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ミステリの祭典

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復讐法廷

作家 ヘンリー・デンカー
出版日1984年09月
平均点6.50点
書評数6人

No.6 8点 蟷螂の斧
(2019/09/30 18:50登録)
(再読)1986年版東西ミステリーベスト100の第77位。映画「十二人の怒れる男」の原作が、リーガル・サスペンスの先駆かなと思っていましたが、そちらは脚本だったのですね(3人の方の書評あり)。法廷場面では、抑えるところはきっちり抑えていますので読み応えあります。最初、日本の法律と違う点があり、よくわからなかったのですが、裁判場面できちんと説明がありました。そして主人公の恋など硬軟織り交ぜるところなど憎い演出。陪審員どうしの恋?は余計かなと思っていたらラストで効いてきましたね。

No.5 6点 E-BANKER
(2012/12/26 21:26登録)
1982年発表。後年隆盛を迎えるリーガル・サスペンスの先駆的作品として知られる。
作者は元弁護士という経歴を持ち、その経験が本作にも十二分に生かされている。

~その時、法は悪に味方した。娘を強姦、殺害した男が法の抜け穴を突き、放免されてしまったのだ。娘の父親は憎むべきその男を白昼の路上で射殺し復讐を遂げるが、自首した彼に有罪判決が下ることは確実・・・。しかし、信念に燃える少壮の弁護士・ゴードンはこの父親を救うべく勝ち目のない裁判に挑む! 規範と同情の狭間で葛藤する陪審員たちは、如何なる決断を下すのか? 法と正義の相克を鋭く描き切ったリーガル・サスペンスの先駆的名作~

この種の作品の「先駆」という意味では、よくできていると思う。
「法廷」という舞台を通して、殺人者、弁護士、判事、裁判官、陪審員たちの心の動きが見事に捉えられているし、特に若き弁護士として主役級の扱いを受けるゴードンは、若さゆえの信念に動かされながらも緻密な法廷戦略を展開していく・・・
そういう「人間ドラマ」的プロットは十分に面白い。
やや難をいうなら、中盤付近の証人とのやり取りがちょっと冗長かなという部分か。

しかし、こういうテーマは難しいなぁ・・・
本作のテーマは、正義と背反したような「法の不備」を訴えるべく自らが復讐者(殺人者)となった被告を「法」が果たして裁けるのかというところにある。
日本の少年犯罪を巡っても冤罪の是非を問われるケースはあり、これは「少年の未熟さと更生の可能性」が理由として挙げられるのだろうが、本作のケースでは、この被告にとって全くもって理不尽な理由に見える。
作中でゴードンが『裁かれているのは、被告だけでなく法そのものなのだ』と話す箇所があるが、まさにこれこそが作者の主張したかったポイントに違いない。
日本でも裁判員制度が始まり、こういうプロットを軸に据えた作品がいくつも発表されたが、先行例のアメリカでもやはり陪審員のとまどいは同様ということなのだろう。

ミステリーとしての観点ではややサスペンス性が弱いので、評点としてはこの程度かなと思うが、読み応えは十分あり。
この手の作品が好きな方なら、必読の書と言える(かも)。

No.4 6点 mini
(2012/06/13 10:00登録)
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年に当たる作家は意外と多い、今年の私的テーマ”生誕100周年作家を漁る”の第7弾はヘンリー・デンカーだ

ヘンリー・デンカーの代表作と言われるのはもちろん「復讐法廷」である
他の書評者の方々も指摘されているようにかなりテーマ性が強い
数年後にブームとなるジョン・グリシャムなどのリーガルサスペンスの作品群がメッセージ性が希薄でエンタメ色が強いのとは対照的だ、
現代にも通じるテーマを持つのだが、提示されたテーマを”動機が妥当ならば復讐としての犯罪は許されるのか”という風に解釈すべきではないだろう
作者はそこにポイントを置かず、被告人に対する同情論的論議を敢えて避け、問題の本質を”法体系の矛盾”に絞る事で、この物語が成立していると言えるだろう
だって同情論だけだと、読者全員からの共感を得られず、読者側の意見は二分されるだろうからだ
しかも”黒人人種問題”も絡んでテーマはさらに難しくなる、作者はここでも”人種問題”というテーマを正面から取り上げず、今作のテーマはそこでは無いことを強調している
黒人が絡んでいるのは物語の構成上、”法体系の矛盾”の考察に被害者が黒人であることが間接的な別の意味で必要だった為なので、人種問題が直接絡んではいない
そして何より、この作品の魅力は即ち、単なる法解釈議論ではなく根底に流れる作者独特のヒューマニズムだろう
ただヒューマニズムという点では、私はデンカー作品としては「女医スコーフィールドの診断」を推したい、これが絶版なのは惜しい

No.3 4点 あびびび
(2010/07/21 23:32登録)
レイプし、殺人を犯したというのに州法の矛盾で無罪…。
ある意味、少年法に似たジレンマ。

これを当時の裁判官を証人に呼ぶなどして逆転判決に。過去に曖昧な法律に人生を棒にふった人もかなり存在するのだろうなと改めて思う。

No.2 7点 kanamori
(2010/07/21 21:55登録)
スコット・トゥローの「推定無罪」以降、90年代に続々と出た法廷物のサスペンスですが、本書は、その数年前に出たリーガル・サスペンスの先駆的作品といえます。
これらは、いずれもメッセージ性を持つのが特徴で、本書のそれは”法で裁けない罪人”殺しでしょうか。被告人のリオーダン、青年弁護士ゴードンを始め裁判官、陪審員など造形も確かで、やはり法廷ものは人間ドラマの縮図を見るようで面白い。

No.1 8点 こう
(2008/09/07 23:13登録)
 フィリップ・マーゴリンやグリシャム、スコット・トゥロー以降のリーガルサスペンスが流行する以前の力作です。
 デニスリオーダンという男が拳銃を購入し、路上で黒人男性を射殺しその足で警察にかけこみ自首、殺意を自白する所からいきなり始まります。射殺した黒人はリオーダンの娘を強姦、殺害し逮捕されたものの裁判で無罪になった男だった。
 本人は目的も果たし殺意も認め助かるつもりもなく、実際弁護困難な状況で担当した主人公ゴードン弁護士はどう対応してゆくのか、というストーリーです。
 読者にもリオーダン同様そもそもなんでこの黒人が裁判で無罪放免になったのかがわからず、それが裁判を進めてゆく上で明らかになってきます。そしてどの国でも言えるのでしょうが裁判制度の限界、問題点が浮き上がってゆくのが非常に興味深かったです。内容はちがいますが日本の少年犯罪で放免されるケースを思い浮かべてしまいました。
 また本人の自白もあり殺意も立証されているこの老人をどう弁護し、陪審員はどう裁定するのか、という所も見どころです。
 結末はいかにもアメリカ的な結末で、またいわゆる仇討ちを作者が容認しているわけではないでしょうがそういうふうに取られかねない書きっぷりな点はマイナスでしょうがその後の弁護士を主人公にしたサスペンスやサクセスストーリーの作品と違い裁判制度に向き合った作品で非常に面白かったです。

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