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ミステリの祭典

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マン島の黄金
ポアロほか、短編集

作家 アガサ・クリスティー
出版日1998年09月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 レッドキング
(2022/05/25 06:01登録)
アガサ・クリスティー第十四短編集。  死後出版の拾遺集といったところらしい。
  「夢の家」 死に至る夢、神秘という病、狂気への狂喜が禍々しいまでに美しく ・・(採点対象外)
  「女優」 恐喝男へのトラップが、読者へのトリックへと側転し・・6点
  「崖縁」 嫉妬と自我理想、抑制と嗜虐、心の地獄の縁を超えてしまった女。(採点対象外) 
  「クリスマスの冒険」 プディングが付いていない分、あの中編よりもタイトに。4点
  「孤独な神」 地味な神像・・日本ならお地蔵さんかな・・に魅せられた孤独な男女の童話。(採点対象外) 
  「マン島の黄金」 これまた「黄金虫」。このてのやつは・・好みの分かれるところかな・・2点
  「壁の中」 画家の男を廻る二人の女。信じ難いまでの献身と、捨身に至る程の支配。(オマケして)7点。
  「光がある間は」 このてのやつは・・どうでもいいや。(採点対象外)
  「クィン氏のティーセット」 短編にちょっとした年代記ぶち込んで、あのトリックネタ付いて・・4点
  「白木蓮の花」 不倫においても妻としての義務においても、嫋やかな倫理を貫いた女。(採点対象外)
  「愛犬の死」 老犬と暮らす困窮極まった女のお伽話。(採点対象外)
大半が採点対象ミステリに「非ず」の作品集。 「夢の家」は「翼の呼ぶ声」に次ぐ程に素晴しい。オマケして全体で6点。

No.3 6点 蟷螂の斧
(2022/01/07 17:15登録)
①夢の家 4点 若干ホラーテイストの恋愛物語。結末が良くない
②名演技 7点 女優が昔のことで強請られるが・・・芝居はお手の物
③崖っぷち 8点 想いを寄せる男が結婚。その妻は不貞を働いている・・・アンソロジー「厭な物語」(文春文庫)のトップバッター
④クリスマスの冒険 5点 プディングからルビーが出てきた・・・「クリスマス・プディングの冒険」の短めヴァージョン
⑤孤独な神さま 6点 ラブロマンスもの。「夢の家」より断然好み。絵に描かれた想い人の表情がいい
⑥マン島の黄金 4点 観光客誘致のために書かれた宝探し懸賞小説
⑦壁の中 8点 画家の絵を決して褒めない女性・・・こんなプロットをよく思いつくものだなと感心
⑧バグダッドの大櫃の謎 8点 パーティの翌日、大櫃の中から死体が・・・「スペイン櫃の秘密」の短めヴァージョン
⑨光が消えぬかぎり 5点 再婚したところ、戦死したはずの前夫が現れて・・・
⑩クィン氏のティー・セット 4点 毒殺を阻止できるか・・・動機、方法、真相がイマイチ
⑪白木蓮の花 4点 駆け落ちをしようとしたら、夫の会社が倒産・・・心理がよく分からん(笑)
⑫愛犬の死 5点 愛犬と暮らすために結婚?・・・愛犬家の気持ちは分らん

