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ミステリの祭典

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片翼の折鶴

作家 浅ノ宮遼
出版日2016年11月
平均点6.83点
書評数6人

No.6 7点 麝香福郎
(2022/11/18 23:14登録)
第十一回ミステリーズ!新人賞を受賞した「消えた脳病変」は、学生時代の西丸が講師の提示する謎に挑む。他四編はその後の彼の活躍を描くもので、どこから失血しているか分からない不審な患者の謎を解く「血の行方」、証人が逆行性健忘に陥ったために不可能状況が生み出される「幻覚パズル」など、密度の高い物語が楽しめる。題材に見合った、冷徹な筆致も魅力的である。
物語の根底にあるのは、全力を尽くして患者を救わんとする医師の熱意だ。「消えた脳病変」で医学生たちに挑戦した講師は言う。「医者は、答えが見つからないからと言って考えるのをやめてはならない」「考えるのを放棄するということは、その患者を諦めることを意味する」のだと。知的パズルと医療への関心が融合した医学ミステリ。

No.5 5点 蟷螂の斧
(2021/04/10 15:52登録)
高評価なので期待し過ぎました。
①血の行方 4点 単なる貧血の原因追及。オチはシオドア・スタージョンの「きみの血を」のような性癖にした方がよかったかも。せっかく、それらしき仮説があったのに残念・・・
②幻覚パズル 4点 ありそうもない仮説にありそうもない真相。わかる人はいない???。多重解決ものアレルギーなので、どうしても低評価に・・・
③消えた脳病変 4点 選考委員が絶賛!!とのこと???。まさか、そんな簡単なトリックではないよね!?と思いつつ・・・
④開眼 4点 消去法がなぜ悪いのかよくわかりません。解説でも説明されているのですが・・・
⑤片翼の折鶴 8点 スリルがあり、医者らしからぬ行為にハッとしました。動機は先例はあるも、この流れでは思いつかないもので大変Good。皆さんと違い本作がベストでした。

No.4 7点 まさむね
(2021/02/06 19:36登録)
 粒ぞろいの短編集。医学の専門知識のみに頼っている訳ではなく、本格度も高いです。明確に謎を提示し、情報の提供もフェア。きっちりと組み立てられています。
 マイベストは、「幻覚パズル」。部屋の配置図まで登場する密室系で、ロジカルな解決手法はまさに本格短編。盲点を突かれた真相も記憶に残りそうです。
 「消えた脳病変」も練られています。ちょっと伏線の一部が丁寧すぎたのか、「患者の脳にあった病変が消えた」理由は分かりやすかったのですが、全てを見通すことはできなかったですね。正確には、とある説明が必要であることを自分で見落としながら、そしてその伏線も見落としていながら、技術的な真相のみで満足していた・・・ということになりますかね。こちらも好短編です。

No.3 8点 ミステリーオタク
(2021/01/04 17:12登録)
現役医師の手による医学ミステリ短編集。

個人的な感想としては、最終話以外は「お見事」の一言。
特に《開眼》と《血の行方》には唸らされた。

No.2 7点 メルカトル
(2020/12/27 22:38登録)
医科大学の脳外科臨床講義初日、初老の講師は意外な課題を学生に投げかける。患者の脳にあった病変が消えた、その理由を正解できた者には試験で50点を加点するという。正解に辿り着けない学生たちの中でただ一人、西丸豊が真相を導き出す―。第11回ミステリーズ!新人賞受賞作「消えた脳病変」他、臨床医師として活躍する後の西丸を描いた連作集。
『BOOK』データベースより。

医療ミステリとは言え堂々たる本格ミステリの秀作短編集だと思います。特に二作目の『幻覚パズル』などは見取図を配して、ある意味密室事件の謎を本格的に多重推理を披露し真相を究明していきます。最早医療はほとんど関係ないと言っても良いでしょう。それよりも何よりも表題作ですよ、素晴らしいです。かなり毛色の変わった異色作ではありますが、西村豊が見事に脳変異が消えた謎を暴いています。これだけ理詰めの推理を見せられてはこの作品の前に平伏すしかありません。欠点らしい欠点は全く見当たらないと思います。全てが伏線に繋がっており、むしろ読者への挑戦状がないのが不思議なくらいです。このクラスの短編が並んでいれば、9点を付けるのも吝かではなかったでしょうね。

他はどうしても医療に対する知識がないと解けない作品もあり、やや残念な部分はありますが、いずれも好編揃いです。単行本刊行時の表題作『片翼の折り鶴』がもう少し踏ん張ってくれれば8点でしたね。それでも8点に近い7点と思って頂けたら、と言うところではあります。
作者は現役の医師でありながら、文章力も文句なく、露出度が少ない探偵役の西村豊医師の個性を僅かな仕草や言動で表現しており、見事としか言いようがありません。

No.1 7点 nukkam
(2020/06/09 21:23登録)
(ネタバレなしです) 医師である浅ノ宮遼(1978年生まれ)が2006年に発表したミステリーデビュー作の短編集(当初は「片翼の折鶴」というタイトルでした)で、診断の天才と呼ばれる西丸豊を探偵役にした5作が収まってます。大好きな本格派推理小説であっても難解な医療知識が満載なのは辛いので普通なら敬遠するところでしたが、創元推理文庫版で米澤穂信が「解決への手順も極めて論理的で、注意深く、かつフェアに構築されている」と絶賛しているのでついふらふらと読みましたが、いやこれいい、米澤さんありがとうと言いたいぐらいよかったです(何を偉そうに)。殺人の謎解きもありますが大半は患者や他の医師がわからない謎(病気の正体や病気の原因など)を西丸がどうやって解くかです。医学界の日常の謎解きですかね。でも普通の日常の謎と違い、それが解けないと患者は正しい治療を受けられずに死んでしまうかもしれないという緊張感があります。専門用語が多いですが語り口は滑らかで、一般教養さえ低レベルの私でも読みやすかったです。現場見取り図まであって最も本格派として充実している「幻覚パズル」と病変が消えたという風変わりな謎解きの「消えた脳病変」が私のお気に入りです。「私は探偵などではありませんよ。ただの医師です」のせりふで西丸が締めくくる「幻覚パズル」はこの短編集の最後に配置してほしかったですね。

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