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ミステリの祭典

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殺意の設計
矢部警部補

作家 西村京太郎
出版日1976年08月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 パメル
(2020/05/04 09:25登録)
前半は麻里子の視点、後半は矢部警部補の視点で展開していくが、前半の浮気に悩む人妻のストーリーが絶妙な効果をあげている。後半にはいると、それまでの出来事が別の解釈により、鮮やかに反転し驚かされる。
大きなトリックはありませんが、死の瞬間の些細な矛盾点、妻の肖像画に関するトリッキーな仕掛け、毒薬の購入の小技など、地味で渋いトリックを次から次へと繰り出してくる手際の巧さはさすが。
叙述上のある仕掛けもありますが、これは察しやすいと思う。なお肖像画に関する真相には、その時のある人物の心情を察して泣ける。

No.1 6点 人並由真
(2019/07/08 03:04登録)
(ネタバレなし)
 世評の高い31歳の新鋭画家・田島幸平。その妻で27歳の麻里子は、匿名の密告状を契機に、夫が20歳の美人モデル・桑原ユミと浮気している秘密を知った。親族がいない麻里子は、仙台在住の旅館の若主人・井関一彦を手紙で東京に呼び出し、苦しい胸の内を打ち明ける。井関は幸平の親友で、かつては東京で同じように画家を志した身であり、そして麻里子と幸平と三角関係にあった。麻里子の訴えを聞いた井関は幸平とも対面し、良い結果を求めて尽力するが、やがてある夜、田島家の中で突然の死が……。

 作者の(比較的)初期長編。
 途中で、いかにも、これ見よがしっぽい仕掛けが覗くので、この時期の西村作品はこんなレベルで読者を引っかけようとしていたのか? と一瞬興が醒めた。しかしそのまま読み進めると、作者はしっかりと物語のその奥まで読み手に晒し、そんな上でさらに謎解きミステリとしての興味を煽ってくる。
 安易にプロの作家を舐めてはいけないと、少し反省。

 とはいえ事実上、物語の中盤には、犯人は絞られてしまうのでフーダニットとしてはそこで崩壊。あとに残る最大の興味は、動機の謎のホワイダニットとなる。
 それでこちら読者としてもミステリファンの欲目があるので、ここはひとつ連城の「花葬シリーズ」レベルのスゴイのが来ればいいな、と期待したが、残念ながら結末は意外に地味な感じであった。
 ただし容疑者が中盤で狭まった分、探偵役である警視庁の矢部警部補(十津川シリーズや左文字シリーズにも客演する、作者の地味な? レギュラーキャラクター)と犯人役の対決の構図は際立ったけれど。

 それでも犯罪計画の組み立てを暴いていく流れは全体的に丁寧で、その辺は好感。物語の後半、脇役として登場して矢部警部補を支援する雑誌ライター(記者)・伊集院晋吉の妙に人間臭いキャラクターも、ちょっと印象に残る。

 西村作品の初期の単発ものには結構面白いものがあるので期待したのだが、これはそこまでの思いには応えてくれなかったものの、それなりには楽しめた一冊であった。佳作。

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