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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1606件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.51 7点 ミステリアム- ディーン・クーンツ 2024/07/05 00:31
名作『ウォッチャーズ』のアインシュタインを彷彿とさせる人語を解する知能の高い犬が再び登場するのが本書である。
しかもそれは1匹だけでなく、何頭も登場する。ごく僅かな人間しか知られていない高度な頭脳を有する犬たち、すなわちミステリアムが存在する世界を描いている。

作中、ミステリアムの1匹キップを飼っていたドロシーがこの犬たちについて遺伝子工学の産物ではないかと話すシーンがある。彼女は画期的な実験で生み出された犬が研究所から逃げ出したのではないかと述べる。
『ウォッチャーズ』は知性ある犬アインシュタインの子供たちが生まれ、主人公がそれら遠くへ巣立っていき、そしてアインシュタインの子孫が広がっていくと述べて閉じられることから、このミステリアム達の存在はアインシュタインの子孫たちと思って間違いないだろう。従って本書は『ウォッチャーズ』から33年を経て書かれた続編と捉えることが出来よう。
クーンツはもしかしたらキングが『シャイニング』の続編『ドクター・スリープ』が36年後に書かれたことに触発されて本書を著したのかもしれない。クーンツはいつもキングを意識しているように思えるので。

しかしやはり読書というものは不思議なものだ。今回の敵の1人リー・シャケットは古細菌を取り込んだゆえに超人的な能力を手に入れた人狼になり、人々を次々と噛み殺していくが、この前に読んだ田中芳樹氏の『髑髏城の花嫁』もまた敵の正体は人狼であった。

しかし、幕切れは何とも呆気ない。
その後物語はダイジェスト的にその後のブックマン親子たち仲間の行く末などが語られて閉じられる。これらはなんと560ページ中最後の50ページ強でバタバタと片付けられるのである。

またもやクーンツの悪い癖が出てしまったように感じる。
圧倒的なまでに強大な敵を仕立て上げ、到底敵わないと思わせながら最後は101匹ワンちゃん大襲撃的力技で物語を片付けてしまう強引さ。特に敵の1人ロドチェンコが極度の犬恐怖症だったことで数多くの犬に囲まれて恐怖のあまりに全てを自白することで発覚すると云う低次元の情報漏洩なのだから苦笑せざるを得ない。

今回は題材が良かっただけに本当にこの終わり方は勿体ない。

No.50 4点 これほど昏い場所に- ディーン・クーンツ 2019/03/27 23:50
久々のクーンツ作品訳出である。最後に訳出されたのが2011年に刊行されたフランケンシュタインシリーズだから実に7年ぶりとなる。

長らく途絶えていたクーンツ作品の訳出が2018年になって訳出されたのはまたも新しいシリーズが始まったからだ。FBI捜査官ジェーン・ホークが主人公を務めるクーンツにしては珍しいミステリ仕立ての作品がアメリカで好評だったからによる。

まずクーンツが女性を主人公にしたことが珍しい。シリーズ物のオッド・トーマス然り、フランケンシュタイン然り、今までの作品ではほとんど全て男性が主人公だった。中には印象的なヒロインが登場する作品もあったが、それでもメインは男性だった。
彼がこのジェーン・ホークを主人公にしたのは新機軸でもありつつ、今やヒットチャートもアリアナ・グランデやテイラー・スウィフトといった女性アーティストが席巻する時代である。そんな最近のトレンドもクーンツは盛り込んだのかもしれない。

久々に読んだクーンツは、かつて重厚長大化し、どんどん肥大していく作品傾向にあった2000年代頃に比べて、いわゆるグダグダとした説教的な話が少なくなり、物語展開がスピーディになったことが特徴的だ。特に短い章立てで次から次へと場面転換が行われるのは今までにない特徴と云えよう。3ページだけの章は当たり前で1ページも満たない章もいくつか散見される。

