赤い拇指紋 ソーンダイク博士 |
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作家 | R・オースティン・フリーマン |
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出版日 | 1982年08月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2019/09/04 13:38登録) ソーンダイク博士デビュー作である。ワトソン(ジャービス)との出会いなど、ホームズ譚を真面目になぞっている。けど読み心地は「科学啓蒙読み物」といったもの。そもそもの狙いがフランシス・ゴールトンの指紋の研究を捜査当局が取り入れたのはいいけども、それを絶対視しすぎることへの警鐘、という動機で書かれた作品だ。だから「社会派ミステリ」なんだよ(苦笑)。 キャラの数も少ないし、ミスディレクション皆無でミステリとしてはきわめて地味。小説としては...どうもねえ、ソーンダイク博士以外の人々が軒並み愚かすぎるとしか思えない。とくに女性キャラはヒロインさえ動揺しやすいし、ホーンビイ夫人に至っては....で、「女性に失礼」レベル。「昔の科学者のミソジニー傾向」と批判されても仕方ないんじゃないかなあ。 いい部分はというと、 運のいい当て推量は、あまり結果のぱっとしない、まともな推量よりも、往々にして信用を博するものだよ ....まあこれに尽きる。地味で冷静。回りくどいくらい。だったら最後の検証を二重盲検にしたらより「実験」っぽい。 ミステリというよりも、啓蒙パンフレットの部類だと思う。昔子供向けの本で読んだ記憶があるけど、挿絵がカッコよかった印象がある。「名探偵ソーンダイク赤い指紋」(ポプラ社)だなあ。児童向けにしてはチョイスが渋すぎ。 (がんばったら評者でもメイントリックを再現できる?とも思うけど、中盤の闇討ち道具を自作するのは素人はムリだよ....技術力、要るもん。あと余談。ソーンダイク博士っていうと評者はオペラント条件付けだ。完璧に同時代人。ゴールトンと併せて心理学史の授業を思い出す) |
No.4 | 7点 | 弾十六 | |
(2018/10/27 23:57登録) 1907年出版 翻訳1982年 実はソーンダイクものは初めて。どー見ても怪しいやつを作中では誰も怪しいと思わないのが変ですが、無邪気な語り手の恋愛模様が面白く、法廷でのソーンダイクの実験が素晴らしい作品。そして(ある意味)意外な物語の終わらせ方。凝った暗殺道具は無茶で、そこのところの筋は荒っぽいのですが、それ以外は順当な出来でとても楽しめました。当て推量(guess)論は明らかに偉大な先達を意識しています。(指紋関係では「ノーウッドの建築士」が1903年の発表) 騒がしい監獄、汚い法廷の描写にとてもリアリティがあります。全般的な印象として、女性の役割が当時はこの程度か、という感じ。とても息苦しかったでしょうね。 ところでBlickensderferを知らなかったのですが、なかなか面白いタイプライターですね。Model 5がリテラリイ型でModel 7がコマーシャル型かな? (ストーントン型Stauntonのチェスの駒というのもこの作品で覚えました) |
No.3 | 6点 | mini | |
(2016/11/09 10:01登録) 本日9日に、ちくま文庫からオースティン・フリーマン「オシリスの眼」が刊行される、どうやら例の”藤原編集室”のお仕事のようだ、ちくま文庫とのタッグも定番になってきたね ちくま文庫ってさ、最近は結構ミステリ分野に貢献しているんだよね、年末恒例の『このミス』の”我が社の隠し玉”コーナーに新規参加してもいいんじゃない? ただ、ちくま文庫のミステリ分野での仕事っていうのは、全くの未訳作の発掘とかじゃなくて、落穂拾いとも違うな、何て言うのか、例えば他社で出てた文庫版以外の版型での絶版本の文庫化みたいな仕事とか、あとは他社でも翻訳が有る作品の別訳とかなんだよね ”藤原編集室”絡みだと、国書刊行会とかで出てたハードカバー本の文庫化とかね まぁそういったちょっとニッチな仕事なんで注目され難いのかも 今回の「オシリスの眼」も渕上さんの翻訳で、要するにあの”ROM叢書”からの文庫化なのです 関係者には申し訳ないんだけど、実は私は”ROM叢書”が嫌いでね(苦笑) やはり同人出版じゃなくて、そりゃ採算の問題もあるのでしょうが、堂々と商業出版をして欲しいと思います