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ミステリの祭典

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奇術師のパズル

作家 釣巻礼公
出版日1999年10月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 6点 nukkam
(2021/07/16 06:54登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の本書は刺激的なタイトルもそうですが、作者が「本格ミステリーのつもりで書いた」、「いつかは真正面から密室を扱ってみたいと思っていた」とコメントしていることからガチガチの本格派推理小説かと期待して読みましたが読む前のイメージ(期待値)とは違う内容でした。スクールカウンセラーの女性を主人公にして学校が抱える様々な問題と直面させる社会派要素がとても強い作品です。これはこれで読み応えがありますがパズル性が弱くなった印象が否めません。それでもトリックが非常に凝っていて図解による説明も充実しているのですが、まだ説明不足に感じられます。ネタバレなしで理由を書くのが難しいですが最後の謎解き場面での「ひとときの強制的な眠り」は何のためなのかよく理解できませんでしたし、その後に続く「体育館を出る」はどうやって出たのかについて触れられていません。総合的には5点評価ぐらいなのですがトリックのアイデアに感心したのでおまけ評価します。

No.3 4点 メルカトル
(2020/07/01 22:54登録)
中学校のカウンセラー・棟谷志保子あてに、“大石和哉を知っているか?”という謎のメッセージ。発信人は、死んだはずの女生徒・新庄朋恵。大石は志保子の婚約者だったが、生徒に刺殺された。やがて、文化祭に出品する立体モザイク『隧道の中の悪魔』の傍に、“新庄朋恵は私が殺した”という遺書を持つ大河原杏子の死体が…。モザイクに描かれていた五個の人面図が、奇妙なことに四個に…。死体が発見された体育館は、完全な密室状態。志保子を襲う三人の男子生徒。MGの小部屋とは?消えた人面の謎が解き明かされたとき、戦慄の事実が…。奇想天外、新機軸の密室ミステリー傑作長編。
『BOOK』データベースより。

最後まですっきりしませんでしたね。何が何だか分からないうちに解決し、様々真相が明らかになっていました。トリックは大仕掛けな割に、効果が絶大とは言えず、そうだったんだくらいにしか思いませんでした。密室と言っても、なんだかなあって感じです。まあ私の頭が悪いことや読解力がないことを認めたとしても、これは凄いとはならないと思います。
一体どこを軸に置いて、物語を進めたかったのかも判然とせず。そして人間が描かれていない、まあこれはよくある事ですけど。文体も合わなかったですね、個人的に。そして警察の捜査がどうなっているのか、全く描かれていないのにも違和感を覚えました。

いじめ問題に関しては、生々しさが感じられず、これほどまでの参考文献が全然生かされていないのではないかと勘繰りたくなりました。
あくまでマイノリティの意見として、この書評はあまり参考にしないでいただきたいと思います。でもAmazonの評価が一つもないのには、何かしらの意味がある気もします。

No.2 6点 人並由真
(2017/03/12 20:31登録)
(ネタバレなし)
 藤沢市の枝野中学に校内カウンセラーとして赴任した、29歳の棟谷志保子。彼女には2年前、中学教師だった婚約者・大石和也を彼の教え子の少年に殺された哀しい過去があった。枝野中に赴いた志保子は、教師も生徒も、その多くが心を疲れさせている現実に直面する。そんななか、文化祭の出し物で用意された、トンネルを模した空間の中で女生徒の一人が変死。しかも密室状況の中で発見された彼女は<先に殺害された級友を手にかけた真犯人は自分だ>と告白するかのような書面を持っていた。不審を覚えた志保子は、独自に事件の謎を追うが……。

 密室殺人を売りにして、しかもこのマジックショー感覚が濃厚なタイトル。これはなかなかテクニカルな新本格パズラーが楽しめそうだと思っていると、小説のウェイトは予想以上に学校周辺の群像劇(生徒も教師も、生徒の家族までも)に置かれていてビックリ。巻末には教育論やいじめ問題関係の参考文献名が十数冊並び、おそろしくメッセージ性の強い内容だった。
 それでもタイトル通りに奇術のロジックに基づいた密室殺人トリックはちゃんと用意され、最後のひねりも含めて謎解きミステリの要素は多い。ある種の社会派的なテーマと謎解きミステリのハウダニット&フーダニットの興味、その双方が独特なバランスで掛け合わされた佳作~秀作で、どちらかといえば秀作寄り。
 苦悩を背負った生徒の親たちや、自分なりの教育の理想を模索する青年教師・半沢晋平など、キャラクターも印象的によく描かれている。というか全体的に、ポイントとなる作中人物の心のひだをよく叙述してあって、そこら辺も評価の対象。

No.1 6点
(2009/06/07 16:34登録)
中学校を舞台に、いじめや教育現場の実情などの問題を正面から扱った力作です。若干説教臭くなっているところもありますが、テーマへの真摯な取り組み姿勢が伝わってきます。
プロローグでの過去の2つの事件、それに花壇荒らしや軽い傷害事件などがメインとなる2人の女子生徒の死とどう関わってくるのかという点が、ミステリとしての興味をそそります。ただ、最初の机移動の件が最終的に無視されてしまったのは残念です。テーマや雰囲気は全く異なりますが、意外にロス・マクドナルド(後期)にも近い小説構成アプローチを感じました。
密室トリックについては、正に奇術師である泡坂さんが考案した、似た原理を応用したパズル的奇術道具を持っていることもあり、事件が起こる前からわかってしまいました。実行に際しては誰にも見られず出入りすることの危険性が気になりましたが、まあいいでしょう。

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