開ですが最後はグラントの推理が披露されるフーダニット型本格派推理小説として着地します。ただ真相には驚いたというよりも何だこりゃと唖然としました。まず動機。どうやらグラントは床屋の雑誌記事から発見した模様ですが本当にアレが動機とは。ハヤカワポケットブックス版の巻末解説(評者は宮部みゆき)では伏線がちゃんと張られているように評価していますがとても十分とは思えないし、とってつけたようなアリバイ崩しと証拠の発見。謎解きという点では大いに不満があります。とはいえテイの特徴はパズルとしての完成度よりも文章表現の巧さやさりげないユーモアなどにあり、グラントが重要人物にまんまと逃げられるシーンや署長の娘エリカのアマチュア探偵ぶりなど読ませどころは一杯あります。

No.1 5点
(2009/10/18 13:14登録)
最後に明かされる犯人は意外といえば意外です。個人的には動機も納得できましたし、殺害にあるものを利用した点も単純ながら合理的であることは間違いありません。
しかし、その人物が犯人であることにグラント警部が気づく直接的な手がかりが読者には示されないまま、すぐに犯人逮捕に直結してしまうという段取は、1930年台のミステリだと思えません。他の怪しげな人物たちの行動への説明や逃亡者の再出現もあわせて、最後の十数ページにつめこまれ過ぎていて、消化不良な感じがします。
死体発見の冒頭から警察署長の娘エリカの活躍あたりまでは、文句なく楽しかったのですが。ヒッチコックもここらへんを気に入って、『第3逃亡者』として仕立て直したのではないかと思えます(実はこの映画、見てないのですが)。

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