主人公ジェーン・ホークが立ち向かうのは全米で起きている不可解な自殺事件。
ある日突然普通の生活をしていた人々が突発的に自殺を行う不審死が相次いでいることにジェーンは気付く。そして彼女の夫もまたその中の1人だった。更にそれを調べていくうちに全米で自殺率が年々上昇していることが明らかになっていく。そしてそれらの自殺がある天才たちによって引き起こされていることが判明する。しかしその相手は大富豪とノーベル賞候補の大科学者の2人でしかも彼らの息は政府機関や各方面に掛かっており、しかもウェブで常に監視され、少しでも検索しようものならすぐに嗅ぎつけて追跡してくる。しかも彼女の所属するFBIにも息の掛かった人物がいるらしい。
と、相変わらずクーンツは主人公を絶望的な八方塞がり状態に陥れる。

クーンツ作品はどうやっても勝てないだろうと思われる巨大な敵をまず設定し、徐々に主人公に迫りくるその包囲網だったり、圧倒的な強さを持つ敵と絶望的とも思える対決を強いられるパターンが多く、そんな相手にどうやって主人公は立ち向かうのだろうかと読者はドキドキハラハラさせられるわけだが、その割には決着の付け方が淡白で今までの無敵感を誇っていた強さは一体何だったのかと肩透かしを食らう結末は少なくなかった。
その問題の欠点は改善されたかと期待したが、残念ながらそれはなかったというのが率直な感想だ。
やはりクーンツは設定作りは上手いが、物語の畳み方が下手であることを再認識させられるだけになってしまった。

ただ本書はまだイントロダクションといったところか。ジェーンが全米で起きる不可解な自殺事件という陰謀に加担している大富豪デイヴィッド・ジェームズ・マイケルは無傷のままであり、対峙すらしていない。

さて本書でジェーンが疑惑を抱くアメリカの自殺率の上昇は実は本書のために作られた話ではなく、どうやら本当のことのようだ。半分の州で自殺率は30%までにも上っており、ノースダコタ州ではなんと57%も増加したらしい。
音楽業界を再び例に挙げて恐縮だが、確かに2017年にクリス・コーネルが突然自殺し、その後を追うようにリンキン・パークのヴォーカル、チェスター・ベニントンも自殺したのは実にショッキングな出来事だった。
そんな不穏な空気に包まれたアメリカの現状から恐らくクーンツは一連の自殺が何らかの陰謀によって引き起こされているという本書の設定の着想を得たと思われる。

ただ私は何となく本書の内容に乗り切れなかった。短い章立てで進むストーリーはそれがゆえに没入度を低下させ、目まぐるしく切り替わる場面転換にしばしば読み辛さを感じた。
これは全く以て私の憶測だが、昨今SNSでツイッターやフェイスブックなど短いコメントを挙げる風潮があるために、小説に関しても極力短い章立てで読ませることをもしかしたら作者は意識したのかもしれない。

ジェーンは最後2件の殺人を犯した不正なFBI捜査官と報じられ、指名手配されたことを知る。今後ジェーンは一人息子のことを思いながら巧みに変装をし続けて標的であるデイヴィッド・マイケルを目指す。
ほとんど全てのアメリカ人を敵に回して少しの理解者と共に立ち向かう今後はもっとスリリングでじっくり読ませる内容であってほしい。

No.49 5点 フランケンシュタイン 対決- ディーン・クーンツ 2011/10/13 21:59
これまで3巻に亘って引っ張ってきた割にはヴィクターとの対決は非常に呆気なく、その死に様も200年以上も生き、人類の歴史の影に暗躍し、そして実業家ヴィクター・ヘリオスとして名を馳せていた宿敵の末路にしては実に情けないものとなった。
巻を重ねるごとに量子理論を理解し、どんな空間でもあっという間に瞬間移動でき、人間離れした怪力を誇るデュカリオンという善玉自体がどんどん完全無欠の存在となるにつれ、敵役で強大な資金と新人種という軍勢と頭脳を誇っていたヴィクターが反比例して弱小化していったのだから、最後の対決となった本書においてはほとんど相手にならなかったといっていいだろう。さらに当初は主人公だと思われたカースン・オコナーとマイクル・マディスンの警察コンビもデュカリオンの個性の前にどんどん色褪せてしまい、活躍の場をほとんど奪われてしまう。
このたくさん紡がれたエピソードの山を上手く処理できずに力技で強引に大きく広げた風呂敷を畳んでしまうのが最近のクーンツ作品の欠点だ。

