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ミステリの祭典

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政治的に正しい警察小説

作家 葉真中顕
出版日2017年10月
平均点6.75点
書評数4人

No.4 7点 まさむね
(2023/07/17 19:41登録)
 ノンシリーズの短編集。質は高いと思います。
①秘密の海:児童虐待を扱った作品は多いが、こういった角度で見せられたのは初めてかも。巧い。
②神を殺した男:非現実的に見えて、何気に現実的な気もするホワイ。
③推定冤罪:このページ数で考えさせられ、してやられた。
④リビング・ウィル:ふふふ。なるほど、そんなものかもしれない。
⑤カレーの女神様:あれ?以前何かの掌編で見たのと同じネタじゃないよね、と思ったら案の定。
⑥政治的に正しい警察小説:深水黎一郎さんが書きそう…とか思っちゃった。

No.3 6点 パメル
(2023/05/19 06:44登録)
多彩なテーマをブラックユーモアたっぷりで描く6編からなる短編集。
「秘密の海」親から虐待されて育った人は、自分の子供にも同じことをするのか。絶妙なミスリードに唸らされた。
「神を殺した男」天才棋士の紅藤は、ライバルの黒縞に殺される。あまりにも身勝手な動機には驚かされた。AI将棋が進化した故の悲劇。
「推定冤罪」警察による自白の強要。昔はまかり通っていたらしいが。人が脳内で真実を捻じ曲げた記憶を作ることの怖さが印象的。
「リビング・ウィル」松山千鶴は、母から祖父が意識不明の重体だと連絡を受けて病院に向かう。終末治療における尊厳死に関して考えさせられる作品。感動するお話かと思えば、皮肉な結末に唖然。
「カレーの女王様」主人公が幼い頃に食べた母親のカレーの隠し味の真相。トラウマになるぐらい衝撃的な結末。まさかのホラー。味覚が信じられない。
「政治的に正しい警察小説」小説から差別的な用語を排除していくとどうなるのか。主人公がそのような描写を排除することに取り憑かれていく様が狂気的。表現を突き詰めることの怖さが伝わってくる。

No.2 7点 小原庄助
(2018/01/21 10:17登録)
「ポリティカル・コレクトネス」にとりつかれた作家の迷走を描く表題作は極端に走り面白いが、笑劇としての着地がもうひとつ。ただし、ほかの短編はみないい。
特に冤罪の顛末を捉えた「推定冤罪」は最後の最後(ラスト一行)に驚きの真相を明らかにして秀逸。偶然通りかかったカレー店で母親の思い出の味に再会する「カレーの女神様」は、しっとりとした叙情性のある作品かと思うと後半では視点が変わりグロテスクホラーに。植物状態になった祖父の願いを探る「リビング・ウィル」も終盤でがらりと転調して尊厳死の問題を突きつける。
この”テーマ主義”の特徴は児童虐待を扱った「秘密の海」でも顕著で、仕掛けを施した語りで切れ味の良い仕上がりを示す。注目の短編集だ。

No.1 7点 人並由真
(2017/11/20 13:32登録)
(ネタバレなし)
 葉真中作品を一冊単位で読むのは初めてだが、先日楽しんだアンソロジー『ベスト本格ミステリ2017』でのこの作者の短編『交換日記』が秀逸だったので、ほかの作品はどんなかなと思い、まず今年の新刊(文庫オリジナル)を手に取ってみる。内容は全6本のノンシリーズものの短編集で、それぞれがおおむね50~60ページくらい。
 
 以下、簡単に各編の寸評。
「秘密の海」……ミステリ的にはちょっと強引な作り? という気もするが、狙い所はよくわかる。主人公やヒロインの切ない人生も心に沁み込んでくる佳作。
「神を殺した男」……個人的には本書内のベストかな。××の初期短編(特に「××シリーズ」)を想起させる内容と着想で、とても良かった。ただし人によっては、その先行作の影がちらつくのを煩わしく思うかもしれん。
「推定無罪」……短編の紙幅のなかで、読者の興味をあちこちに引っ張りまわすよく出来た話。これ以上は言わない。
「リビングウィル」……ベスト2位はこれかな。読者によって受け取り方が変わりそうで、そこがミソであろう。
「カレーの女神様」……あえてノーコメント。本書の中では相対的に下位に来てしまうかも。
「政治的に正しい警察小説」……小林信彦、中山七里、筒井康隆あたりの<ふざけた毒>をメインに突っ走った一本。形質としては作者自身の自虐ネタにしたところがウマイよね(笑)。

 以上6本どれも楽しく、ノンシリーズ編の短編集のバラエティ感をじっくりと満喫した。ただし文庫の表紙裏の宣伝文句「ブラック・ユーモアミステリ集」というのは、その修辞に該当しない作品もあるのであまりよろしくない。
 あと表紙の頭の悪いカバービジュアルはなんかスキじゃ。このおかげで表題作は、あまりに過激すぎて国会で審議にかけられる警察小説の話かと思った。これも狙ってやっているのか。

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