アックスマンのジャズ |
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作家 | レイ・セレスティン |
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出版日 | 2016年05月 |
平均点 | 7.25点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 8点 | YMY | |
(2024/03/25 22:30登録) かつての上司の不正について証言したことが原因で、今は警察内で孤立している刑事と、その証言のために服役し、マフィアから抜ける条件として最後にボスの依頼を受けることになった男が、それぞれの目的のため同時に連続殺人犯を追い始めるという構図がいい。 そこに「何とか手柄を立ててピンカートンに正式な探偵として採用されたい娘」が第三の主人公として絡んで申し分のない人物配置である。キャラクターの設定には深度もあり、刑事が抱えている秘密には思わず虚を衝かれた。 |
No.3 | 7点 | 八二一 | |
(2020/06/15 19:50登録) 人種差別が強く残るニューオリンズを舞台に、実際に起きた未解決事件をもとに書かれた作品。警察、マフィアの元刑事、探偵志望の女性が事件を追っていくのだが、それぞれ事件に迫る過程はばらばらで、そこからニューオリンズの歴史が絡んだ真相に収束する様は見事。 |
No.2 | 7点 | tider-tiger | |
(2017/08/11 15:13登録) 手堅い作品だが、目を惹くタイトルとは裏腹に意外とケレン味は乏しくて、自分が編集者だとしたらなにを売りにしていいのか迷ってしまいそう。帯には『ジャズを聴いていない者は斧で殺す』と大きめの文字で書かれ、その下に『恐るべき予告までする連続殺人鬼の正体とは? 実際に起きた事件をもとに大胆な設定で描く話題作』とあった。うーん。ジャズは物語には申し分なく寄与しているものの、ミステリ部分と密接に関連しているかというとそうでもない。実際に起きた事件を下敷きにしていることもそれがうまく活かされているわけでもなく。さらに独自の作家性や突出した部分が見えにくい(裏を返せば欠点も少ない)。ジャンル分けも確かに難しい(個人的にはジャンルはどうでもいいのですが)。 時代設定は1919年。舞台はニューオーリンズ。1919年は奇しくも日本が国際連盟で人種差別撤廃を提案するも、なぜか反対する国(どこだろう?)がいくつかあって廃案とされた年。その頃、ニューオーリンズではまだまだ人種差別が根強く残っていた。こうした時代の街の描写、雰囲気作りがうまい。 人物もルイス、ケリー(もっとも気になったキャラ)といった脇役含めて丁寧に書かれており、主な視点人物が三名いても、混乱することもなく読み易い。この視点人物のパートはつまらないというような問題もなかった。 構成や文体は著者近影に比例して非常に生真面目な印象。視点人物を複数にしたことを活かした決着の付け方が洒落ている。 エピソードの作り方は上手だし、泣かせ方も心得ている。ただ一度だけのあの二人の会話なんか良かったなあ。これでパワー(個性)が出てくればかなり面白い作家になりそう。続編も読みたい。 ※ジャズはあまり詳しくありませんが、ルイスのモデルはすぐにわかりました。というか、名前同じだし。「What a wonderful world」で検索するとルイスの晩年の姿、歌声を堪能できます。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2017/03/11 01:56登録) (ネタバレなし) 1919年。イタリアやアイルランド系の移民でにぎわい、さらに黒人差別の風潮もいまだ根強いニューオーリンズ。そこでは「アックスマン」と称される謎の殺人鬼が手斧を握り、主にイタリア系の人々を殺していた。ひそかに黒人の妻アネットと暮らす中堅刑事のマイクル・タルボット、長年マフィアのスパイだったが正体が発覚して懲役刑を受け、つい先日出所したばかりの元刑事のルカ・ダンドレア、ピンカートン探偵社の地元支局の娘アイダ・デイヴィスは、それぞれの立場からアックスマンの手掛かりを追うが、やがて彼ら三者がたどり着くのは、思いも寄らぬ事件の実態だった。 20世紀初頭を舞台にした、3人の主人公の視点で交互に語られる時代ミステリ。アックスマンの事件は未解決事件の実話をベースにしたという。 3人の主役の中ではとりわけマイクルの比重が高く、さらにそのマイクルを育てた元先輩ながら彼の手によって捕縛されたルカと警察組織の相関もそれなりに語られる。一口にはジャンルを絞れない厚みのある作品だが、ここではそういった意味で警察小説のカテゴリーに一応、分類した(アイダの捜査は、あくまで民間の私立探偵サイドからのものだが)。 本文470ページ、名前の出てくる登場人物も総勢100名に及ぶ大作だが、複数主人公という趣向を機能させたカットバック式の叙述が効果を上げ、物語はきわめてハイテンポに淀みなく流れる。 その一方で細部のキャラクター描写も手堅く、たとえば元悪徳刑事のルカが随時見せる人間味(冤罪を着せた人間の恨みを買って殺されかけるが、ともに命の危機に瀕するなかで、その相手をつい救ってしまう)とか、当初は卑劣漢に見えた某キャラクターが終盤で見せる意外な男気とか、そういう情感の発露で読者を饗応する小説作りも実にうまい。 差別意識が蔓延した人種のるつぼで、さらに20世紀初頭当時いくども自然災害に晒されたニューオーリンズの市街そのものも、さらにもうひとつの主役ともいう趣で語られる。 くわえて3人の主人公の道筋の絡み方も終盤に至ってちょっとテクニカルな面も見せ、それはもちろんここでは書けないが、最終的には読者の目線で、事件のほぼ全貌が個々の主人公たち以上に見渡せるようになる構成も効果的。 ちなみに題名の意味は、殺人鬼が新聞社に送ってくる文書の中で、なぜかジャズに執着を見せるから。なお筆者は洋楽にはさっぱりうといのだが、作中の登場人物の一部は同時代の伝説的ミュージシャンを想起させるキャラクターらしい。 なおアイダがミステリファン、特にホームズものの愛読者で原典の台詞を引用する叙述も印象的。最後のエピローグ、この時代設定ならではの、ミステリファンにとって感動的な趣向も用意されている。その仕掛けには本気で感涙。 CWA最優秀新人賞受賞作。 |