急行霧島: それぞれの昭和 |
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作家 | 山本巧次 |
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出版日 | 2023年05月 |
平均点 | 6.40点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 7点 | ALFA | |
(2025/07/23 11:03登録) ときは昭和36年、ところは鹿児島から東京まで、26時間半をかけて走り抜く急行寝台列車「霧島」の車中。 まだ見ぬ父に会うため単身東京に向かう少女を主人公に、傷害犯を追う鹿児島県警の刑事、伝説のスリを追う鉄道公安官、妙に身なりのいい謎の少女、宝石泥棒、挙動不審の紳士などが入り乱れるグランドホテル(トレイン?)形式のスリラー。 それぞれのトピックも、場面転換が巧みなので混乱なく読める。 やや予定調和的でピリピリするようなスリルはないが、列車の進行に沿っての展開が楽しい。昭和の某有名列車ミステリーへのオマージュならぬ強烈なパロディも笑える。 現代作家の仮想昭和なので清張や島田一男の粘りつくようなリアリティはない。 |
No.4 | 6点 | びーじぇー | |
(2025/07/14 20:24登録) 上妻美里は一通の手紙を握り、鹿児島駅から急行霧島に乗り東京に向かう。彼女の向かいに座ったのが、令嬢風の前田靖子と名乗る女性だった。デッキには、傷害犯を捜す県警捜査一課の二人の刑事もいた。また一等席には大物のスリを追っている公安職員の姿もあった。さらに車内にはある犯罪を計画し、列車の運行を気にする男も乗っていた。 逃亡犯は本当に乗車しているのか、変装名人のスリはどこのいるのか、令嬢風の女性はどんな事情を隠しているのか。いくつもの駅に停車し、人々が乗り降りする中で、着実に列車は進んでいく。蒸気機関車の増設や電気機関車との交換など、当時の鉄道事情の正確なディテールに、それをプロットに巧みに取り込んでいるのはさすがである。 |
No.3 | 6点 | zuso | |
(2025/05/21 21:43登録) 昭和三十六年、鹿児島から東京へ向かう急行霧島を舞台にし、鉄道という半閉鎖空間に材をとった群像劇ミステリ。 散りばめられた謎が絡み合いつつ進行し、やがてそれぞれ種明かしされていく中で、読者の目の前に昭和の時代相が示される。昭和、戦後高度経済成長期の光と闇を閉じ込めた時代ものと言える |
No.2 | 6点 | 麝香福郎 | |
(2025/01/08 21:11登録) 昭和三十六年、鹿児島駅から東京駅までのおよそ二十六時間の旅路に様々な人間模様を浮かび上がらせるサスペンス。主人公は本屋の店員・美里。彼女は生き別れた父と会うために東京に向かう列車に乗る。車内で仲良くなった同年代の女性・靖子はお嬢様風のいで立ちながら、ただ一人で乗車している。その靖子は美里に、自分が何の目的で東京へ行くのか当ててみるというのだ。同じ霧島には二人の警察官が乗り込んでいた。傷害事件を起こして逃走中の容疑者がこの列車に乗っていると踏んだからである。 さらに凄腕のスリ師、乗車する宝石商から宝石を盗もうとする二人組の男などが登場し、なぜか犯罪のメッカとなってしまった急行霧島は人々の思惑を乗せて一路東京を目指す。無関係なはずの美里もやがて事態に絡むことになる。 なかなか姿を見せない犯罪者を炙りだすためにあの手この手を使う警察、随所に仕掛けられた意外な展開。鉄道ミステリの愉しみに、作者の得意とする人情噺を盛り込んでいる。 |
No.1 | 7点 | makomako | |
(2023/07/09 10:17登録) 山本氏の小説始めて読みました。 いわゆる推理小説風ではなく昭和の人々の描写と当時の社会風景とともに、戦争で行方不明となった父親に会いに行く娘、良家のお嬢様の話、障害事件の犯人と捜査官、スリと鉄道公安官などが色々まじりあって、なかなか楽しい。 これだけ話がいりまじると普通は混乱してしまうのですが、上手に描き分けてあり読みやすい。 さらに鹿児島から東京まで24時以上かかって走る汽車に引かれた急行霧島の情緒も素敵です。 子供の頃に汽車に乗って旅した経験がある私にとっては懐かしい思い出も交じりました。 警察や鉄道公安官に追われる犯人もそんなに悪いやつではなく、読後感がとても良い。 氏は鉄道小説をほかにも書いておられるので読んでみようかな。 |