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ミステリの祭典

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緋色の迷宮

作家 トマス・H・クック
出版日2006年09月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 7点 レッドキング
(2023/02/10 21:19登録)
小さな写真店を経営し、短大講師の妻と友一人いない「理想的でない」息子を家族に持ち、それなりの、決して敗け組と言えない人生を送る中年男。そして、男が生まれ育ち、脆くも崩れ落ちた過去の家庭・・病死した妹・事故死した母・残された狷介な父と「人生敗残者」の兄。少女行方不明事件の容疑が、ベビーシッターをしていた息子にかかり、男の堅固なはずの家庭を腐食し始めて、過去の家庭の追憶にも地獄絵図が追塗装されて行く。絶望的な結末を暗示する追想記述が、現在・過去二つの家庭悲劇文学を陰影深くリードして行くが、少女事件のミステリどんでん返し決着に併せて、鮮やかに、しかし、苦く収束する。
※親が愛するのが「理想の子」であって、自分でない事を知る子供の苦しみ。現前の子供の実像を愛することのできない親の地獄。取り繕われた紙細工の家庭・・米国男って、難儀そうだなア、家庭経営・・(どこも同じか)

No.3 6点 YMY
(2022/12/27 23:25登録)
写真店を経営しているエリックは、教職につく美しい妻とおとなしい息子との生活に満足していた。だがある日、八歳の少女エイミーが行方不明になり、ベビーシッターの息子キースに疑いがかかる。誘拐して性的暴行に及び殺したのではないかというのだ。
ここでは誰もが弱さを抱え、癒えぬ傷を持ち激しい不安の中で生きていて、ある者は倒れ、ある者は破滅へと突き進む。人々は対峙し交錯し事実を探り合い、奥深く埋め込まれた謎を解き明かしていく。
その巧妙な仕掛け、堅牢なプロットはさすがで、前三作には及ばないものの、それでも小説の醍醐味を十分に味あわせてくれる。読後感は苦く厳しいけれど、それでも随所で語られる諦観は人生の真実を照らしている。

No.2 6点 八二一
(2022/03/10 20:04登録)
ペシミスティックな関係でしかなかった親子の絆が、終盤反転する展開は見事。その後に待ち受ける暗転は、とてつもなく悲劇的。

No.1 6点
(2015/09/24 10:43登録)
かつて読んだ記憶シリーズも、それ以外のものも、語り手の重苦しさはみな同じようなものと感じていたが、本作はちょっと違うような・・・。身近なテーマだったということだけなのかもしれません。

8歳の少女エイミーが行方不明になり、その直前に彼女のベビー・シッターをやっていた15歳のキースに疑いがかかる。キースは主人公エリックの息子で、やや引きこもりがちな少年。エリックの兄のウォーレンも、ホームで暮らす父親も、問題があるようだ。事件後、妻との間も次第にギクシャクしてくる。

本来ならエイミーは生きているのか、誘拐なのか殺人なのかということがいちばんのテーマになるはずだが、本書では、エリックと、疑いを持たれた息子や妻、兄、父との家族関係の描写に多くのページが割かれている。
家族を描いたサスペンス風味の一般小説という感じか。
こういった少女失踪事件も、視点を変えればこんな描き方ができるのだと感心した。テーマが万国共通の家族関係だから、主人公に感情移入しやすいはず。

ラストは予想外だった。やはりミステリーだった。
合格点だが、「緋色の記憶」には及ばず。

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