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ミステリの祭典

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名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件

作家 白井智之
出版日2022年09月
平均点8.17点
書評数23人

No.3 9点 メルカトル
(2022/10/20 22:52登録)
病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。
調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。
奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか?
Amazon内容紹介より。

どういう心境の変化か、グロを封印した白井智之は正に超人の如き偉業を達成したのでありました。グロから解放された作者はまるで水を得た魚の如く、伸びやかにこの傑作を物しました。全てのミステリファン必読の書と言っても良いでしょう。2022年の本格ミステリは本作無くしては語れません。本年のランキングレースは『方舟』と『名探偵のいけにえ』で1位2位を争ってくれたら嬉しいなと思います。

衝撃度に於いては『方舟』に及びませんが、トリック及びロジックでは圧倒的に凌駕していると思います。又、そんな些細な事も伏線だったのかと、あれもこれも伏線だったのかと、100ページを超える怒涛の解決編を読んで、改めて感心させられました。
内容については敢えて触れませんが、一つだけ気になったのは、信者達がいくら洗脳されているとは言え、そこまで思考回路が捻じ曲げられてしまうものだろうかと疑問に思った事です。まあでも、そんな些末な瑕疵を論うのはこの傑作を前にして失礼に当たるでしょう。
色々述べましたが、畢竟個人の感想であり、批判的な意見もあって当然だと思います。それでも私の信念は揺るぎませんけどね。

No.2 6点 非公認ゃん
(2022/10/17 21:19登録)
【ネタバレ含む】初レビューです。
本作は語られている場では賛一色ですが、個人的にノリ切れなかった箇所があり、モヤモヤを吐き出したく書評を書かせていただきます。

【良いところ】
とにかくリーダビリティに溢れている。
堅苦しすぎず、稚拙すぎない筆致は最近の売れ線作家の中では貴重。キャラクタの思考、状況がスッと頭に入ってくる。
宗教団体の信者は病気や身体的障害がなかったことになる(と世界を認識している)という特殊設定を活かした衝撃的なトリック。犯行中のビジュアルを想像すると肝が抜かれる思いになる。
展開としても、ありがちな未開の土地や往路の出来事などのしつこい描写は程々にカットしていてダレずに読めました。

【気になる点】
150Pが割かれている解決編が売りとのことだが、3つの多重解決すべて探偵側が一方的にまくし立てる形で進められ、手段・動機ともに『探偵はこう思いました』の投げっぱなしになっている。
糾弾された犯人たちは言われっぱなしで反論しない・できないため、要は『この事件、こういう解釈もできますよね。知らんけど』を連続して畳みかけられる構成になってしまっている。
また看過できない点として、多重解決最後の犯人としてある信者が指名されるのだが、前述したように信者は身体的な欠損等は知覚できないというルールにも関わらず、その認識のギャップをバリバリに活かしまくって犯行に取り入れている。『実はこの犯人は宗教に染まっていないのでした』という描写もなく、1つの論中で大変な矛盾が発生しているように思える。たしかに物語中での犯人の秘匿の方法及びそのタネ明かしは鮮やかだが、やはり釈然としない。

多重解決を超えた先に作者の最も書きたかったと思われる主人公の選択とその動機が語られるのですが、(布石がふんだんに打たれているにも関わらず)あまりにリアリティのない、幼稚な言葉遊びのように感じられたのは解決編の宙ぶらりん感に引っ張られてしまったからでしょうか。
総合的に大変楽しんで読破したのは間違いないのですが、後で思い返せば思い返す程頭の中で引っかかる、少し残念な読書体験でした。

No.1 9点 HORNET
(2022/09/24 20:21登録)
 探偵・大塒宗(おおとやたかし)の有能な助手・有森りり子が所用でアメリカへ行くと言い旅立ったまま帰ってこない。不審に思った大塒が調べると、実はりり子はガイアナ共和国に拠点を置く新興宗教団体の調査に赴いていたことが分かった。急ぎりり子を追って現地へ向かう大塒。そこに待っていたのは、「教祖の奇跡」を信じる異様な集団と、連続殺人事件だった―

 今回は作者らしいエログロはなりを潜め、実際にあった「人民寺院事件」をモデルにした本格ミステリ。帯に「圧巻の解決編150ページ!」とあるように、4つの事件の推理が二転三転する究極の多重解決もの。
 3回目の謎解きに入ったときは「さすがにもういいわ…」という感覚もあったものの、そこを読み終わったところで主人公・大塒が教祖に選択を迫ったシーンで「これがそのねらいだったのか!」と腰が浮き上がった。
 「後日譚」まで、三重にも四重にも仕組まれた仕掛けに驚かされ(白井智之作品を読んでいる人にはうれしい仕掛けも)、その手腕に改めて唸らされる一冊。

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