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ミステリの祭典

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スワン

作家 呉勝浩
出版日2019年10月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 5点 E-BANKER
(2022/02/25 21:01登録)
乱歩賞受賞の作者。先日「道徳の時間」を読了したばかりだが、同作品が今一つピンとこなかったので、再度本作で作者の「水準」を探ってみたい。(エラそうなこと言うてますなぁー)
2019年の発表。

~首都圏の巨大ショッピングモール「スワン」で起きたテロ事件。死者21名、重軽傷者17名を出した前代未聞の悲劇の渦中で犯人と接しながら高校生のいずみは生き延びた。しかし、取り戻したはずの平穏な日々は、同じく事件に遭遇し大怪我をして入院中の同級生・小梢の告発によって乱される。次に誰を殺すか、いずみが犯人に指名させられたこと、そしてそのことでいずみが生きながらえたという事実が週刊誌に暴露されたのだ。被害者から一転、非難の的となった彼女。そんななか、彼女のもとに一通の招待状が届く・・・~

なんていうか、実に曖昧模糊としたお話だった。多分、本作の肝は”What done it”(何が起こったのか?)なのだろうと思うのだが、随分もったいぶったなぁーという感じなのだ。
「大勢の人々が集まる巨大ショッピングモールで発生する大量殺戮」という滅茶苦茶派手な冒頭シーンにまずは読者は度肝を抜かれる。しかし、そこから始まるのは、「実際に起こったことは何か」ということを1つ1つ明らかにしていくという実にジミーな展開。
その辺の居心地というか、バランスの悪さがどうにも目に付く気がした。

読者は一体どこを、或いは何を「面白い」と思えばいいのか? それが実につかみにくいのだ。
それなりに「熱」はあるし、作者の「魂」も感じるには感じるんだけど、細かいところにフォーカスを当てるのならもう少し精緻で丁寧な分析などがあってもよかったし、そこに「仕掛け」が欲しいところだった。
ラス前の「ピンチシーン」もなぁー、いかにもっていう感じだし、そこにカタルシスを感じる読者はあまりいないだろう。
じゃぁ、どうすればよかったのか?
うーん。「分からん」。「不可思議な謎の解明」という本格志向か、疾走感を重視したサスペンスか、動機に焦点を当てた社会派寄りのプロットか、そんな傾向でもあればよかったのかもしれんが、そこを曖昧にしたところが本作の「面白さ」を削いでいるのかもしれない。

いずれにしても、作者の作品は2作目だけど、しばらくはいいかな、という感じにはなった。
それが本音。

No.3 6点 HORNET
(2021/11/20 15:42登録)
 劇場型の犯罪シーンによる派手な幕開けにより、導入から入り込んで読める。物語は、大量殺人をした末に犯人が自害した事件で、生き残った片岡いずみを主人公にして、いずみだけが知っている事件の真相を追う展開。
 冒頭に事件の舞台となったショッピングモールの見取り図が掲載されているが、事件時のそれぞれの人物の行動を検証する際には逐次見返しながら読み進めないと、なかなか全容が理解しづらかった。
 物語の中盤は、不審な死に方をしていた老女・吉村菊乃の死の真相解明に充てられているが、正直、その真相はが物語的にあまり魅力がなく、細かな検証にページを割いた意義はあまり感じられなかった。
 一番の謎・いずみのバレエのライヴァルである古館小梢が撃たれた真相については、魅力的な謎ではあったがラストが近づくにつれて概ね看破できた。
 疾走感のある展開で、止まることなく読み進めてしまう魅力はある作品だった。