結局はレプリカントや新人種といったフリークたちをたくさん出したかったのだろう。そう、このシリーズはクーンツのクーンツによるフリークショーなんだな。

No.48 7点 フランケンシュタイン 支配- ディーン・クーンツ 2011/06/19 21:48
クーンツ版フランケン・シュタインシリーズ第2弾。実は最近のクーンツ作品ではとびきりに面白い作品だと感じ、新刊が出るのを愉しみにしていた。

ところどころに挿入される小ネタも面白く、その中の1つに登場人物の口から古今東西の小説の名前が出てくる点が非常に楽しく感じた。例えば前作で読書好きのヴィクターの妻エリカ4に後妻として登場するエリカ5が秘密の培養室に潜り込むときには少女探偵ナンシー・ドルーのように云いながら、いやノラのように勇ましいと訂正する。前者は恐らく日本の読者でも知っているだろうが、後者は「?」が点灯することだろう。実は私もピンと来なかった。なんとノラとはハメットの『影なき男』に登場する私立探偵ニック・チャールズの妻なのだ。なんともマニアックな選択だ。既読の私でさえ思い出せなかった。
他にもデュカリオンの相棒である映画館オーナーのジェリー・ビッグズがミステリ好きであり、自身の好みを開陳する。曰く
「刑事が先住民だったり半身不随だったり、強迫神経症だったりする話は好きじゃないんだ。それに探偵が料理上手なのも」
それぞれ該当するシリーズが思いつくのではないだろうか。思わずニヤリとしてしまうシーンだ。

レプリカント、新人種の生みの親ヴィクターの制御が徐々に崩壊し、カタストロフィへ向けて様々な事象が描かれる。そしてとうとうヴィクターと対面したデュカリオンはどう彼に対抗するのか。色んな謎や不吉な予感を孕みつつ物語は閉じられた。一刻も早い次巻の刊行を望む。枯れてもクーンツと思わせる次が気になる作品だ。

No.47 8点 フランケンシュタイン 野望- ディーン・クーンツ 2011/03/19 20:35
クーンツの手によるフランケンシュタイン譚。メアリー・シェリーのオリジナルをリメイクするのではなく、彼女が生み出したフランケンシュタインが実は現実の産物であり、その人造人間、そして創造主であるフランケンシュタイン博士が今なお21世紀の世に生きているというパスティーシュになっている。
正直に云って、最初は全く期待していなかった。今更フランケンシュタイン?クーンツも他の作家からアイデアを拝借するなんて衰えたか?そんな侮りめいた先入観を抱いたが、読後の今、己の不明を恥じる思いで一杯だ。
これは面白い!最近読んだクーンツで面白かったのはオッド・トーマスシリーズの第1作だったが、本書はそれに次ぐ面白さと云えるだろう。

全くノーマークだった本書が予想外に面白かったのは収穫だ。
クーンツ未だに枯れず。
版元には一刻も早く次作の訳出を願う。

No.46 7点 オッド・トーマスの予知夢- ディーン・クーンツ 2011/01/22 21:53
オッド・トーマスシリーズ4作目の本書はなんとエスピオナージュ。田舎町を牛耳る警察署長と港湾局の職員との軋轢。閉鎖されたムラ社会における一人のストレンジャーという図式に、来たるべき災厄を予知夢で察したオッドが奮闘する。