まぁ雑誌みたいなものならね、そりゃ同人誌もいいとは思いますが、単行本の形式での同人出版という考え方には賛成しかねますね 「オシリスの眼」がシリーズ第2作、一部で初期の代表作とも噂されている作なのに対して、シリーズ第1作が「赤い拇指紋」である ここでシリーズ第1作と表現したがデビュー作としなかったのには理由がある ミステリデビュー作は実は単独執筆ではなく、職業も同じ医師のピトケインとの合作短編集『ロムニー・プリングルの冒険』で名義もクリフォード・アッシュダウン名義である、この短編集、歴史的重要性で”クイーンの定員”に選ばれているのだけれど、翻訳刊行の可能性は? さて「赤い拇指紋」であるが、ソーンダイク博士がホームズのライヴァルとして短編シリーズで活躍するより先で、この辺はホームズが短編シリーズで人気を決定付ける以前に長編で先行デビューしていたのと似ている 戦前黄金時代までのミステリ作家の中で、典型的な”理系ミステリ作家”は誰だ?と考えた場合、私なら次の3名を選ぶ 3、4が無くて第5位は化学者作家J・J・コニントンである 第2位はやはり理系トリックの宝庫ジョン・ロードで決まり そして第1位は、これはもう誰が異論をぶつけてこようが、絶対にオースティン・フリーマンで揺るがない そりゃ弱点も多々有るのだけれど、それも魅力の内、良くも悪くも典型的な理系作家である 「赤い拇指紋」だって欠点だらけなんだよね、フーダニット面では全く魅力が無い 当サイトでnukkamさんもミスリードの弱さを指摘されておられるが同感で、上手い下手というよりそもそも読者をミスリードしようという気が感じられないんだもん もしかするとフリーマンって、ミスリードを潔い手法とは認めなかったんじゃないかねえ、あ、でも短編「モアブ語の暗号」みたいなのあるか、でもあれはミスリードと言うか・・(笑) ロマンスなど決して科学だけじゃなくてヒューマニズム面にも優れていた作者だけれど、「赤い拇指紋」が歴史的に名を残しているのは当然ながら指紋トリックが使われる危険性をこの時代に提唱していたという1点に尽きよう 単純過ぎるプロットとか欠点は数々あれど、小説創りの上達は後のシリーズ作品に任せるとして、この第1作目では良い意味での歴史的価値だけで評価したいと思う |
No.2 | 6点 | nukkam | |
(2015/08/08 12:31登録) (ネタバレなしです) 法医学者探偵ジョン・ソーンダイク博士の生みの親オースチン・フリーマン (1862-1943)の1907年発表のデビュー作です。第11章や13章ではいかにも科学者探偵らしい活動を読むことができます。科学的といっても決して学術的になり過ぎず、一般読者にもわかりやすい説明は高く評価できます。扱われている犯罪が長編ネタとしてはちょっと苦しく、一応犯人当て本格派推理小説ではありますが犯人もトリックも大方の読者は早い段階で見当がつくでしょう(ミスリーディングらしいミスリーディングがなく、容疑者数も少ないです)。ロマンスも描かれており、全く無用だと批判した評論家もいたような記憶がありますが個人的には物語のちょっとしたアクセントとしてあってもいいとは思います。こちらも現代小説のロマンスに比べるとまどろっこしいぐらい奥手なロマンスですが(笑)。私の6点評価は書かれた時代を考慮してちょっとおまけの採点です。ところで決着の付け方に微妙にすっきりしないところがあったのですが、何と後年に本書の後日談的な作品が書かれたそうです。ぜひ翻訳紹介してほしいものです。 |
No.1 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2014/05/11 17:38登録) 1907年作品。科学者探偵ソーンダイク博士初登場。~『ロンドンの貴金属会社で、ダイヤモンド盗難事件が起こった。現場に落ちていた紙には、血染めの指紋がくっきりと残されていた。この指紋が経営者の甥ルーベンの左手の親指の指紋とぴったり一致した。無実を叫ぶルーベンに科学者探偵ソーンダイク博士が立ち上がる。』~殺人事件は起こりません。当時の証拠としての「指紋」万能主義に一石を投じた作品であるような気もします。科学的探偵の初登場ということで敬意を表したいと思います。事件と並行して語られるジャーヴァス(語り部・博士の友人)の恋も楽しめました。 |