灯台 アダム・ダルグリッシュ |
---|
作家 | P・D・ジェイムズ |
---|---|
出版日 | 2007年06月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 5点 | ことは | |
(2024/11/04 23:36登録) いままでのジェイムズ作品と比べると、書き込みの薄さを感じる。特に後半、捜査2日目の描写は30ページしかなく進展がみえないし、ダルグリッシュにトラブルがあって以降の書き込みは、駆け足といっていいくらいで、いつものジェイムズ調ではない。解説でも引用された、作中のセリフ「言葉が前ほどすらすらと出なくなっていました」は、確かに作者の現状の吐露だったのかもしれない。 まあ、とはいっても「いままでのジェイムズ作品と比べると」なので、これで普通くらいになったというところだろう。 また本作は、いつもの事件関係者のじっくりした描写から始まるのではなく、プロローグで捜査側3人の「事件に呼び出されるまで」の描写から始まるので、いつになく入りやすい。しかもプロローグは、それぞれのパートナー関係に重点がおかれていて、本作のテーマを暗示している。 1章では、事件関係者の恋愛/夫婦/パートナー/親子関係を中心に描写がすすむ。一族の長とその家族、作家と娘と娘の恋人、所長とその家族、事務長とその妻、医師とその妻、助手とそのパートナー。ここの各章はいつものジェイムズ節。ただ、章立てはいつもより少ない。 2章、3章と関係者への聞き込みで、さまざまなことがわかってきて、この辺の描写はジェイムズらしく、人間心理の綾を感じさせるが、最初に書いた通り、後半は書き込みが薄くなり、解決は唐突感があり、全体的には、後期作では下位になると思う。 ラスト・シーンは、ダルグリッシュとミスキンにフォーカスがあたり、明るい未来を予感させる描写になっている。作者85才の作とのことなので、ジェムズ自身、最後の作になることも想定していたのだと思う。最後の作になってもいいように、キャラクターたちに区切りをつけるため、このラスト・シーンにしたに違いない。 |
No.3 | 5点 | nukkam | |
(2024/02/01 06:00登録) (ネタバレなしです) 2005年発表のアダム・ダルグリッシュシリーズ第14作(コーデリア・グレイが実質の主人公である「女には向かない職業」(1972年)もシリーズにカウント)の本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「殺人展示室」(2003年)あたりから構成がシンプルになってきたと評価されていますが、確かに1970年代から1990年代にかけてのシリーズ作品と比べると重苦しさや密度の濃さが緩和されていい意味で力が抜けたように思います。それでもすらすら読める作品ではなく、物語のテンポが遅くて第四部に至るまでじりじりさせられます。その第四部でダルグリッシュが捜査を離れてケイト・ミスキン警部とベントンースミス部長刑事の2人で事件を解決しなくてはならなくなる意外な展開に驚かされ(捜査離脱の理由は異なりますがルース・レンデルの「惨劇のヴェール」(1981年)をちょっと連想しました)、何と登山シーンまであります(捜査に必要となる登山です)。第四部の9章で推理で犯人を特定しているところは本格派ならではですが、あまり論理的に説明されておらず説得力は微妙です。明るい将来を期待させるような幕切れはこの作者としては異色です。 |
No.2 | 5点 | びーじぇー | |
(2019/12/20 20:53登録) 孤島での殺人という、いかにも謎解きミステリらしいシチュエーションの物語である。とはいえ、作者が力を注いでいるのは論理的なパズルの解決部分ではない。緻密な人物描写を通じて、二重にも三重にも入り組んだ密度の高い物語を組み立てる。その構築物の精緻さこそ堪能すべき作品だろう。作者の至芸はプロローグからすでに始まっている。ダルグリッシュと二人の部下がカム島に向かう前の日常風景を切り取って、それぞれの人物像を鮮やかに提示してみせる。本編篇に入れば、島の滞在客やスタッフの一人一人についても、同じように密度の高い描写が用意されている。荘重さととっつきやすさとのバランスを備えた小説である。そして何より、ジェイムズならではの冷徹な視点が生み出す、心地よい重さを満喫できる小説である。 |
No.1 | 5点 | あびびび | |
(2011/05/12 16:05登録) 周囲は断崖絶壁、唯一ある小さな港はいつも監視下にあり、他所からの侵入は無理という孤島ミステリ。 その島の灯台に世界的に著名な作家が吊るされた。犯人は旅の客4名か、宿を切り盛りするスタッフ10名あまりの中にいる…。 この作者が85歳のときの作品らしいが、細かな人物描写は優れていたものの、ミステリとしての意外性、発展性に乏しかった。アガサクリスティより、ドロシーセイヤーズ派らしい。 |