No.2 5点 弾十六
(2020/02/21 05:57登録)
While the Light Lasts and Other Stories(1997 英HarperCollins) 9篇収録。 (10)〜(12)の三篇(※付き)は、早川クリスティー文庫での付加作品。
アガサさんの短篇小説で生前のコレクションに含まれなかった作品の集成。
初出順に読んでゆきます。カッコ付き数字は本書収録順。英語タイトルは初出優先です。初出データはwiki情報をFictionMags Indexで補正しました。
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⑵名演技 A Trap for the Unwary (Novel Magazine 1923-5 挿絵Emile Verpilleux) 単行本タイトルThe Actress(こちらが作者のつけた題) 中村 妙子 訳: 評価5点
ポアロもの以外で刊行された(多分)初の短篇。(初期作品を集めたと思われる怪奇小説集『死の猟犬』に初出不明の5篇があるので一応保留) まだまだ作家修行中、流れがちょっと悪い。でも同時期のポアロものよりずっと良い感じ。編集者の後書きは無駄口が過ぎる。(初出誌を書いてはいるが最初期の短篇であることには触れていない) なおNovel MagazineはPearsonのパルプ誌、当時10ペンス(=389円)100ページほどか。
(2020-2-21記載)
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⑷クリスマスの冒険(ポアロ) The Grey Cells of M. Poirot, Series II XII. The Adventure of the Christmas Pudding (Sketch 1923-12-12) 単行本タイトルChristmas Adventure 深町 眞理子 訳: 評価6点
中篇「クリスマス・プディングの冒険」(1960)の元となる作品。時系列は『ゴルフ場』の後、Grey Cellシリーズ24篇の最後の作品。(発表は『呪われた相続人』Magpie1923年クリスマス号が最後か) 今までのシリーズとは文章の調子が変わっている。込み入った筋だが楽しげな雰囲気が良い。
p119 浅黒い肌の、ジプシー風の美少女(her dark, gipsy beauty): やはり「黒髪」だと思います… 眞理子さまも浅黒党?ジプシーなので全体的に浅黒い?
p122 ポアロのヘイスティングズ評: ひどいよ、ポアロ! でも愛情に満ちている。
p127 殺人を仕組んだら?(Let’s get up a murder): これはもしかしてMurder Gameなのか?しかし思いつきのアイディアな感じ。当時Murder Party Gameは一般的な余興ではなかったようだ。(1930年以前の例を依然として捜索中)
p129 執事のグレーヴス(Graves, the butler): バークリーの法則(1925)。1923年発表のセイヤーズとクリスティの作品に現れている、ということは、執事Gravesはその頃に上演された劇の登場人物なのだろうか?
p131 プディングのなかにまぜこんである六ペンス貨その他、さまざまなおまじないの品(sixpences and other matters found in the trifle): クリスマス・プディングの一般的な伝統は、家族の全員がかき混ぜに参加、コインを入れて(最初Farthing銀貨、第一次大戦後は値上がりして3ペンス銀貨、やがて6ペンス銀貨)当たった人には幸運が。他に入れるものとしてBachelor's Button(独身男に当たればもう一年独身)、Spinster's Thimble(独身女性に当たればもう一年独身)、A Ring(独身に当たれば1年内に結婚と富が)などがあるようです。6ペンス銀貨は当時ジョージ五世の肖像、1920年以降は.500 Silver、直径19mm、重さ2.88g、220円。(ところで何故「ガラス」が入っていることに驚き、怒ったのか。上述の通り、何かが入ってるのは当然のことなのに… それに沢山のプディングが用意されていたのはどうして?)
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TVドラマのスーシェ版(1992, 3期9話)は中篇「クリスマス・プディングの冒険」(1960)を元にしているはずなので、その時に観ます。
(2020-3-14記載)
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⑼ 光が消えぬかぎり While the Light Lasts (Novel Magazine 1924-4 挿絵Howard K. Elcock) 中村 妙子 訳: 評価5点
プロットがGiant’s Breadに似ているらしい。
アフリカ(ローデシア)の話。実際にローデシアに行ったときの経験が生かされているのかも。ふと、もしアーチーが… と夢想した感じの作品。でも人生を薄っぺらく捉えている気がする。子供っぽい想像力。
p329 フォード(Ford car)
p331 ロールスロイス(Rolls-Royce cars)
(2022-4-23記載; 2022-4-26修正)
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⑺壁の中 Within a Wall (Royal Magazine 1925-10) 中村 妙子 訳: 評価6点
非常に拙い作文なのだが、何か言葉にならない想いを伝えようとしているような不思議な作品。絵画についての文章などハラハラさせるような恥ずかしいものだし、登場人物の感情の流れなども全く納得がいかない。でも、どんなつもりでこれを書いて発表するつもりになったんだろう?という作者の深層心理が興味深い。愛さえあれば幸せになれる、という初期作品特有のロマンチックな感じがカケラも無い。作者の初期最大の問題作、といって良いだろう。まだ夫アーチーに裏切られておらず、母の死も迎えていない、人生が順風満帆だった頃のアガサさん。実はただの気まぐれな空想から出ただけの単純な作品なのかも。
p256 茶色の習作(a study in brown)
p276 謎々◆ 原文をあげておきます。Within a wall as white as milk, within a curtain soft as silk, bathed in a sea of crystal clear, a golden apple doth appear
(2022-5-5記載)
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⑴夢の家 The House of Dream (Sovereign Magazine 1926-1 挿絵Stanley Lloyd) 中村 妙子 訳: 評価4点
Sovereign MagazineはHutchinsonのパルプ誌、当時1シリング120ページ。
編集者の後書きで、アガサさんが作家になる前に書いた習作に手を入れたものだとわかる。まあそんな作品。(7)も同様なのだろうか。若い頃の不安な想い、という感じは出ているが…
多分、ここらへんの時期は、アガサさんがリテラリイ・エージェントのEdmund Corkと契約した頃なので、作家的可能性を広げよう、という助言があって、こういう様々な作品を試しているのではないか。
(2022-5-14記載)
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(11)※白木蓮の花 Magnolia Blossom (Royal Magazine 1926-3 挿絵Albert Bailey) 中村 妙子 訳: 評価6点
非常に理念的で技巧的な小品だが、自分自身の失踪事件のあと、アガサさんは己の若さ全開の本作に苦笑いしたことだろう。そんな皮肉な作品。そういう意味での面白さを感じた。
(2022-5-14記載)
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⑸孤独な神さま The Lonely God (Royal Magazine 1926-7 挿絵H. Coller) 中村 妙子 訳: 評価4点
作者のつけた題はThe Little Lonely Godだという。自伝ではresult of reading The City of Beautiful Nonsense [Ernest Temple Thurston作1909年]: regrettably sentimental という自己評価。これもデビュー前の習作が元のようだ。
ロマンチックで非現実的なオハナシ。芸術は救いになる、というのがテーマ?とは違うか。
(2022-5-14記載; 2022-5-18追記)
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⑶崖っぷち The Edge (Pearson's Magazine 1927-2) 中村 妙子 訳: 評価8点
カバーストーリーではないが、表紙にAgatha Christie Story Insideと目立つように表示。当然1926年12月の作者失踪事件を当て込んだものだが、内容もその事件を連想させる問題作。激しい感情の荒波が読者をも動揺させる。生前、アガサさんは短篇集への収録を許さなかったようだ。
作中で愛犬が車にはねられるエピソードがあり、作者の愛犬が1926年8月ごろに目の前で交通事故にあったことを想起させる。
(2022-9-17記載)
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(12)※愛犬の死 Next To A Dog (Grand Magazine 1929-9) 中村 妙子 訳
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⑹マン島の黄金 Manx Gold (Daily Dispatch 1930-5-23, 24, 26, 27, 28 5回分載) 中村 妙子 訳
マン島の観光客誘致のために企画された、宝探しの手がかりとなる作品。島に隠された宝は£100(=93万円)入りの嗅ぎタバコ入れ四つ。全話掲載のパンフレットJune in Douglasは旅館や旅行スポットに25万冊ほど配布されたが、たった一冊しか現存しないらしい。
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⑻バグダッド大櫃の謎(ポアロ) The Mystery of the Baghdad Chest (Strand Magazine 1932-1 挿絵Jack M. Faulks) 中村 妙子 訳
中篇「スペイン櫃の謎」(1960)の元となる作品。
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⑽※クィン氏のティー・セット(クィン) The Harlequin Tea Set (George Hardinge編Winter’s Crimes 3, 1971) 小倉 多加志 訳
クィン最後の作品。

