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ミステリの祭典

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厚かましいアリバイ
ABC3部作

作家 C・デイリー・キング
出版日2016年05月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 E-BANKER
(2024/05/24 18:05登録)
「海」「空」「鉄路」の“オベリスト三部作”などに続いて発表された長編ミステリー。
NY市警のマイケル・ロード警視と心理学者であるボンズ博士のコンビが連続殺人の謎を解く生粋の本格もの。
1938年の発表。原題は“Arrogant Alibi”

~突如発生した大規模洪水により孤立した村。そのとある館で起こる密室殺人事件。集められた容疑者には全員ほぼ完ぺきなアリバイがあった。エジプト文明もモチーフに取り入れ、デイリーキングが仕掛ける本格推理小説「ABC三部作」の第二弾!~

他の方も書かれてますが、確かに私もヴァン・ダインの「カブト虫殺人事件」を想起させられた。
殺人事件が起こった「館」の中。急遽捜査を行うことになったロード警視の前に、突然現れる二人の人物。二人とも古代エジプト文明の研究者であり、殺人事件が起こったさなかにも、文明の解釈を巡って言い争いをしている・・・
何とも、場違いでのんびりした場面だなーと思わざるを得なかったのだが・・・
それがまさか伏線とはねぇ。
本筋の連続殺人事件と、一見全く無関係のエジプト文明を巡る何やら、それがどういう具合に融合するかは、ぜひ読んでみて味わってもらいたい。
個人的には「うーん・・・」という微妙な味わいなのだが、決して嫌いではない。

そして皆さんが辛い評価をしている「密室」。うーん。これもしょうがないかな。そういう評価で。
作中には「いかにも」という形で館の平面図が何種類か挿入されてるけど、あんまり役に立たなかったなあ。
ロード警視が示したトリックも相当粗いよ。
私も巻末の森英俊氏の解説を興味深く読ませてもらったのだが、まぁ作者なりに読者サービスをふんだんに取り入れたのが「この形」ということなんだろう。
で、タイトルの「厚かましい」なのだが、結局は真犯人自身が「厚かましい」人物という解釈でいいのだろうか?
アリバイが厚かましい、というのはどうにも理解しがたくて(読み落としかもしれないが)、真相解明の際にロード警視が放ったひとことがタイトルとなったということだと個人的に理解。

評価はねぇ・・・。相当好意的にとって、こんなもので。でも決してつまらない作品ではないと思う。(とフォローしておく)

No.3 6点 nukkam
(2017/02/05 06:27登録)
(ネタバレなしです) 1938年に発表されたABC三部作の第2弾で、英語原題は「Arrogant Alibi」です。アリバイ崩しではありますが容疑者全員にアリバイが成立しているので犯人探しの面白さも両立しており終盤のどんでん返しが鮮やかです。このアリバイ、論創社版の巻末解説で紹介されているように「とうてい読者に解明できるとは思えない」のが弱点ではありますが、トリックが「実行不可能では」と思わせた前作の「いい加減な遺骸」(1937年)と比べるとかなり改善されていて、トリック成立のための伏線が(私は十分に理解できませんでしたけど)細か過ぎるぐらいに用意してあります。人並由真さんのご講評で「ほほえましい」と述べられているのに私も賛同します。もし同時代に山村美沙が活躍していたらきっと自作にアイデアを採用しただろうなと想像しました。

No.2 7点 人並由真
(2016/07/06 08:02登録)
(ネタバレなし)
 洪水で混乱する町、ややこしい設計の館での殺人劇、館の亡き主人の遺産の古代エジプトの文化資産、密室、そして主要人物を一覧表で検証する各人のアリバイ……と絢爛たる幕の内弁当のようなクラシックパズラー。
 さらには話に立体的なケレン味を託すためか、ちょっと黎明期ハードボイルド風味での政界の黒幕の顔出し&そのライバルの地方検事とのやりとりなんて糠味噌サービスまで盛り込まれ、とにかく読者を饗応しようとする作者のエンターテイナーぶりに本気で感動した。
 解決が「まぁそっちの方向でのトリックだろうな(でも普通の読者にはわからんよ)」とアレな感じなのは、前作『意外な遺骸』と同様。でもおそらくは、当時の作者が目に付いたか見知ったばかりのネタを、うぉぉおおと猛然と作中に取り込んだような感じが実にほほえましい。(密室の謎の方の真相は、単純にしょぼいけど。)
 個人的には、全体の完成度がどうとか、魅力的な謎の提示に比べてこの解決かぁという、ありきたりの不満はあんまり無い。どんなに勉強してもなかなか優等生になれない学生の、とにかくぎっしりと書き込んだテストの筆述答案が放つようなある種の熱量というか男らしさがこの作品にはある。
 こういうミステリは嫌いになれないよな。

No.1 5点 kanamori
(2016/05/29 13:40登録)
エジプト考古学者の未亡人ヴィクトリアが主催する音楽会に参加するため、彼女の邸宅を訪れたロード警視と友人のポンズ博士らは、休憩中に古代エジプトの短剣で刺殺された未亡人の死体を発見する。さらに、邸に併設された密室状況のエジプト博物館で第2の殺人が--------。

マイケル・ロード警視シリーズの第5弾。オベリスト三部作につづく通称〈ABC三部作〉の2作目にあたる本書は、洪水で孤立した高台の邸宅を舞台に、古代エジプト文明のペダントリーを散りばめたコテコテの館ミステリです。ツタンカーメンの墓の発掘以降、「カブト虫」(ヴァン・ダイン)、「エジプト十字架」(クイーン)と、1930年代の米国で古代エジプト文明をネタにした3作の本格ミステリが書かれているのは興味深いですね。
内容の方は、密室殺人あり、完璧なアリバイあり、ダイイングメッセージあり、邸の見取り図や登場人物のアリバイ一覧分析まで備え、本格ミステリのガジェットが盛りだくさんで興味を持たせるのですが........。解決編が近づくにつれて、読む方のテンションが段々に下がってきましたw
密室トリックの肩透かしはある程度は許容できるにしても、タイトルにあるメインの「アリバイ工作」が現代の読者には、そのシステムが分かりようがないのが致命的で、関係者を集めた真犯人を指摘するシーンでは一応ヒネリを入れてはいるものの、真相にあまりカタルシスを感じないのが残念なところです。

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