このシリーズの売りはオッドの霊が見える能力で、いつも早いページの段階で霊が登場していたのだが、今回は181ページ目でようやく出てくる。しかも定番の災厄の象徴ボダッハは一切現れないという異色さ。予知夢で大惨事が起こりうることを知りながら、なぜボダッハが現れないのか不思議でならなかったが、その理由についても作者はすでに準備済みだった。その内容については本書を当たられたい。

今回のベストキャラクターは元映画俳優のハッチことローレンス・ハッチスンとフランク・シナトラ。こういうキャラが出てくるなんて、クーンツはまだ枯れないなぁ。

解説の瀬名氏によれば本書以降、オッドシリーズは書かれていないとのこと。このまま棚上げにするにはなんとも割り切れなさが残る。いつかまたクーンツがシリーズ再開することを切に願おう。

No.45 7点 ヴェロシティ- ディーン・クーンツ 2010/11/24 21:28
久々のクーンツのスピード感と畳み掛けるサスペンスが冴え渡る良作だ。本書はクーンツの数ある作品の中で1つのジャンルを形成している“巻き込まれ型ジェットコースターサスペンス”の1つだ。

今まではとにかく訳が判らなくて命を狙われるという展開だったが、本書の主人公、突然の災禍の被害者ビリーの場合は、自身に被害が及ぶのではなく、警察に連絡するか、もしくはしなくても誰かが殺されるという脅迫を受けるのだ。つまり問われるのはビリーの良心なのだ。

さらに正体の解らぬ犯人が勝手に連続して殺しを行うだけでなく、全てがビリーを犯人だと示唆するかのように偽造証拠を残し、さらに犠牲者とビリーとの関係性が徐々に狭まっているところが恐ろしい。

クーンツに興味を持った読者が取っ掛かりとして読むにはバランス的にちょうどいい作品だろう。本書の物語のサスペンスの高さと長さ(総ページ数600ページ弱で上下巻なのが納得しかねるが)はお勧めだ。クーンツ作品のスピード感(ヴェロシティ)を是非とも感じていただきたい。

No.44 7点 オッド・トーマスの救済- ディーン・クーンツ 2010/05/23 23:09
前回の事件の後、オッドは元恋人ストーミーの伯父が司祭を務めるシエラネヴァダ山脈にあるセント・バーソロミュー大修道院に住み込むようになる。本書はそこでオッドが遭遇した怪事件について書かれている。

内容的にはクーンツ得意のモンスターパニック系ホラーなのだが、それにサプライズを加味している。
とはいえ、冷静に考えるとこれはバカミスである。クーンツしか思いつかないようなトンデモ系真相なのだ。

あとひとつ要求したいのは舞台となる修道院の見取り図。どこをどう歩いているのかが非常に解りにくい。これは出版社の怠慢だろう。というか、出版社側も解らなかったのかもしれない。

No.43 6点 一年でいちばん暗い夕暮れに- ディーン・クーンツ 2010/03/17 18:44
クーンツの犬好きは非常に有名だが、とうとう犬をテーマに小説を著したのが本書。何しろ主人公はエイミー・レッドウィングといい、<ゴールデン・ハート>というドッグ・レスキューを経営しているのだ。このドッグ・レスキューとは、その名のとおり、ペット虐待が日常化している家庭などで育てられている犬を買い取ったり、繁殖犬として劣悪な環境で育てられ、生殖機能を酷使され、人間の愛情すら受け付けられなくなった犬を保護したりする職業だ。このような仕事が実在するのか、はたまた犬好きのクーンツの生み出した願望の産物なのか、寡聞にして知らないが。

ペット虐待と幼児虐待をテーマの主軸として、今回も狂える大人が敵として現れるのだが、徐々に盛り上げていった割にはその対決は呆気ない。
あと謎めいた存在を醸し出すゴールデン・レトリーバーのニッキーの謎が最後まで明かされないのも消化不足気味。