No.1 7点 クリスティ再読
(2016/08/15 22:56登録)
本短編集はクリスティ死後に編集された落穂拾いの短編集である。まあこの手の短編集というと好事家向けの域を出ないのが当たり前なのだが...さすがにクリスティ、そんなことはない。それだけでなく「評者的に必読」級短編が2つもあるという結構スゴい短編集だ。ミステリ色の薄い短編でイイのが多い。
必読1「夢の家」。評者は「終わりなき夜に生れつく」が大好きなせいか、あの作品で十分に展開された「夢の家」モチーフがすっごく気になっている。短編「リスタデール卿の謎」とか「親指のうずき」とか、あと「スリーピング・マーダー」もそうだね。どうやらこれがこのモチーフの初出。最初はホラーなんだね。
必読2「クィン氏のティー・セット」。どうやらこれは短編集の最後の作品「道化師の小径」のさらに後の設定の作品である。やはりクィン氏ものはサタスウェイト氏の懐旧のまなざしですべて眺められているからイイんである。まあ犯罪計画が今一つ腑に落ちないけど、サタスウェイト氏の主観描写によるフラッシュバックみたいな効果が生む緊迫感がいい。何十年かぶりにあう旧友宅での、アフタヌーンティの最中に未然に毒殺を防いじゃうという超名探偵ぶり(苦笑)。クィン氏好きだ...「愛の探偵たち」はあまり出来が良くないからなんだけど、なぜ本作が短編集に入らなかったのはホントに不思議(まあ「道化師の小径」はすごくキリのいい作品なんだけどね)。
あと「壁の中」は「愛の旋律」に近いアーチストの私生活をめぐる作品。辛口な良さがある。まあこれはウェストマコット作品として読んだ方が面白かろう。「孤独な神さま」は甘口なラブロマンス。けど男女ともオタっぽいのが何かイイ(これ誰か少女漫画にしないかな)。
ポアロが出る「クリスマスの冒険」「バグダッドの大櫃の謎」は両方とも「クリスマス・プディングの冒険」により長いバージョン(本短編集版が初出でそれを引き延ばしたらしい)が収録されていて、これはそっちのがずっといい。表題作「マン島の黄金」は実際にクリスティが依頼された宝探しパズルのシノプシスみたいな作品。ま、雰囲気は伝わるけど、現地にいかないとパズルにならないから、作品としてはご愛敬くらいのもの。それでも地図とか写真とか載ってると何か盛り上がるよね。この体験が「死者のあやまち」に使われたわけである。

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