No.2 6点 猫サーカス
(2020/01/14 19:55登録)
理不尽な悪意や暴力に巻き込まれた時、それにどう向かい合うのか。第162回直木賞にノミネートされた本作では、無差別銃撃事件に巻き込まれ、生き延びた被害者らのその後を描いている。無差別銃撃事件当日、犯人と接触した高校生のいずみは、同じく生き残った同級生・小梢の「(犯人が)次に誰を殺すか、いずみが指名した」という告発により、被害者の立場から一転、非難の的になる。そんないずみの元に、生存者5人を集めた「お茶会」の招待状が届き・・・。お茶会が何の目的で開かれ、被害者たちがなぜ集まったのか、そして徐々に、誰もが何かを隠し、嘘をついていることが明らかになっていく。悲劇の被害者か悪人か。白か黒か。分かりやすい答えを求める他者と、その場にいた人間にしかわかり得ない複雑な感情を抱く当事者たち。重厚な心理劇としてだけでも十分に読ませる内容だが、、エンタメ要素もかなり含まれており、ストイックなまでに娯楽を追求している小説といえるでしょう。

No.1 6点 人並由真
(2019/11/26 01:59登録)
(ネタバレなし)
 その日、埼玉県東部の巨大ショッピングモール「スワン」で起きた、銃と日本刀による無差別大量殺戮事件。幼児を含む21人が殺され、多数の負傷者が出る。女子高校生・片岡いずみは、さる事情ゆえに彼女を敵視する同窓生・古舘小梢(こずえ)によって、たまたまその日、スワンに呼び出されていた。いずみは無差別殺人者トリオのひとり「ヴァン」によって事件に巻き込まれ、全くの不本意ながら、複数の人間の殺傷に関与する形となった。正義と良識を気どる市民からいずみへの非難が集まる中、弁護士の徳下宗平は、いずみを含む事件の当日、現場の周辺にいた5人の男女を呼集。ある目的のために、当日の彼らの行動の軌跡を検証しようとしていた。

 この数年、高い打率で力作を上梓している作者の最新作。ショッキングな序盤を経て、当人の責任とは別個に「正義と良識」という人間の悪意に晒される人公いずみの焦燥を叙述。さらにストーリーはベクトルの見えないトンネルの中を突き進んでいく。

 実際、物語の力点がどこに置かれるのかわからない作劇は独特な緊張感を読み手に感じさせるが、一方でこの小説の作りだと読者が予期・期待する興味が必ずしも提供されるとは限らないわけで。
 だから読んでいると「あれ、その件の描写はもう終り?」とか「意外にツッコまないで流して済ませたな」と言いたくなるような気分に導かれる部分もそれなりにあった。
 特に後半、それまでストーリーのメイン部分にいたある人物の運用に関しては、ずいぶんとイージーというか、こういう小説の作りをしてしまっていいのなら、悪い意味でかなりいろんなこと出来てしまうようなあ……と、軽い戸惑いの念を覚えた。
(言い方を変えるなら、送り手の思惑のなかで、登場人物が物語の駒にされすぎてしまっている感じというか。)
 
 それでも最後の最後、主人公いずみの視界を通じて読者の前に明かされる真実と、そこから繋がって見えてくる人間同士の距離感の妙は、結構鮮烈な印象ではあった。
 一発の銃弾が放たれた瞬間、そこで浮き彫りにされる人生の陰影と人間の切なさ。こう書くとシムノンの初期メグレシリーズのあの作品みたいだな(本作と内容は全然違うけれど)。
 あとwebやSNSなどの文化を通じて人の口がどんどん無責任に軽くなっていく現代、人間の心の成熟が文明技術に追いついてないことへの批判も物語のあちらこちらににじんでいる。その辺の「なにを21世紀のいまさら、でもやっぱり無視はできんな」という感じの生硬なメッセージ性もじわじわ来る。

 面白いときの呉作品は、濃厚なようなそのくせどっかいびつなようなそんな中身のバランス取りが独特。そこが大きな魅力なんだけど、今回は特化して印象的なポイントと、全体のやや座りの悪さが溶け合わず、ある種のひずみを感じさせてしまった印象もある。それでも水準作以上の読み応えはあったので、またこの人の次作にも期待ということで。

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