No.42 7点 オッド・トーマスの受難- ディーン・クーンツ 2010/02/15 23:45
今回オッドが対峙する敵はダチュラという名のテレフォンセックス業者。オッドを殺し、その血肉を得ることで自ら霊視能力者になるという妄想を抱いたダチュラは、なんだかコミック物の悪役そのものである。どうやらクーンツは初のシリーズでアメコミ物に挑戦しているように思える。

オッドが捜している人や物に引き寄せられるように目的へ達するシックス・センスを持っているのも大きな特徴だが、今回はその能力を逆手に取ってスリリングを増しているのが素晴らしい。

とにかく全編自虐的なまでのオッドの自戒の念に覆われている。それ故、最後に至ったオッドの選択はなかなかに興味深い。

No.41 10点 オッド・トーマスの霊感- ディーン・クーンツ 2010/02/14 22:28
死者が見えるという特殊能力を持った青年オッド・トーマスの物語。
よくよく考えるとクーンツ唯一のシリーズ物か。

最近のクーンツ作品に見られる主人公オッドの饒舌振りには辟易するものの、本書は非常に素晴らしい仕掛けと物語性に溢れている。
従来のクーンツ作品の定型を打ち崩したゆえの傑作となった作品だと云えるだろう。

あれこれ云うよりもここは単純に、オッド・トーマス、君に幸あれ。思わず読後、こう声を掛けたくなる作品だと一言云っておこう。

No.40 9点 善良な男- ディーン・クーンツ 2010/02/14 00:52
真相は陳腐といえば陳腐だが、今回は悪役クライト含め、主人公、ヒロインのキャラが際立っていた。
それに加え、最後に明かされる主人公の秘密が『ウォッチャーズ』以来の感動を私に与えてくれた。
これについては多分他の人は、「それほどかぁ?」と思うだろうが、私には強烈に胸に響いてしまった。
昨今のクーンツ作品の中では快作だ。

No.39 7点 チックタック- ディーン・クーンツ 2010/02/13 00:54
とにかく今回の作品は、いきなりクライマックスから始まる。今までのクーンツ作品と違い、今回はなぜトミーの許に呪術を施されたような人形が送りつけられ、彼を襲うのか、その経緯がまったく解らないまま、最終章の前章まで逃亡劇・闘争劇が続く。
訳が解らない物ほど怖い物はないということだろうか、今回のテーマは。

そして下巻の最後の辺りで明かされる化け物の正体がなんとも腰砕けな内容だ。

昨今のクーンツ作品では、こういった地球外生命体や神の恩恵を受けた者といった、人智を超越した存在を登場人物に配している設定がやけに見られる。これはクーンツが現代社会に絶望を抱いており、もはやこの状況を打破するには救世主が必要だと訴えているのかもしれない。

ところで作中、日本人は毎日豆腐を食べるから前立腺癌の発症率が低いという叙述があるが、本当だろうか?

No.38 7点 対決の刻- ディーン・クーンツ 2010/02/11 21:54
とにかく苦痛の強いられる読書だった。途中何度も投げ出そうと思った。プロットに比べその書き込みの量ゆえに物語の進行が途轍もなく遅い本書はクーンツ作品には珍しく疾走感を欠いている。

今回は『ドラゴン・ティアーズ』でサブテーマとして語られていた“狂気の90年代”という、本来抱くべき近親者への愛情が個人の欲望の強さに歪められ、異常な行動を起こす精神を病んだ人々が主題となっている。つまり本書で語られるのが全編胸の悪くなる異常な話ばかりだ。

