名探偵と海の悪魔 |
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作家 | スチュアート・タートン |
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出版日 | 2022年02月 |
平均点 | 6.25点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 7点 | 猫サーカス | |
(2024/09/02 18:46登録) バタヴィアからオランダへ向かう帆船が出港する直前、一人の男が「この船がアムステルダムに到着することはない」という不吉な予言を残して焼死した。乗客はバダヴィア総督の一行、船室に引きこもって顔を見せない子爵婦人、狂信的な牧師とその連れの娘、そして名探偵でありながら何らかの理由で総督に拘束されたサミー・ピップスと、その助手のアレント・ヘイズ中尉ら。果たして、焼死した男の予言は的中するのか。名探偵が囚われの身であるため、屈強な元傭兵であるアレントが彼の目や耳の代わりとして船上の人々から事情をを聞き出す役目を務めるが、秘密を抱えた乗客たちや、荒くれ男やひねくれ者だらけの乗員たちが相手なので、なかなか思うようにはいかない。一方、総督の妻サラもこの物語の魅力的な探偵役だ。横暴な夫から常に侮辱され続けている彼女は、船上の異変に直面した時、無力な妻という押し付けられた仮面を脱ぎ捨て、その頭脳明晰な本質を見せ始めるのである。船上の奇怪事のみならず自然の脅威にも見舞われて、ザーンダム号は恐怖と疑心暗鬼が渦巻く場と化す。人々は相次ぐ事件を悪魔の仕業と信じ、パニックに陥ってゆく。アレンとサラは、決定的なカタストロフィの前に真犯人をみつけられるのか。クライマックスに向けてのスリルの盛り上げ具合は類を見ないほど。本格ミステリとしてバディものであり、悪魔を巡るオカルト小説であり、海洋冒険小説であり、そしてパニック小説でもあるという盛り沢山な本書は、まさにエンターテインメントの極致というべき贅沢な快作である。 |
No.3 | 7点 | ʖˋ ၊၂ ਡ | |
(2023/10/12 13:01登録) 十七世紀前半、インドネシアからオランダまでの航海に出た貿易船を主な舞台としたミステリ。 前半、帆船に浮かび上がる印、謎の言葉、「魔族大全」など数々の怪奇をめぐる思わせぶりな展開が続くも、後半、極秘の積み荷の消失あたりから怒涛の展開を見せていく。船の上でゴシック趣向が全開し炸裂する。魅せられました。 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/07/05 04:21登録) (ネタバレなし) 1634年。インドネシアのオランダ領バタヴィアから、アムステルダムに向けてガリオン船(当時の大型帆船)「ザーンダム号」が出航する。だが出航直前、ひとりの人物がこの船に呪いがかけられている旨の示唆を表した? その船内には、バタヴィアにて超人的な推理能力を発揮した錬金術師にして名探偵サミュエル(サミー)・ヒップスの姿があったが、しかし彼の待遇は客人でも乗員でもなく、何らかの罪状故にオランダへと護送される囚人としてだった。サミーの助手かつ友人だった軍人アレント・ヘイズ中尉は、可能な限りの便宜をサミーのために図る。そして出航した船の周辺では、死者の徘徊や幽霊船の出没、そして怪異な殺人事件までが続発する。 2020年の英国作品。 いわゆるジャンル越境ものの内容、そして二段組の活字ぎっしり400ページ以上の大冊で、国産のそこらの新本格ミステリ3~4冊読むくらいのエネルギーを消費した。それくらい全編フルスロットルな感触の小説。 それでもとにもかくにも何とか2日ぐらいで読めたので、ツマラナくはなかったが、海洋小説、オカルト風ホラー部分、そして謎解きミステリの興味が互いに主張しあって、読み手の側から見れば楽しみどころが相殺されてしまっている印象もある。 読み始める前は、この手のジャンルミックスものの長編として大好きなニーブン&パーネルの『ドリーム・パーク』とか沢村浩輔の『北半球の南十字星 (海賊島の殺人)』みたいなものを期待していたのが、そーゆー心地よさの方にはいかなかった。 (ただしあれもこれもと欲張った作者のパワフルさは認める。) あと、大ネタのひとつふたつ、たとえば<あー、このパターンなら、(中略)は(中略)なんだろう>とか、早々に読めてしまうのは難点。 まあフーダニット的な意外性はなかなかだと思うけれど、そのサプライズの度合いが作品の面白さにいまいち繋がらないのは残念。 ラストのクロージングは、この作品の大設定=17世紀の過去の世界が舞台、に似合った感じで良かった。 その辺の呼吸は、ちゃんと作者もわかってらっしゃるんだよね、という感じ。国産の冒険小説ミステリ作家でこーゆーものを書く人がもしいたとしたら、同様のまとめ方をしそうな印象もある、ある意味では王道の変化球だとも思うけれど。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2022/05/20 13:36登録) (ネタバレなしです) SFミステリーの「イヴリン嬢は七回殺される」(2018年)でデビューした英国のスチュアート・タートンが2020年に発表した第2長編です(英語原題は「The Devil and the Dark Water」)。「イヴリン嬢は七回殺される」はジャンルミックス型らしいのですが(私は未読です)、本書も海洋冒険小説、本格派推理小説、歴史小説、怪奇小説がミックスされています。作者は歴史描写については細部にこだわらずフィクションであることを強調していますが、十分に時代性を感じさせていると思います(歴史知見の乏しい私が賞賛しても説得力ないですけど)。船に乗り合わせた船員、兵士、そして船客の関係がどちらかといえば対立的ですし、男尊女卑描写も容赦ないところは現代社会と大きく異なる雰囲気です。前半は物語のテンポが遅過ぎで、後半は劇的に盛り上がりますが色々詰込み過ぎで意外とサスペンスを感じませんでした。冒険小説として人が(結構大勢)死ぬのと本格派の被害者として人が死ぬのをごちゃまぜにしているためか、それなりに推理説明はしているのですが謎解きのすっきり感があまり得られません(なかなか巧妙なミスリーディングがありますけど)。善悪を超越した決着のつけ方がユニークです。 |