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ミステリの祭典

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高い城の男

作家 フィリップ・K・ディック
出版日1965年01月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 7点 クリスティ再読
(2021/05/14 18:56登録)
困った本である。昔読んだときには何がいいのかよくわかなかったんだが、今回再読して、最後にジュリアナが作中小説「イナゴ身重く横たわる」の著者アベンゼンに会って話すあたりで、変なショックを受けていた....
いや、なかなか話にヤマはかからないし、日本人から見たら妙な日本理解がビザールに感じられて、アメリカ人が読んだときのように「オリエンタリズムに上書きされたアメリカ文化」みたいな絶妙の違和感を楽しむ、というわけにもいかないしね...で、緩い関係しかなくて「誰が中心になるのだろう?」と思いながら登場人物たちの群像劇をサラサラと読んでいくと、考えオチみたいなショックが最後に待っている小説なんだ、と分かった。

それが易、というものなんだ。この易と量子力学の多重世界解釈を重ね合わせたあたりで、この小説が成立しているんだろう。世界は観測されることで確率的なものから「実在」に変化する。この観測がすなわち易なのであって、易で占われることで、世界は変容する。つまり、ドイツと日本が第二次世界大戦の勝者になった世界も「一つの可能な世界」であって、いかに奇異な世界であったとしても、それは日々の微細な選択の集積に過ぎない。道徳的な教訓を引き出すなら、それらの「日々の選択において、良かれ」というにすぎないのだ。「イナゴ」が易による不断の選択によって書かれたのと同様に、「イナゴ」を書くにあたってアベンゼンが行った選択をするのならば、「イナゴ」のまた別な世界がたち現れていたに違いない....
我々が暮らすこの世の中というのも、実はそのような「選択」の集積の結果なのであり、それを考えると、空恐ろしいものがある。この「選択」を改めて眺めやって抱くそら恐ろしさと感慨が、この本の最後で現れるショック、なのだと思うのだ。

No.3 4点 ことは
(2020/02/22 17:46登録)
虫暮部さんの意見にとても共感。付け加えることなし。
これ、世評が高いけど、なんでかなぁ。
「なるほど、好きな人はそういうところを楽しんでるんだ!」と腑に落ちたいんですよね。

No.2 4点 虫暮部
(2019/09/27 12:01登録)
 架空の歴史とはいえなんだか普通な世界設定なので、ディックを読んでいる気がしない。鬼面人を驚かす奇天烈な設定で攻めて来ないディックにディックである必然性があるのか? でも本当に問題なのは、ストーリーがあまり面白くないこと。

No.1 7点 tider-tiger
(2018/02/17 10:53登録)
アメリカは第二次大戦で敗北し、勝利した日本とドイツにより分割統治されることとなった。それから十五年、日本に統治されているアメリカ西部では日本人が中国より持ち込んだ易(占いのようなもの)によって自らの行動を決定することが当たり前となっている。そして、最近になって奇妙な書物が大流行していた。『イナゴ身重く横たわる』この書物には第二次大戦でドイツと日本が敗北した世界が描かれていた。
上記のような舞台背景の下、サンフランシスコに在住する日本の通商団の一員である田上氏は交渉相手であるバイネス氏から怖ろしい情報を入手した。
ドイツは日本に大規模な核攻撃を加えるべく動き始めているという。

1962年の作品。本作のオマージュと思しき作品が糸色女少さんによりレビューされていたので、私はこちらを。
不安定な世界に生きる人々、何故かくも人々は不安を抱え、易などに頼って生きているのか。
古物商を主要人物の一人に据えて、本物と偽物に関する考察が興味深く語られていくあたりは非常にうまい。すべての事象が収斂し、ある意味わかりきった結論へと導かれる。
登場人物も魅力的であり、ストーリーも安定している。ディック作品の中では読み易い部類ではないかと思う。去年あたり映像化もされたらしく、そちらも是非観てみたい。
トレヴェニアンほどの日本理解はないが、日本への好意は感じ取れる。少なくとも悪虐非道には描かれていない。ドイツの扱いは酷いが。
ディックはインタビューで「取るに足りない人間がときおり見せる勇気、それが私の一番書きたいものだ。そういう人物が読者の記憶に残ることを望んでいる」みたいなことを言っていた。本作にも確かにそうした場面がある。
※上記のインタビュー、ソース失念。言葉も正確には記憶していないので参考程度にして下さいませ。

普通の世界に普通ではない人間を配置して物語を展開するシオドア・スタージョン。ディックは逆で、普通ではない世界に普通の人間を放り込む。
スタージョンにはなくてディックにあるもの、ディックの決定的な魅力、それは人間があがく姿だと思う。普通ではない世界、状況、絶望、そこから逃れよう逃れようと。彼らのその必死さ、生々しさに圧倒されて読者は心動かされるのだ。

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