上下巻1,130ページも費やして語られる物語は至極簡単な物で、70%は長ったらしい主張で埋められているかのようだ。しかも1つの物語は決着がつかないままだ。

こういう説教事で埋め尽くされた作品を読むと、今後のクーンツはどの方向に進むのか不安でならない。

No.37 7点 ハズバンド- ディーン・クーンツ 2010/02/10 22:34
いつもと変らぬ日が続くものと思っていた矢先の突然の異常事態。今回のクーンツは怪物が登場するわけでもない、超能力を持った人間が出るわけでもなく、妻の誘拐という日常を襲う突然の凶事をテーマにしているので、逆にいつも以上に逼迫感があった。

主人公ミッチェルはどんどんのっぴきならない状況に陥り、窮地に追い詰められながらも、常に物語はハッピーエンドに締めるのがクーンツの特徴なのだが、今回はその物語の収束の仕方があからさまに唐突だったのにビックリした。

そして今作品のタイトル『ハズバンド』に込められているのは、妻が愛の誓いを立てた者は夫のみなのだという思いだ。これは結婚式によくある誓いの言葉なのだが、これを単なる台詞でなく、主人公の行動の原動力としているところがすごい。あんな常套句を元にこういう物語を考えるのだから、それはそれでクーンツの非凡なところなんだろうけど。
とどのつまり、ひっくり返せば本作においては愛の名の下では、何をやっても許されるのだと開き直っている感じがしないでもない。だから最後に物語を剛腕でねじ伏せたのか。それともこれはクーンツが実の妻に宛てたラヴレターの一種なのか。う~ん、変に勘ぐってしまうなぁ。

No.36 8点 ドラゴン・ティアーズ- ディーン・クーンツ 2010/02/09 22:03
なんともまあ、クーンツはとんでもない恐怖を考え出したものだ。
最初は身長2メートルを超える巨大な浮浪者。そいつが忽然と現れ、抗いようの無い膂力で獲物を嬲り殺す。もちろん銃も効かない。
その後は無数の蛇の大群。どさどさっと部屋中を埋め尽くすその有様は、想像するだに恐ろしい。
そして手に汗握る<一時停止>のゲーム。時間の流れをものすごく緩慢にし、ハリーとコニーだけを獲物に命を賭けた鬼ごっこが始まるのである。

90年代以降のクーンツの作品に特徴的に見られるのがこの“時間”を使った能力者が出てくること。それは今回のように実際に時間を停めるだけでなく、催眠術を使って、時間を忘れさせる恐怖、次元の歪みに入り込んで、実世界の時間軸とは違う世界を出入りする能力など、ヴァリエーションは様々だ。

そして本作の影の主役が犬のウーファー。犬好きのクーンツがまさに犬の気持ちになって第一人称で語るそれは、なかなか面白い。一種、着地不可能と思われた本作がどうにか無事に着陸できたのも、このウーファーの御蔭だ。物語の設定としてはギリギリOKとしよう。

No.35 2点 トワイライト・アイズ- ディーン・クーンツ 2010/02/06 23:26
物語はゴブリンを見分ける特殊な眼を持つ主人公スリムの一人称で語られるのだが、これが17歳の言葉とは思えないほど、格式張っており、しかも回りくどい表現が多くて、かなり疲れた。作者としてはイメージ喚起を促したつもりだろうが、読み手の方としては感情移入を許さない文体だなと思うことしばしばで、なかなかのめりこめなかった。

そしてやっぱりやってくれたよ、クーンツは。
上下巻合わせて770ページあまりを費やして最終的に物語を放り出してしまった。
色々散りばめたキャラクターたちは絡むことなく、放りっぱなし。
しかもあれほどゴブリンを全滅させるのにこだわった主人公がなにか吹っ切れたかのようにゴブリン退治を諦めるのだ。この180度転換した意趣変更は正直面食らった。作者は炭坑で繰り広げられる洞窟探検譚に似た襲撃場面に筆とエネルギーを費やしすぎて燃え尽きてしまったのだろう。

No.34 6点 サイレント・アイズ- ディーン・クーンツ 2010/02/04 21:50
本作品ほど、クーンツは傑作を物するのに仕損じたと大いに感じたことはない。

クーンツの長所として

①ページを繰る手を休ませない物語の展開の早さ
②読者を退屈させない斬新なアイデアの数々
③どんなに窮地に陥ってもハッピーエンドに終わる

という3点が挙げられるが、今回はこのうち③を特化して物語を閉じればかなりの傑作になったのではないだろうか?なぜテーマを1本に絞れなかったのか?

