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ミステリの祭典

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チャーリー・チャンの活躍
チャーリー・チャン/別題『観光団殺人事件』『チャーリー・張の活躍』

作家 E・D・ビガーズ
出版日1950年01月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 6点 クリスティ再読
(2019/01/14 10:58登録)
評者チャーリー・チャンって読んだことなかった。創元オジサン印の古典なんだが、どうもここに至るまでに高校生の頃の本格愛が尽きたようだった(苦笑)。ビガーズ自体完全な初読である。
で読んでみると、世界一周旅行ツアーの中で起きる殺人、という設定がなかなかナイス。大勢のツアー客を書き分けるのがポイントだけど、これがちゃんとできてる。そうそう「誰だっけ?」にならないので、小説の腕は確か。
としてみればさ、最初のロンドンでの殺人をパズラーとしての導入にして、中盤をフランス~イタリア~横浜のスリラーで繋いで、終盤で真打ちのチャーリー・チャンによるパズラーの解決、とする構成の良さが、こりゃ立派なものだ。後からツアーに参加したチャンと、読者が改めて同じ情報を見ながら推理できるのがフェアでねえ。だから少々犯人特定に無理があるけども評者は許せちゃう。あっちこっちに細かくミスディレクションも振れてるし、地味かもしれないが、なかなか良い作家じゃん、というのが一番の感想である。
けど評者はチャーリー・チャンというキャラはそう好きじゃないな。妙な格言とか、ピジン英語調とかはあまり感心しない。それでもダフ警部の友情に対して、チャンが「侠気」みたいなものを見せるのが、いい。
エンタメとしてはしっかり良心的に出来てるとは思うが、キャラが古くなってる?ということかもしれない。

No.4 7点 斎藤警部
(2018/08/16 12:30登録)
「私お祝い言います。人生あなたを哲学者にしました。ですからこれから平和に生きられます。」

これは良い本。風薫る魅惑の滑り出しから犯罪の領域へと速やかに緩やかに繋がり、(本作では)まだ見ぬCC警部への輝きの逆ノスタルジーに包まれながら情感豊かに物語は紡がれます。多幸感上等。。。 時にブロゥクンながら節度と知力と愛と霊感溢れる、チャンの英文手紙の文体、よくぞ訳した! 泣けた!! 無き九龍城砦を思わせる構造と由来の摩訶不思議な高級ホテル、ブルームも忘れ難い。 第一章の終わり、信頼が皮肉を包みこむ締めの温かさは感涙ものです。

舞台は(CCの拠点ホノルルを挟んで)米国地方名士たちの世界一周の船の旅。細部の意外なストーリー展開がさんざん本格興味をそそった後、数多の容疑者たちも個性豊かに書き分けられた末、予想外に熾烈過ぎる展開の奥に、、、やっと大人チャン警部登場。そして日系人の部下カシマ(このコンビ良し)。

「町で最も愚かな人、学校へ行く道教えること出来ます」

最後の’どうしてバレたんでしょうか?’だけ猛烈に推理クイズの味わいなんだが、これだけの物語力に魅了されたらそんなの普通に許せちゃいますよねえ。 ラストシーン、さりげなく最高です。

佐倉潤吾さんの訳者後書きに、じつに味があり特筆を唆る言及が二つ。「本格推理小説がすたれたのは、行き詰まったのと、読むのに骨が折れるからだが、そういう読み方をする必要はない。物語として読めばいいのである」、そしてさり気ない翻訳ハック「アクセントの置き方の問題である」の人生全般への拡がりよ。 (チャーリー・チャンもの、戦前は我が大日帝でもぐんとポピュラーな存在だったんですなあ)

‘漁を行なうとき’’網を乾すとき’なる独特の表現による最後の二章、ニクいね。

ところでチャーリー・チャンと聞いて反射的にニック・カーショウの”ジェイムズ・キャグニー”を思い浮かべる人はどれくらいいらっしゃいますでショウカー。

No.3 6点 nukkam
(2016/08/28 01:09登録)
(ネタバレなしです) ニューヨークを出発し各国経由でロス・アンジェルスへ向かう世界一周旅行団の人々が次々に殺されるという派手な展開の1930年発表のチャーリー・チャンシリーズ第5作となる本格派推理小説で、エラリー・クイーンがフェアな謎解きを誉めたことでも知られます。もっともジョン・ディクスン・カーが指摘したように犯人につながる手掛かりがあまりに少ないのは弱点でしょう。とはいえ明快なプロットと連続殺人のサスペンスが相まって読みやすく、チャン警部と部下のカシマとの微笑ましいやりとりもいいアクセントになっています(当人たちは真剣なのかもしれませんが)。

No.2 4点 mini
(2013/06/24 09:57登録)
本日24日に論創社からE・D・ビガーズ「黒い駱駝」が刊行される、毎度論創のことだから全国的には取り次ぎにバラツキがあるかもしれない
「黒い駱駝」は別冊宝石で抄訳があったが、過去の抄訳の完訳も最近の論創社の一環らしいので、その線に沿ったものだろう
ただ私としてはその方針には賛否両論ある
その抄訳だったものが当然に訳されるべき性質の作品だった場合は論創の方針を称えたい
しかしだねえ、当該作品が権威者の好みで過去に訳されたものとか全く重要度に欠けるものなど完訳復刊するだけの意義に欠ける作品の場合は、そのまま埋もれさせておけばいいのではと思われるものも無くはない
過去の抄訳を何でも完訳復刊せよ、みたいな風潮には私は必ずしも賛成出来ない、やはり作家・作品によりけりだと思う
出版社がそっちに気を取られて、もっと目を付けるべき未訳作への注目が疎かになってしまう危惧もあるのだ
「黒い駱駝」などはまぁよくやってくれた部類ではあるかな
チャーリー・チャンシリーズ長編は全部で6作しか無いが、「黒い駱駝」は第4作目で、第3作「チャーリー・チャンの追跡」と第5作「チャーリー・チャンの活躍」の間に位置する
第6作目その名も「チャーリー・チャン最後の事件」も論創社が手掛けており、中古市場でも入手容易な創元文庫版の「追跡」「活躍」と合わせて第3~6作は簡単に読めるようになった
残りは初期の2作だ、どこがやる?

さてシリーズ第5作目「チャーリー・チャンの活躍」は一種の船上ミステリーなので、私的読書テーマとも合致する
ただし出来映えとしては「追跡」よりもかなり落ちる
まず良くないのが、世界一周観公団、という設定が魅力的な割にはあまり活かされているとは言えない、これは例の森事典でも指摘されていたが、観光という部分にもう少し筆を費やしてもらいたかった
また作者の狙いだったのかも知れないが、チャン警部が後半にしか登場せず、あっさり事件を解決して終りなのが物足らない
「追跡」ではチャン警部の人物描写や捜査場面が濃厚に描かれており、題名的には「追跡」の方がはるかに”活躍”している
このチャンの人物像というのがシリーズの大きな魅力なので、出来れば前半から登場してもらいたいキャラクターだ
やはり創元文庫の2冊では、「追跡」の方がはるかに代表作に相応しい

No.1 7点
(2010/09/21 21:10登録)
アメリカ人たちの世界一周観光ツアーの途中発生する連続殺人事件を描く、いかにもクラシックなフーダニットに徹した作品です。
犯人が旅行参加者の中にいる男であることはかなり早い段階で明らかになりますが、叙述トリックなんて当然ありませんし、それどころか犯行方法もごく普通です。それでもミスディレクションを工夫し、読者に犯人を簡単に悟らせないようにしながら説得力ある解決にまで持っていくフーダニットとしての構成は巧みです。ゆったりした展開は、今どきの派手なミステリに慣れた人には退屈かもしれませんが。
まあこれだけの長さの作品のうち、犯人を示す手がかりが、犯人がしゃべっている途中うっかり口にしたたった一言だけ(英語では形容詞なら1語かもしれません)というのが、少々不満でしょうか。
前半はスコットランド・ヤードのダフ上席警部(なんとなくフレンチ警部を思わせます)が事件を担当し、チャーリー・チャンは途中から登場して事件を引き継ぎます。

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