やはり西洋人の作家だなあと感じたのはジュニアが寝言で知りもしないバーソロミューの名を連呼することに対する答えを論理的に用意していたというところ。恐らく日本のホラー作家ならば説明のつかない超常現象めいたことを種にするだろうが、クーンツはしっかりとその理由についても論理的に用意していたのが興味深かった。

正直な話、今回は物語がどのような展開を見せるのかが全然検討がつかなく、これがページを繰る手を止まらせないといったようないい方向に向かえば文句なしなのだが、迷走する様を見せつけられているようにしか受け取れなく、何度も本を置こうと思った。
1965年から2000年にかけてのバーソロミューの半生を描くサーガという趣向なのは解るけれども1,200ページ以上をかけて語るべき話でもなかったというのは確か。最後の最後でじわっとさせられるものがあったけれども終わりよければ全て良しとはいかず、やはりそれまでが非常にまどろこしかった。クーンツ特有の勿体振った小説作法がマイナスに出てしまった。

No.33 3点 汚辱のゲーム- ディーン・クーンツ 2010/02/03 21:55
長い!長過ぎる!!全てにおいて冗漫でしょう!!
しかもクーンツ特有のどうしてそんな風になったのかを後々になって明らかにする引っ張り手法を用いているものだから、何がなんやらで、もうどうにでもなれって感じになってしまった。
上下巻合わせて1,100ページ余りで語るべき話ではないのではないか?あまりにも肉付けが多すぎて推敲がされていないように思われる。この内容だと恐らく半分は削れるだろう。小説の長大化を決して厭うわけではないが長大な話にはそれ相応のスケールの大きさがあるのに対し、今回はただ単純に登場人物が多く、それら一人一人を不必要なまでに描いた、これだけのような気がする。

No.32 7点 嵐の夜- ディーン・クーンツ 2010/02/02 23:49
5編の長短編が含まれた作品集。
「ハードシェル」はクーンツお得意の異形物サスペンス。今回はこの主人公も実は宇宙人だった(しかも敵よりもかなり優れた!!)という内容。読んでいる途中で解ったから驚きはなかったが、敵を倒す方法がアイデアとして優れている。

次に「子猫たち」は奇妙な味の短編とでも云おうか。正直、最後のオチはよう解りません。

「嵐の夜」はこれまたSF。しかしこれは設定が非常に優れている。ロボットが地球の最高知能生存者として生活する未来。二世紀を寿命として作られているため、非常に頑丈でスリルを味わうのを何よりも欲している。そんなロボット達が従来得ている能力を最小限のものとし、山中へ狩に出た際に遭遇する最強の獣“人間”。しかしクーンツは最後までこの“人間”を今ある人間として描かない。だからこれは実は猿かもしれないし、実は宇宙人かもしれない。そんな得体の知れない物として描いたまま終わる。自分としてはこれがベスト。

作者お気に入りの「黎明」は実は各評論でも評価が高いもの。無神論に固執する父親が最愛の妻と息子を亡くす話。そういう過程を経て最後に神はいるという結論に達するのだが、そのあまりにも無神論を妄執するこの父親像がクーンツ作品らしくかなりしつこく、ねっとりした粘着感を備えている。思っていたよりも後味がすっきりしなかったせいか、私としてはさほどいいとは思えなかった。

最後は長編『夜の終わりに』の改稿版「チェイス」。数ある初期作品の中でこの作品を改稿する物として選んだ動機は最後のあとがきに詳しいが、それを読んでも何故この作品を?という疑問は拭えなかった。

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